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第二話 その狐はマヨヒガにて

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寒い

痛い

真っ暗な空間の中で、もがき苦しむ一匹の少女。助けを求めるように手を伸ばすも、その手を掴んでくれる者はいない。そしてそのまま、ずるずると深い深い闇の中へ堕ちて…


「っ!!!!」

少女は布団を跳ね飛ばし、汗だくの体を起こし目を覚ました。

「…夢?」

少女は息を切らし、再び布団に倒れ込んだ。

「この手は…?」

ゆっくりと手を掲げる。そこにはいつもの見慣れた手ではない、人間の手があった。

「…なにこれ」

その手で左目の周りを触れる。()()()()目も見えなくなっている。

「ここはどこ?」

誰かの家だろうか。見慣れぬ天井に美しい襖に障子。金持ちの人間の家にでも拾われたのだろうか。

「あら、目が覚めたのね」

「っ!!」

びくん、と体が布団から跳ね飛び上がった。しかし、思ったように体に力が入らずぐらりとバランスを崩してしまう。

「あっ」

しかし、床の畳に衝突する前にその白虎の体は止まった。

「まだ病み上がりなんだから、急に動くのは止めなさい。…まあ驚かせたのは私なんだけど」

スキマを使って白虎の背後から現れた紫は苦笑を浮かべた。動物的本能だろうか、まさかここまで驚かれるとは思っていなかったらしい。

「とりあえず、ご飯でも食べましょう」

紫はスキマから小さな鍋と茶碗、そして匙を取り出し鍋の蓋を開けた。

「…わぁ」

白い煙がもうもうと現れる。その光景に白虎は思わず息を飲んだ。

「はい、熱いから気をつけるのよ」

鍋の中の粥を紫は茶碗によそい、白虎に手渡した。しかし、白虎は茶碗を受け取るも首を傾げ、鼻を近ずけて中の粥の匂いを嗅ぎ始めた。

「あちゃ、そうだったわね。…でもそこからかぁ」

紫は頭をかいた。白虎に匙の使い方が分かるわけが無い。

紫は微笑を浮かべ、白虎から茶碗を受け取り匙で粥を掬い、ふーふーと息を吹きかけ気持ち程度に冷ました。

「はい、あーん」

「…?あ、あーん」

紫が口を開けて見せたので白虎もそれを見て口を大きく開けた。白虎は口の中へ運ばれた匙に乗っている粥を口に含みもぐもぐと咀嚼を始めた。

「…!!」

そして数秒後。白虎は目を見開いた。

決して粥が美味いという訳では無いだろう。決して。芯は残っているし水加減が雑でべちょべちょだ。なんなら米もしっかり洗っていないのではないか、若干黄みがかってしまっている。しかし、そんな粥をもぐもぐと頬を膨らませて食べる白虎。

何故だ。

「あまい…」

「なら良かったわ」

ふふ、と扇子を広げて満足そうな顔を浮かべる紫。常識人なら食べることすらしないと思うが。

「自分で食べてみる?」

「…」

紫から茶碗と匙を受け取り、白虎は茶碗と紫の顔を交互に見比べた。

しかし、紫が何を言わないのを見て白虎は見よう見まねで匙を持ち粥を口の中へと運んだ。

「っ」

匙が歯に当たったりと、色々とハプニングがあったがなんとか粥を口へ運ぶことが出来た。

「…」

無言で咀嚼する白虎。それを見て紫は微笑みを浮かべた。

「焦らなくても無くならないわよ。…あ、そうそう」

紫はストンと足をたたみ、白虎の隣に正座を組んだ。

「あなたに名前をつけてあげようかと思って」

「…名前?」

「そう、そしてもうそれは考えているのよ」

紫はパチンと扇子を閉じた。

「あなたは、今日から(りん)。そしてあなたは私、八雲紫(やくもゆかり)の式神」

「鈴…」

白虎、いや鈴はその与えられた名を噛み締めるようにして何度も何度も呟いた。

「あり、がとう?」

「ええ、どういたしまして。これからよろしくね、鈴」

「うん、紫」

「こら、式神が主にタメ口で口を聞くんじゃないわ」

紫は苦笑しながら閉じた扇子で鈴の頭を軽く叩いた。

「すぐに、とは言わないわ。けどゆっくり式神としての役目はこなしてもらうからね」

「は、はい…?」

「よろしい」

満足気な笑みを浮かべる紫だった。

紫自身、すぐに鈴を式神としての役目をさせるつもりは無いのだろう。ついこないだまで白虎だった鈴にあれしろこれしろ言う方がおかしい。

まぁ、紫が鈴を式神にした訳。それもいろいろと関わってくるのだが、それはまたのお話。



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