こいつはメチャゆるさんよなああああ
俺たち四人は、テーブルを囲んで出前が届くのを待っていた。
隣のなんだか不機嫌な京香とは対照的に、梨奈と玲菜は出前が待ち遠しいらしく
そわそわと視線を動かしている。
俺も腹が減ってきた頃だ。
「まだ私のデラックスピザは届かないのかしら」
「まあ、もうちょっと待てば来るだろ」
腹が減って仕方ないのか、足をテーブルの下で頻繁に組み替え
落ち着かない様子の玲菜をなんとかなだめる。
すると、今まで黙っていた京香と梨奈からも声が上がった。
「お兄ちゃんおなか減った。お兄ちゃん食べていい?」
「俺はアン○ンマンじゃねえよ」
「あたしも冬樹さん食べてみたいです……!」
「ちょっと待て、それどういう意味?」
なにこの子たち。怖い。
飢えてるのか、こっちに向けてくる視線が『ガチ』なんだけど。
これは、早く出前が来る事を祈るしかないな。
俺がピザとスシを頭に思い浮かべ念じていると、
効果があったのか出前の兄ちゃんがスシを届けに来てくれた。
「これ、ご注文のあやめ握り二人前です」
「ありがとうございます」
請求された四桁の料金に、改めて面食らいつつも俺は淡々と支払う。
やったね!財布の風通しが良くなったよ!
……泣けてくるぜ。
「スシが届いたぞー」
「やった~!」
「おいしそうです!」
俺が京香と梨奈の分のスシをテーブルに置くと、
二人はぱあっと一気に笑顔にになった。
盆の上の、脂が乗っておいしそうなスシたちに目線は釘付け。
テーブルの上に身を乗り出して、自分の好きなネタはないか確認している。
「あ、マグロありますね!サーモンも!」
「玉子だ!エビもあるよ!」
二人は子供の様に目を輝かせてはしゃぎながら、スシを数えていた。
きっと、かなりおなかも減っていたのだろう。
普段京香は自分で料理を作ってくれようとするから、スシはあまり食べないしな。
これだけ美少女二人に喜んでもらえるなら、おごる甲斐もあるというものだ。
そう俺が二人をニマニマしながら見つめていると、「ウウウウヴヴ」という
人間が発する音とは到底思えない音が、白目をむいた玲菜から発せられた。
こいつは腹が減ると最終的に発狂するからな。危険。
「ウガアアア!ピッツア!ピッツア!」
「発作がまた出てますね。お薬増やしときますねー」
「ウゴゴゴ」
泡を吹く玲菜と盛り上がる二人をほほえましく思いながら、
俺はある事を考えていた。
『この状態って、ハーレムじゃね?』
男一人に美少女が三人。
それで皆、心配して毎日見舞いに来てくれるくらい俺の事を思ってる。
諸君、これはもうハーレムでしょ。なろう主人公だから、多少はね?
俺のその妄想は、「ドミソピザでーす」という宅配の声によって中断された。
現実に引き戻された俺は、悲しい気持ちで自分と玲菜の分のピザを受け取る。
「玲菜、ピザが届いたぞ」
「イエス!ピッツア!今すぐ食うわ!」
「待て待て、皆でいただきますしよう」
俺が手を合わせると、三人もそれを見て手を合わせた。
皆が準備できていることを確認し、俺は口を開く。
「「「「いただきます!」」」」
皆が自分の頼んだ料理をおいしそうに食べていく。
俺の選んだピザは、スーパーニューヨーカーというチーズたっぷりのピザだ。
「よし、食うか」
一口食うと、口の中にチーズのうまみが広がった。
もっちりした生地に熱々のチーズが良く合っている。
これは大満足だな。
京香と梨奈の方を向くと、スシがおいしかったのか
二人ともうっとりととろけた表情を浮かべていた。
「このエビ、プリップリですごいおいしい!」
「このサーモンも脂が乗ってて最高です!」
やはり出前が遅かったことでお腹がすいていたのか、
おいしそうにがつがつとスシを食べ進めている。
二人に喜んでもらえてよかった。というか、食べてる姿もかわいいな。
俺が二人をそう観察していると、突然横から手が伸びてきて
俺のピザを強奪した。それに驚いた俺は、思わず目線を手の主に向ける。
そこには、自分のピザを一瞬で平らげた玲菜がいた。化け物かよ。
「ピッツアもっと!ピッツア!」
どうやら俺のピザまで狙っているらしく、しきりに手を伸ばしてくる。
だが、お前に俺のピザは渡すわけにはいかない!渡すものか!
もちろん俺は必死に抵抗したぞ。拳で。
「ピザピザピザピザ!!」
「無理無理無理無理!!」
互いのピザに対する思いが拳となってぶつかり合う。
そう、ここは――戦場。
ピザ愛の無い奴は死ぬのだ。
俺と玲菜が不毛な戦いを繰り広げていると、
それを見かねた梨奈がスシを差し出してきた。
「なんだかよくわからないですけど、マグロ一個ずつあげますから鎮まってください」
「まぐろ、すき。うまい」
おい、玲菜の知能が低下してるぞ。
「ほら、冬樹さんも。あーん」
「え?」
声をかけられ、俺が視線を正面に戻すと目の前には、恥ずかしがりながらも
こちらにスシを差し出す梨奈がいた。
え、あーんですか?
もしかして、あのリア充にしか許されていない伝説の行為、
「あーん」ですかーッ!?
俺が戸惑っていると、京香はもじもじと赤面した。
「は、恥ずかしいので早くお願いします」
「お、おう」
恐る恐る口を開け、梨奈にスシを食べさせてもらう。
幸せだ。こんな事やってもらえるなんて。
なんか俺の何かが満たされた気がする。
……もしかして、打ち切り前の幻覚とかじゃないよな。
俺が幸福感で一杯になっていると、不機嫌な声が飛んできた。
「お兄ちゃんはあーんされるの好きなんだ。へえ~」
どうやら京香は、俺が梨奈にあーんしてもらった事にすねているらしい。
時折こちらをちらっと見ては、またプイっと向こうをむいてしまう。
「……やっても、いいけど」
「え?」
「お兄ちゃんにならあーん、してあげてもいいよ」
なんだこれは。俺の妄想の続きか。
京香が顔を真っ赤にしてこちらにスシを差し出している。
恥ずかしいのか、手もプルプルと震えていて……めっちゃ可愛い。
「は、早くしてよ、お兄ちゃん」
「わ、わかった!」
さっきと同じように口を開け、食べさせてもらう。
「ど、どう?」
「うん。おいしいぞ、ありがとな京香!」
「……えへへへ」
おっと、危ない危ない。
感謝されて照れる京香の可愛さに、危うく俺は昇天しかけた。
しかし、今日はいいことずくめだな。
そんな風に満足していた俺に、また声が飛んできた。
「ずるいです!」
と今度は梨奈か。
「あたしも、もっと冬樹さんにあーんしてあげたいです!」
「じゃあ私も二回目以降やるもんね~だ」
ちょっと待て、俺抜きで話を進めるんじゃない。
そう言おうとしたが、二人の圧に押されてできなかった。無念じゃ。
「ほら、冬樹さん!」
「あーん!お兄ちゃん!」
結局俺は二人から何回もあーんされるという、幸せなんだかよくわからない
体験をすることになった。
二人とも可愛いから、すごいよかったけどな。
リア充とか許せないですね(憤怒)
次回もイチャイチャします!




