また俺何かやっちゃいました?(後編)
諸君!
俺たちは今から
「妹に引かれよう大作戦」を決行しようと思う。
え?作戦名があほくさい?
阿呆は大学生の特権だろう。テストに出るから覚えておけ。
作戦の計画はこうだ。
俺が京香にがんがんアプローチして、
京香をドン引きさせる。ただこれだけ。
ね?簡単でしょ?
万が一の時のために、外で玲菜も待機してくれる。
非常事態になったらトイレにこもり、電話で呼び出すのだ。
我ながら完璧な作戦だ。
とても、単位を落としまくって留年ギリギリの
俺の発想とは思えないな。
いや、実際玲菜が考えたのだが。
「じゃあ、いってらっしゃい」
ドン、と玲菜に背中を突き飛ばされ、
俺は家のドアの前に立った。
大きく深呼吸をしてドアを開ける。
「ただいま」
すると、居間でくつろいでいた京香が
こちらに飛びついてきた。
「うおっ!?」
「お兄ちゃん、おかえりなさい!」
今だ!くらえ、俺の格好つけたセリフ!
「お、おう。いつもお前は可愛いな」
その俺の言葉に、一瞬きょとんとする京香。
だが、その表情はすぐに満面の笑みに変わった。
あれ?引かないの?
「えへへ、でしょ~?」
キュン。
(ぐっ!認めたくないが、キュンときてしまった……不覚!)
俺は頭の中のシスコンに参考書を叩きつける。
(冷静になれ、俺!素数を数えるんだ!)
ポーカーフェイスでその場を乗り切り、
俺は足早に居間へと向かう。
京香はキッチンでフライパンを取り出して
何か準備をしているようだ。
「お兄ちゃん、一緒にホットケーキ食べよ!」
「おう」
そうか、ホットケーキを焼こうとしてくれたのか。
ホットケーキは俺の大好物だ。それをわかって……
俺は妹の気遣いに感動しつつも、心を鬼にして決意した。
今度こそ恥ずかしいセリフでドン引きさせてやる!
「なあ、京香」
「なに?」
「うちは、両親が共働きでいつも家にいないから、
だいたいこうやって二人で過ごすよな。
家にいるとき、俺の苦手な家事とか手伝ってくれて本当に感謝してるんだ。
お前だって遊びたい時もあるのに、俺のために色々やってくれてさ。
いつもありがとう」
よし、決まった!
俺は心の中でそうガッツポーズする。
これで京香もドン引き間違いなし……あれ?
京香は号泣していた。
また俺何かやっちゃいました?
「お兄ちゃん、ううっ、私もいつもお兄ちゃんに
支えられて、ぐすっ、うえええん」
「おいおい、泣くなって。
ごめん、俺なんかひどいこと言っちゃったか?」
「ちが、違うから!」
京香は大粒の涙を流しながら、
頭をぶんぶんと振って否定する。
「嬉しくて、嬉しくて泣いてるの!」
「え?」
おかしい。おかしいぞ。
なんかよく分からんが、京香に引かれるはずが、
好意的に受け止められている。
なぜだ。童貞だから女心わからんぞ。
俺は京香を一通りなぐさめた後、
あわててトイレで玲菜に電話をかける。
「もしもし、どうしたの」
「いや、それが……」
俺が一部始終を説明すると、玲菜はブチ切れた。
「違うだろぉ!違うだろ!このハゲぇ!童貞!」
「ええ……」
「なんで普通にイケメンみたいなこと言ってるの!?
馬鹿なの!?脳が腐ってるの!?」
「いや、そういう訳では……」
「そういうまともな事言うと、あんたに好意のある子は
逆にもっと好きになっちゃうわよ」
「えっ」
そんな事、ある?
今までこういう風に俺が話しかけた女子は皆
「きもっ」
という言葉を俺に残して去っていったぞ。つらい。
「普通引かないか?」
「好意を持ってる親しい相手は別よ」
「なるほどなぁ」
玲菜が大きくため息をつく。
女心って難しいな。
読者諸君もそう思わないか?
え、俺みたいなミスはしないって?あ、そうすか。サーセン。
「とりあえず、あんたは下ネタ連発してればいいの。
そしたら勝手に引くはずよ!」
「そうか、その手があったな」
「あと壁ドンしたら大抵の女は引くわよ」
女の子にセクハラと壁ドンをするのか。
俺みたいなコミュ障童貞にはつらいな。
妹にゴミを見るような目で見られたら、
もれなくマインドクラッシュしそうだし。
急に中高生時代のトラやウマが蘇り、俺は黙り込んだ。
あかん。あかんやつだ。あわわわわ。
「しっかりしなさいよ」
「あう、あうううう」
「女の子と話したくないの?」
「ううっ……できません……!
俺のメンタルを守る為の条件は、妹に嫌われないことだから…!」
「違うわよ?あんたの目指すべき目標は、女の子とイチャイチャすることよ」
「うわあーっ!」
*
「あのさ、京香」
「なあに?お兄ちゃん」
京香はホットケーキを焼きながら、そう猫なで声で答える。
余程機嫌がいいらしい。
くっ、許せ京香よ。
俺は心の中で謝りつつも、妹にセクハラした。
「今はいてるパンツって何色?」
瞬間、ホットケーキが宙を舞う。
「ななな、何でそんな事!?」
「いいから答えてくれよ」
押しを強くすればする程、女の子は引くらしいからな。
ああ。心が痛い。いたいよう。
諸君。けっして、俺が本当に京香のパンツに興味があるわけではないのだ。
誤解しないでくれたまえ。
……本当はちょっとだけあるかな。
あ!生卵を投げるのをやめてください!やめて!
まあでも、兄にパンツの色教える妹はいないだろ――
「……黒だよ」
「そうか、黒か……って、え?」
俺は、驚いて京香の方を見た。
ん?
……京香はスカートをたくし上げ、恥ずかしそうに赤面している。
「ほら、黒でしょ」
「あ、うん」
思わず京香を凝視してしまった俺は、
「ギョエッ!」
「お兄ちゃん!?」
その光景に興奮してしまい、
鼻血をナイル川のごとく噴き出して気絶した。
気がついたら夜だった。ベッドに一人で寝かされている。
留守電に「もう今日は帰るわ」という玲菜の声が残っていた。
「何で京香は引かないんだ……」
俺が女なら必ず引くのに。
しかも――あんなハレンチな事まで。
「ぐっ!」
あの光景を思い出すだけで鼻血が出てきた。
童貞にはあまりにも、あれは刺激が強すぎる。
諸君、俺は妹に興奮する駄目な奴だ。ほんとダメ。処すべき。
「にしても京香、なんで俺にパンツ見せたんだろう?」
また、俺をからかいたかったのかな?
俺は京香の気持ちがまったくわからない。
数学の公式とか世界史レベルで。諸君、教えてくれたまえ。
ただの変態なのか。それとも――
「小さいころからずっと一緒なのに、こうも理解できないとはな」
もやもやするが、ともあれ今日も俺の童貞は無事だった。
第一部、これにて閉幕ッッ!!
ここまで読んでくれて本当にありがとう!!!
なんか主人公は鈍感よな。
次回玲菜、動きます。
感想とか評価、ブクマしてくれると泣いて喜んで続きを書くぞ。
よければよろしく!