お化け屋敷ナリ!
「次、どこ行こうか?」
「うーん、どうしよう」
「悩むわね」
バンジージャンプを終えた俺は、二人と共にどこに行くかの相談をしていた。
遊園地に来たばかりなので、時間や体力にも余裕がある。
どこから行くかは普通なら悩ましいところだろう。が……俺には策があった。
もちろん効率的に遊園地を楽しむ策などではない。
二人にちょっとした仕返しをするための策だ。
俺はタイミングを見計らって口を開いた。
「次はお化け屋敷に行かないか?」
それを聞いた京香は、目を輝かせて激しくうなずいた。
「いいね、行こうよ!」
どうやら俺の予想とは違い、京香は怖いものが好きな様だ。まあ、想定内だ。
京香は高いところが苦手だから、怖がらせるのは観覧車とかでいいだろう。
さて、もう一人の方はどうだろうか。あまり怖がっているイメージが無いのだが。
そう思いながら、俺は玲菜の方を向いた。
「ふ、ふーん。いいんじゃないかしら」
玲菜はいつもの真顔を崩していなかった。どうやら平気なのだろう。
まあ、こいつが怖がるとも思えんからな。
思惑からは外れたが、遊園地だしとりあえずは行ってみようか。
俺がそう歩き出そうとすると、後ろから袖が引っ張られる感触があった。
「本当に、行くの」
なんと、玲菜が普段にも増して怖い顔をしている(気がする)。
それにたじろぎつつも、俺は「ああ」と返事した。
「折角の遊園地だし、楽しまなきゃだろ?」
「そうね。そうよね」
納得したのか、スタスタと早足で玲菜はお化け屋敷の方に歩いていってしまった。
なんか様子がおかしい。作り物が好きじゃないとか、そういう理由なのだろうか。
俺は首をかしげつつも、京香とお化け屋敷へと向かった。
お化け屋敷の外観は、おどろおどろしい物だった。
どうやら説明文を読むに、ドラキュラ城をモチーフにしているらしい。
黒塗りの壁には、ツタがびっしり一面に生えている。
辺りには趣味の悪い石像がいくつも配置され、怪しい雰囲気を盛り上げていた。
なにより、真っ暗な中から時折聞こえる叫び声が恐怖心を煽る。
思わず立ちすくむ俺の手を、京香は強引に引っ張った。
「お兄ちゃんも玲菜さんも早く行こう!」
「お、おいちょっと待てって!」
俺の抵抗もむなしく、京香に引きずられるようにして
俺たちは暗闇に包まれたお化け屋敷の中へと足を踏み入れた。
京香は俺に構わずズンズンと進む。
すると、さっそく俺と玲菜の後ろで大きな音がした。
後ろを振り向くと……
「うううううう」
血だらけのフランケンシュタインが、俺たちを追いかけてきていた。
でかい。そして足も速い。
中身が人であると分かっていても、かなり怖いな。
俺がそんな事を考えていると、突然両側から誰かに両腕をつかまれる感触があった。
「うわっ!」
「ひゃっ」
「ひっ」
びっくりしてそう声を上げる。が、つかんだ相手も驚いているようだ。
声からして、一方は玲菜の様である。もしかして怖いのだろうか。
いや、あいつは精神が図太いから大丈夫か。
にしても、もう一方は誰だろう。京香は先に進んでいってしまったみたいだし、
暗闇で聞こえた声は女の子のようだ。
にしても、なんか聞き覚えがあるんだよな……
俺はフランケンシュタインからその二人を連れて逃げながら、
暗闇で必死にその子の方に目を凝らした。
赤い髪、京香と同じくらいの背、高い声……
こいつはもしかして……
「梨奈!?」




