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カードゲームは衰退しました

ちょっと短めです。

「いや、俺そういうのいいんで」


バキッ。


俺は素早くスマホを叩き割った。

すまん。中二アレルギーでつい。


「ちょ、ちょっとまt」


バキバキになったスマホから、オリ何とかさんが叫ぶ声が聞こえる。

世界を救ってくれー、だの何だの。

申し訳ないが、その役目は他の人に一旦パスだな。スマホバキバキだし。


俺は何か別のもので気晴らしをしようと、本棚をあさり始めた。








だめだ。

京香のことがやっぱり気になって仕方がない。

どうしても考えてしまうんだ。


やっぱり逃げちゃだめだ、ってことなんだろうな。


……今まで、京香が襲ってくるのを「からかい」だと

思って適当にあしらってた。

でも、よく考えてみれば京香は好きでもない相手に迫ったりするような、

悪ふざけが好きな奴じゃなかった。

あいつはちょっと不器用だけど、真面目な奴だ。


正直、異性として好かれている実感がわかない。

京香の口から「好き」って言葉が出たことは何度もあったが、

実際に、真剣に告白されたことは無かったからだ。


そういえば、好きな人の事を話す時、あいつは少し寂しそうな顔をしてた。

その時は「片思いだからだろう」と気に留めてなかったが、

それは、好きな人が目の前の俺だったからなんじゃないのか。


「そんな奴とは付き合うべきじゃない」って言った俺に、

京香は強く「だって好きなんだもん」と反論していた。

あの時本当は、分かってもらえないことに

深く傷ついてたんじゃないか。


なんてな。

全部俺の妄想だけど、本当にそうだったら困るな。


……俺はどうすべきかわかってる。

でも、あとほんの少し、ほんの少し勇気が足りないんだ……


「お兄ちゃん」


その時頭の中で、京香の声が聞こえたような気がした。


そして思い出す。俺が一番大切なものは、

俺の心の安定なんかじゃなくて、京香の笑顔だってこと。


やっぱり、俺は京香に勇気を出して聞いてみようと思う。

ちょっと怖いけど、京香から逃げて玲菜に手伝ってもらうのは

やっぱ違う気がする。


部屋から出た。

京香が一人、台所でオムレツを作っている。

エプロン姿で器用に卵をひっくり返していて、

女子力がやっぱり高い。


「京香、おいしそうに焼けてるな」

「あれ、兄さん。部屋に戻ったんじゃないの?」

「ああ、出てきたんだ」


そう言って、俺は息を吸い込んだ。

言うなら、今だ。


「なあ」

「なに?」


途中で止まるな。

最後まで言うんだ。俺。

思わず声が震える。手も震える。


動揺を見せないようにして、

俺は静かに口を開いた。


「俺の事、異性として好きか?」

「え」


一瞬にも永遠にも思える沈黙の後。

妹は首をぶんぶん振った。


「べ、べつに。おお、お兄ちゃんの事が好きとか、愛してるとか、

そういう訳じゃ全然ないし」

「……まじか」


終わり!!!

閉廷!!!!


俺がつらつらと諸君に語っていた熱い思いは、

完全に俺の妄想だった。はっきりわかったね。


これで俺は、「妹に振られた痛い童貞」という

新しい称号を手に入れたぞ。やったね。


あれぇ?

おかしいな、涙がとまらんぞ。


やっぱ面と向かって「好きじゃない」って言われるとこたえるね。

別に俺もそういう目で見てたわけじゃないけど。

見てないぞ。本当だぞ。


……でも、よかった。

それなら、京香は問題なく幸せになれるだろう。

俺はほっとして、肩の力を抜いた。


「いきなりどうしたの、お兄ちゃん。

なんか私に伝えたいこととかあるの?」

「いや。それを聞きたかっただけだ。

じゃあな」


俺は安堵したまま、京香の元を去って行った。

後から思えば、気が緩みすぎてたのかもしれない。

京香がつぶやいた言葉を、聞き逃していたから。
















「どうして、素直になれないんだろう」

















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