こいつはやるといったらやる……(前編)
アリアリアリアリアリ!!
「あんたの妹、私が食べちゃっていい?」
大学の食堂。
ほぼ毎日襲ってくる妹の事について、真面目な相談をした私に
その女は真顔でそう問いかけた。
「は?」
「私がその子を従順な性格にしてあげるから、
一週間私にその子預けて。いっぱい可愛がってあげるから」
「それって……下半身的な意味で?」
「まあいろいろ」
にこにこしている。変態すぎじゃね?
楽しそうに京香を喰う相談をする、
この頭おかしい女は、俺の幼馴染。名前は玲菜。
黒の長髪が美しい、クール系美人なのだが……
諸君が察している通り、女の子を好んで食べる。お前は魔女か。
読者の諸君も気を付けたまえ。顔に騙されるとろくな目に合わないぞ。
俺は女の子と付き合ったことないから知らんけど。
「あんたの妹みたいに、自分からグイグイいく子って
意外とグイグイ来られるのには弱いのよね。
あんたの話だとエッチな事にも興味あるみたいだから、
この玲菜お姉ちゃんがいっぱい体に教え込んであげようと思うの」
黙っていればきれいなのに、発言が残念すぎるのだ。
「なんかお前一週間前にも別の女の子をおとしてたよな。
下半身ユルユルすぎない?」
俺の質問に玲菜は「わかってないわね。私の完全勝利よ」と首を振った。
なんでや!阪神関係ないやろ!
「女の子によって可愛さが違うのよ。
強気だったのに、こっちが攻めたら
おとなしくなっちゃう猫みたいな子とか、
自分でもよくわかんない初めての体験に
興奮しちゃう可愛い子とか。
冬樹、レズの世界は広いのよ」
「お前の頭が発情期の猿並みだって事はちゃんとわかったぞ」
俺は玲菜の相手の子達に深く同情した。
この狂気あふれる魔女に体をいじくられるとはな……
鳥肌が立つ。冷や汗も止まらない。想像しただけでおぞましいぞ。
諸君、俺は京香を守る事にしたよ。
いくらなんでもこいつに喰われるのはかわいそうだ。
俺は正義感あふれる兄だからな。
妹を生贄に捧げたりはしないのだ。
……妹物のエロ本持ってるのは内緒だぞ。
「やっぱり、お前に京香は渡せん」
「そう?あんたは妹に困らなくてすむし、
私は女の子をたっぷり可愛がる事ができる。
お互いに利のある取引じゃない?」
「いや、京香をお前に汚させるわけにはいかん」
俺が至って真剣にそう言うと、
玲菜は一瞬あっけに取られたように俺の顔を見た後、
笑い転げて座っていた椅子から転落した。
失礼な奴だ。
「相談してきたの兄なのにシスコンじゃん!
冗談は本の中だけにしときなさいよ!」
解せぬ。ブッ○オフじゃねーし。
椅子から落ちてもなお笑い続ける玲菜に、
私は首をひねった。
確かに妹ものは好きだし、京香も家族としては好きだが、
別に恋愛感情は無い。
過保護なのはそうかもしれないが……
「仕方ないな。多少はね?」
「あっ、ふーん」
玲菜は何かを察したように渋い顔をする。
「じゃあ、あんたが襲っちゃえばいいじゃない」
「あ?」
「妹をあんたが襲っておとなしくさせたらいいじゃない」
なんだそりゃ。たまげたなあ。
妹とそういう事になったら本末転倒じゃないか。
呆れ顔の俺に、玲菜は続ける。
「最終段階まで持ち込む必要はないのよ。
ちょっと積極的に話しかけるしてあげるだけで、
その子は逆に引いていくんじゃないかしら」
「ほう……」
実に、実に興味深い。
俺、いや超究極天才混沌限界突破物理学者の俺は、
頭の中で試算してみた。
うーん。
あ~!無理無理の音ォ~!
「ワトソン君、それが成功する確率は限りなく低いよ。
俺は女性に自分からしゃべれないんだ。京香も含め。」
「はあ?これだから童貞は」
なぜか肩をすくめられてしまった。悲しい。
俺は超天才究極進化限界突破神域物理学者なのに。
あれ、違ってる?読者くん、誤字報告ありがとう。
「童貞って言ってるだけで口が童貞になるわ。
あ~ヤダヤダ。童貞はそこらへんの草でも食うといいのよ」
ひどくない?
この女は今、世界中の童貞を敵に回したぞ。
たぶん何万人集まってもそんな強くないけど。
「妹で練習させてもらいなさい。
今女の子と話すスキルを身に着けないと一生童貞よ」
言葉が刺さる。痛い。
確かにその通りだ。でも……
「妹で参考になるのか?」
「妹に自分から話しかけるのもできない奴が他の女の子と喋れるの?」
れいなのせいろん!
おれのこころはぼろぼろだ!
……いや、確かにその通りだ。
ここらへんで会話の能力を
身に着けておく必要があるだろう。
もう場の空気をエターナルフォースブリザードさせる
(凍らせる)のは嫌だからな。
それに、京香がおとなしくなってくれるなら、
一石二鳥だ。
「じゃあ、それでいくか」
覚悟を決めた俺に、玲菜は「ただし」と
条件を付けくわえた。
「当日のサポートと、あと個人的な興味として私も同行するわ。
京香ちゃんじっくり見たいもの」
「まだ諦めてなかったのかよ!?」
まったく、まるで欲望のお化けだな。
「あっ、今失礼なこと考えたでしょ」
「そりゃ楽しい被害妄想デスネ」
俺たちは楽しく煽りあいながら、童貞卒業のための計画を立て始めた。
エターナルフォースブリザード(激寒)(絶対零度)