聖☆お兄ちゃん
立川とは何の関係もありません。
イエス=キリストはこうおっしゃった。
「汝の妹を愛せ」
そして世界は、妹への愛であふれたのだった……
やぁ、諸君。俺だ。
京香に振られてから、俺は余裕を持って、
襲ってくる京香の相手をする事ができるようになった。
だって、俺の童貞を狙ってるわけじゃないって、はっきりしたからな。
やっぱり妹だし、兄をからかいたい気持ちもあるだろう。
俺は別にもう逃げないぞ。思いっきり甘えてくれ。
俺もお前が元気だとうれしいから。
はっはっは。仏の心だ。あいむほとけ。
*
そう思っていた時期が私にもありました。
京香はあれから、俺の事を避けるようになった。
話しかけても目をそらすし、一緒にご飯を食べてても喋らない。
風呂や俺の部屋に突撃してくる事もなくなったし、
俺が家を出る時も、声もかけてくれなくなった。
しばらく、そんな日々が続いてさ。
変なことを言ったから、嫌われたんだろうって思ってな、
俺は京香に聞いてみたんだ。
「俺のこと嫌いになったか?」って。
別に兄離れは悪いことじゃないしさ。覚悟はしてた。
でも京香は、それを否定したんだよ。
「お、お兄ちゃんの事嫌いになったんじゃなくて……
私の、問題だから」
なんか目が泳いでたんだよな。
返答もぎこちなかった。
それに、いつもはハキハキ元気に喋ってたのに、
なんだか最近家の中で元気がないんだよな。
前にいってた、「好きな人」となんかあったのかな。
相談を聞こうにも、あいつは目も合わせてくれないから
正直、困ってる。
どれくらい困ってるかというと、
ユダに裏切られたキリストくらい。めっちゃ困ってる。
まじ十字架。
「……って、訳なんだ。玲菜。」
「なるほどね。
自分から好意があるか聞いた事はいいと思うわよ」
いつもの食堂。
俺は玲菜に連絡を取って、
あれから様子がおかしい京香の事を相談していた。
この昼過ぎの時間帯は人もまばらで、
誰かに聞かれる心配がないのもあり、
俺たちはゆっくり考える事ができた。
「とりあえず、話を聞いた感想としてはどうだ?」
「うーん、どうやらあんたを嫌ってる訳じゃなさそうね」
「本当か?」
「たぶん」
俺は首をかしげた。
たしかに京香の言うとおりであればそうだが……。
困っている俺を見て、玲菜がそう考えた理由を話し出した。
「なんで私がそう断言するかっていうとね、
女っていう生き物は、嫌いな異性には嫌悪感むき出しなのよ。
これはそうそう隠せるものじゃないの。」
当たり前のようにそう言う玲菜に俺は戦慄した。
やっぱり女って怖い。
でも、そういわれてみれば京香にそんなオーラはないな。
「あんたの話を聞くと、京香ちゃんは嫌悪感むき出しではなさそうだから、
きっと他に落ち込んでいる理由があるのね」
「ふむふむ。確かにそうかもしれないな」
わかりやすい説明に一旦は納得した俺だったが、
すぐ、次の疑問が頭に浮かんだ。
「じゃあ、京香が落ち込んでる理由ってなんだろう?」
「うーん、そこよね」
そこが大事なのよ、と玲菜は強調した。
すぐにはお互い思いつかなかったので、
二人でじっくり頭をひねる。
が、説得力のある答えはなかなか見つからない。
「やっぱり、あんたが言ってたように好きな人関係かもね」
「そうか……うーん」
「シスコンだから妹を取られちゃうのが怖い?」
「違いますぅ。あいつに彼氏を用意する為に
一生懸命頑張ってたんですぅ」
「はあ。やっぱあんた、馬鹿アホ間抜けおたんこなすすっとこどっこいね」
「おい、懐かしいネタだなおい」
そうやってギャーギャー騒ぎつつ、その後も俺たちは話しあった。
だが、一向に結論は出ない。不毛である。
気がつくと外はもう、夕焼けのオレンジ色に染まっていた。
「仕方ないから一旦帰るか」
「そうね、また明日」
「おう」
そう挨拶をして俺たちは食堂で別れた。
暖かい日差しを感じながら、小鳥のさえずる声を聞き
穏やかな気持ちになって校門を出た。
さて……家に帰るか。
俺は家の中のきまずい空気を覚悟して、家への道を歩き出した。