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NIGHTMARE☆DEATH

 駅から、俺たちは二十分ほど歩いた。


「着きましたね。ここがセタガヤライブホールです!」


 横を歩いていた梨奈が、目の前の大きな建物を指差す。

 三階建てで、灰色の大きなドーム型の施設。

 それが、セタガヤライブホールだった。


「結構大きいな」

「大きいね、お兄ちゃん」


 思わずそう口に出すくらい、その建物は迫力があった。

 入口は人であふれかえっている。おそらく皆ライブを見に来た人たちなんだろう。

 俺は、純粋に梨奈をすごいと思った。


「あたしたちは裏口から行きましょう、冬樹さん!」


 梨奈は俺の手を引っ張ると、裏口に向かって駆け出した。

 当然俺も引っ張られついていく。


「ちょ、ちょっと待ってよ!」


 京香も慌てて走ってついてきた。


「な、なんで走る必要があるんだ?」と俺が聞くと、梨奈は

「時間に遅れてたので!」と答えた。

 なるほど、確かにそれはまずい。


 走ってようやく裏口にたどり着いた俺たちは、急いで中に入った。


「こっちがリハーサル会場ですね」


 手をつないだまま、ずんずんと進む梨奈。

 楽屋前の廊下を通り、いろんな人の間をすり抜けて駆け足で歩く。


「おい、こんな所まで俺たち部外者が入って大丈夫なのか?」

「冬樹さんたちは、あたしの知り合いだから大丈夫です!」


 本当か。

 梨奈の軽い返事を不安に思いながらも、俺たちは歩く。


 通路をしばらく歩くと、ベースとドラムの音が聞こえてきた。

 おそらくホールが近いのだ。


 すると、俺たちの前に大きな扉が見えてきた。

 音はあそこから響いてくるようだ。


「ここです!」


 そう言うと、梨奈は扉を押して開いた。

 その瞬間、俺たちに迫力ある音が洪水のように迫ってきた。

 鋭い音のギター、重厚なベース、存在感抜群のドラム。


「ごめん、皆。遅れた!」


 ホールに入った梨奈がそう謝ると、その音はいっせいに止まり、

 代わりに三人分の大きな笑い声が響いてきた。


「年上の彼氏との逢引きで遅れたんだな!こりゃ傑作だ」


 そう豪快に笑ったのは、壇上でドラムを叩いていた女の子だった。

 年は梨奈と変わらないだろうが、言葉やロックな服装からまるで少年のような感じを受ける。

 髪は黒で、どうやら染めていないらしい。


 ……というか俺、いつから彼氏になったんだ。


「か、彼氏じゃないし!」


 梨奈も否定してくれた。いきなり彼氏と呼ばれてドキドキしたが、

 ただの思い違いでよかっ……


「でも梨奈、なんか年上の『フユキサン』とかいう男がかっこよくて優しいって言ってなかった?」


 あれ?

 フユキ=サン……俺の事か!?


「わー!言うなって言ったのにー!」


 梨奈は顔を真っ赤にして壇上に突撃し、急いでその子の口をふさいだ。


「もがもがもが」

「こ、これ以上余計なこと喋るな!」


 その子と梨奈が格闘する。

 俺はそれを眺めながら、自分を落ち着かせようとしていた。


 きっと、梨奈が好きなフユキ=サンは俺と同一人物ではない。

 なぜなら俺はかっこよくないから。

 でも、ちょっと期待してしまう自分がいるのが悔しい。


 落ち着け俺!正気に戻るんだ!

 俺は全世界の童貞の上に立つ童貞帝だぞ!

 女の子に好意を持たれるはずがないだろ!


 俺は過去の、女子に振られた思い出を思い出し、思い出しすぎて鬱になって

 ようやく正気を取り戻した。

 よく聞くのだ、諸君。彼女など空想上の生き物に過ぎん。色即是空。


 俺の意識が現実に戻ると、そこには耳まで真っ赤になって小刻みに震える

 梨奈の姿と、それを目からビームが出そうなくらいに凝視する京香がいた。


「ふ、冬樹さん!冬樹さんとフユキサンは別の人ですから!」


 うん。知ってる。弱い俺にこれ以上現実を突きつけないでくれ。

 あれ、でもそれならなんで恥ずかしそうにしてるんだろう。


 だが俺がそれを聞くより早く、京香が動いた。

 懐からなにやら鈍く光るものを取り出そうとしている。

 ちょ、ちょっと待て、それは。


「ヤミウチ、キリステ、御免」

「アイエエエ!落ち着け、落ち着け!」


 なんかとても危ないことをしそうだったので、慌てて京香を止める。


「なんで止めるの、お兄ちゃん!」

「いや普通止めない!?」


 俺たちがわちゃわちゃとやっていると、壇上の三人は再び笑い出した。


「どうやら今回のお客さんは面白い人たちみたいだな!」

「違いない!」

「最高のライブになりそうっすね!」


 ひとしきり笑った後、三人はこちらを向いて挨拶した。


「まだ挨拶してなかったな。オレは真紀(まき)!ドラム担当だ!」


 そう言って梨奈と格闘していた女の子は、俺たちにドラムを叩いてみせた。

 かなり上手い。流石は大ホールでやるだけの事はある。


「んでこっちが」

「我輩はギター担当の(かなで)だ。よろしく頼む!」


 奏と名乗るその子は、銀髪で片目に黒い眼帯をしていた。中二病というやつだな。

 だが、ギターの演奏はかなりかっこいい。


「んでもう一人が」

「私っすか?私はベース担当の紅林(こうりん)っす!よろしくっすよ!」


 ボブカットの茶髪に、くりくりとした瞳が特徴的な少女だ。

 だがベースの音色は見た目に似合わず「凄み」がある。


「んで最後に」

「えっと、ボーカル担当の梨奈です!」

「全員合わせて!」

「NIGHTMAREです!」


 じゃかじゃん、と音楽が鳴り響く。

 なるほど、NIGHTMAREというのか。名前は物騒だが、四人の姿は確かにかっこいい。


「じゃあもうすぐ始まるんで、席で待っててください!」

「おう」


 梨奈にうながされ、俺たちは席へとついた。

 京香も「楽しみだね」と怪しく微笑む。なんか品定めでもしてるような目つきだが。


 四人がそれぞれ位置についてスタンバイする。

 俺も普段おとなしい梨奈が、どんな演奏をしてくれるかが楽しみだ。


 さあ、開演の時間が迫ってきたぞ。


次回、ライブ編最後!

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