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メイドです。請求書です。

ジリリリ、という目覚ましの音で、俺は目を覚ました。

二月の朝は空気が冷たい。できれば布団から出たくないものだな。


そうして俺が布団でもぞもぞやっていると、昨晩抱きついてきたまま寝てしまった

京香がむくりと目を覚ました。


だぼだぼのピンクのパジャマに、寝癖でぼさぼさの髪。

まだ眠いのかしきりに目をこすり、あくびを噛み殺しながらこちらに「おはよ~」と

気の抜けた挨拶をしてくる。

こういう抜けてる所もあるのが可愛いよな。


「おはよう」

「ん!」


こちらに向かって親指を立てる京香。

パジャマの首の所が伸びきっていて、鎖骨が見えている。

しかもだぼだぼなので動く度に、一瞬肌が見え隠れする。


……無防備だな。


きっとこの警戒心の無さは、自分を信頼してのことなのだろう。

ただ、やはり兄相手であっても服装は整えるべきだ。見ているこっちがドキドキする。

何といっても美少女のパジャマ姿だから。


「髪の毛とかして、服着替えてきなさい」

「は~い!」

「歯磨きと顔洗うのも忘れんなよ」

「了解!」


京香はそう言ってこちらに敬礼すると、すたすたと部屋を出て行った。

後に残された俺も、服を着替えるためTシャツを脱ぐ。

すると、ドアのあたりからカメラを持った京香がひょっこり現れた。


「ふっふっふー。お兄ちゃんのお宝写真ゲットだぜ!」

「な、俺を何だと思ってるんだ!」


まったく。今日も、にぎやかな一日になりそうだ。


     *


今日は土曜。つまり、学校は休みだ。

ウエエエエエエイイイイ!!


失敬、取り乱してしまった。学校が休みだから、つい。

特にやることも無かったので、俺は家で妹とゲームをしていた。


点滅する画面。ピコピコという操作音が部屋に響く。


「お兄ちゃん、やっぱり上手いね」

「まあな」


画面から目を離さず、そう答える。

別に薄情なんじゃなくて、このゲームの難易度が高くて苦戦してるからだ。

一心不乱にコントローラーを操作する俺を見つめて、京香は微笑む。


「お兄ちゃん上手い!私もう惚れちゃったね」

「惚れんでええ」


的確にツッコミを入れながら、ゲームで敵の急所に刀を振り下ろしていく。

なんとかして道中をクリアし、俺が最終ボスまで行ったその時。


無常にも、玄関のインターホンが鳴った。

このゲームは二人プレイ。つまり、ここでインターホンに出ると即敗北となる。

敗北者……?


くっ、諦めてインターホンに出るか。


俺はゲームより社会生活を選んだ。香川県も褒めてくれそうだな。

さて、誰が来たのだろう。気になって、インターホンについているカメラから外を覗く。


そこには、メイド服姿で寒そうにぶるぶると震える、梨奈の姿があった。

俺の思考が一瞬でフリーズする。確かに今日は土曜日だが……


「あの」

「あっ、冬樹さん。開けてください!」

「何でメイド服着てんの?」


俺の素朴な疑問に、梨奈は恥ずかしそうにはにかむ。


「よ、喜んでもらえるかなと思って!」


いや、まあ確かに俺は好きだよ。梨奈のメイド服姿。

小柄な体にフリフリレースのロングスカートの可愛さがマッチして、

人形みたいに可愛いけどさ。


でもさ。


「それで俺の家の前に立ったら、噂になるよね?」

「ああ~、確かにそうですね」


いやいや、まずいでしょ!!

というか何で今まで気付かなかったんだ。そこが不思議だよ。

俺が頭を抱えていると、梨奈は不安そうな顔をした。


「え、今日はもう帰ったほうがいいですか?」

「いや……入ってくれ」


折角寒い中来てもらったのに、このまま帰すというのは駄目な気がして

俺はドアを開け、梨奈を迎え入れた。

本当に寒かったらしく、歯をガタガタと鳴らして、小刻みに震えている。

まあ、メイド服なら当然かもしれない。


「待ってろよ。今温かいコーヒー出すから、リビングでコタツにでもあたっててくれ」

「は、はい」


梨奈が行ったのを見届け、俺は準備を始めた。


まずコップに水をくみ、それを電子レンジにかける。

えっと、600W、1分30秒だな。


そして次にコーヒーの粉を用意して、と。

俺は手際よくコーヒーを作る。学校帰りの京香にもよく作ってやってたからな。

あいつも寒そうだったんだよ。


ピピピピ。


おっ、温め終わったみたいだな。

電子レンジからお湯を取り出し、コーヒーの粉と砂糖を溶かして混ぜる。

できあがりだ。


こぼれないよう慎重に、リビングまで湯気の立つコーヒーを運んでいると

前方――コタツで、京香が不機嫌そうな顔で梨奈を見ていた。

やれやれだぜ。

俺は京香を一旦スルーし、梨奈の元へと向かった。


「ほい」

「あ、ありがとうございます!」


俺が差し出したコップを両手で受け取り、梨奈はそのままコーヒーを飲んだ。


「ああ、あったかい……ありがとうございます」


ほっ、と安らいだように梨奈が表情をゆるませる。

良かった。風邪でも引いたら大変だからな。


コップに両手を当てて暖を取る、梨奈の仕草がかわいい。

メイド服を着ているのもあって、守ってあげたくなる可愛さだ。

俺がそうして梨奈を眺めていると、横から不機嫌な声が飛んできた。


「お兄ちゃん」

「は、はい」

「この子は何で家に来たの?」


この家に入らせるのが不愉快だ、というオーラを全開にしてこちらを見る京香。


さて、どうしたものか……


次回!料理対決ッ!(予定です)

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