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ていおん!(デスボ)

それから一週間。

梨奈は、何度も家にお手伝いに来てくれるようになっていた。

初めは不機嫌だった京香も、回数を重ねるにつれ諦めて梨奈が来るのを受け入れていた。


ちなみに、料理対決はその後も続いている。

……全部引き分けだが。


だって仕方ないだろう。どっちの料理もおいしいんだから。

そう二人に俺が弁明したら、なぜかこっぴどく怒られた。なんでだ。


まあ一応三人で仲良くやっていた、そんなある日のことである。


     *


「ライブ、見に来てくれませんか?」


いつものようにコタツでぬくぬくとくつろいでいた俺に、梨奈はそう提案した。


「これでもあたし、結構上手いんですよ!」


そう言って得意げに、ギターをかきならす真似をする梨奈。

そういえば病院でそんな話もしていたな。

ライブに誘ってもらえるのは、梨奈と仲良くなれたってことだからうれしい事だ。


俺は梨奈にうなずき、「チケットはいくらだ?」と言いながらかばんから財布を取り出した。


「いや、冬樹さんからお金はいただけませんよ!」

「そうなのか?」

「だって恩がありますもん!」


首をぶんぶん振って、頑なにお金を受け取ろうとしない梨奈。

会場費とかもあるし、チケットは売らないと厳しいと思うんだが……


「本当にいいのか?」

「はい。来ていただけるだけでうれしいです!」


梨奈がそう言うなら、素直に好意に甘えるとしよう。

俺はにこにこしている梨奈からチケットを受け取った。


だが、それを見逃さなかった者がいる。

妹、京香だ。


寝ていた京香はのそり、と体を起こすと、目をこすりながら

梨奈の方を向いた。


「私にも、チケット売ってくれない?」

「え、いいですけど……なんで?」


困惑する梨奈に、寝起きのボサボサの髪を整えながら、

京香は理由をいかにも不愉快そうに説明する。


「あなたとお兄ちゃんが、隠れてイチャイチャするのを防ぐため」


なんだそりゃ。そんな理由かよ。嫉妬してるのは可愛いけどさ。

俺が呆れているのにも構わず、京香は財布を取り出した。


「あなたに借りを作るのが嫌だから、きっちりお金は支払う」

「あ、はい。1000円です」

「ん」


何のためらいもなく京香は千円札を渡すと、突然俺に抱きついてきた。

梨奈に見せ付けるように、京香は体を密着させてくる。


「お兄ちゃんは私のものだから、誰にも渡さないもん」


こっちを向いて「そうでしょ、お兄ちゃん?」と猫なで声を出し微笑む京香。

京香の体温が、抱きつかれているところから直に伝わってくる。

正直、妹とはいえ美少女にこんな近距離で密着されて見つめられると、ドキドキが止まらん。


俺が京香から目を離せなくなっていると、こんどは梨奈が「ず、ずるいです!」と

反対側に抱きついてきた。びっくりして反応できない。


「ちょ、ちょっと待てって!」


慌てて声をかけるが、梨奈はそれを無視してさらに強く抱きついてきた。

いきなり何だよ!?


「ふ、冬樹さんは渡しませんから!」


恥ずかしいのか、耳まで真っ赤にしてこっちを向く梨奈に、俺まで恥ずかしくなる。

近すぎて、梨奈の吐息が耳に当たってくすぐったい。


なんだこの状況!?

なぜか俺、左右から美少女に抱きつかれてるんだが!?

丘peopleおかしいぞ!?


そんな俺の動揺もよそに、二人は俺をはさんでにらみ合った。

俺の目の前でバチバチと火花が散る。


「お兄ちゃんは私のもんだもん~!」

「ふ、冬樹さんはあたしが!」


いやいやいや。

俺、お前らのものじゃねえから!


     *


結局三人でライブに行くことになった俺たちは、電車でセタガヤに向かっていた。

最終目的地は、前に京香も行ったことのあるセタガヤライブホール。

梨奈は、いつもそこでライブをやっているらしい。


「あのホール、すっごい音響よくて。お気に入りの会場なんです」


そう語る梨奈の目は、きらきらと輝いていた。

趣味に夢中な奴って、男女関係なく素敵だよな。

俺は、梨奈が楽しそうに語るからさらに聞いてみたくなった。


「今日は何の曲を歌うんだ?」

「今日ですか。今日は女性ボーカルのかっこいい曲を歌おうと思ってます!」

「なるほど」


梨奈は以前、自分はボーカルだと言っていた。しかし梨奈の地声は、諸君もわかっている通り高い。

どこまで普段からかっこよく変わってロックを歌ってくれるか楽しみだ。


「次は~セタガヤ~セタガヤ~」


無機質な抑揚の車内アナウンスが響く。

俺はわくわくしているのか、とびきり笑顔の梨奈に話しかけた。


「ようやく着くな」

「はい。頑張らなくちゃですね!」


ドアが開く。一歩踏み出し、俺たちはセタガヤ駅に降り立った。

駅は人でごったがえしている。地図からして、皆ライブホールの方向に向かっているようだ。


「もしかして、梨奈たちのライブは人気なのか?」

「もちろんあります!」


胸を張る里奈。俺はそれをほほえましく思いながら、一層ライブに期待するのだった。



次回は梨奈のライブになる予定です!

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