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私の箱入り紀行録  作者: raira421
第1章 旅の始まり
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1-9 ただいま、そして...


 お屋敷に入ると、神妙な面持ちをしたお父様が待ち構えていた。

 「おかえり、サブレ」

 いつもと同じような口調をしているものの、その声は低い。

 口調と音程のギャップがなんだか不気味だわ……。


 私はお父様の顔を見たくなくて、俯いた。 

 「その、お父様……ごめんなさい。勝手に飛び出したりして……」


 なんて言われるかしら……。


 「こちらこそすまなかった」

 「えっ?」

 想定外の言葉に変な声が出てしまった。

 「どうやら、俺はお前のことを見くびっていた様だ。

 お前は……いつの間にか、俺が思っていた以上に大人になっていたのだな」

 お父様は一つ一つの言葉を確認するかの様にゆっくりと言った。

 

 「俺もそろそろ子離れの時だ」

 そう言ったお父様の目が少し潤んだように見えた。

 

 そして、お父様は何かを決意したように深く息を吸い込むと、言った。

「……お前が、旅に出ることを許そう。かわいい子には旅をさせろとも言うしな!」

 

 その時、お父様が何を考えていたのか私にはわからなかった。

 ただ、いまにもあふれんばかりの涙を必死に我慢して、うるうる笑っているお父様の顔はいつまでも忘れられなかった。


 「ありがとう! お父様」

 私はお父様に抱き着いた。

 お父様の大きな体は温かかった。私の胸は熱かった。


 「ただし、条件がある」

 お父様は私を胸から優しくはがしながら言った。

 「わかっているだろうが、お前はまだまだ未熟だ。

 だから……」


だから?


な、何を言われるのかしら……


胸がやけにどきどきした。


 「シナモン、貴殿もサブレの旅に同行願おう!」

 お父様の指がピシッとシナモン先生を指した。

 シナモン先生は静かに微笑んだ。

 「ええ。喜んでそうさせていただきます」


 シナモン先生と、一緒に旅できるなんて夢みたいだわ!


 シナモン先生が膝まづいて私の手をとる。

 自分の顔が赤くなる感覚がした。

 さっきとは比べ物にならない胸がどきどきしている。


 ああっ! 右手だけを宝箱に入れて保存したい気分だわ‼


 「お嬢様、これからもよろしくお願いします」

 「はい!こちらこそ、そうさせていただきますわ!」

 上擦った声が喉の奥からとびだしてきた。

 その声を聞いたシナモン先生は静かに微笑んだ。


 こうして、私とシナモン先生は旅に出ることになった。


 今日は最高の誕生日だわ!




 

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