変態じゃねえか!!
白いシーツのひかれたベッドを、照明がやさしく照らす。そんな静かな夜。
俺はベッドの上で、昨日と代わり映えしない白い天井を、
少し考え事をしながら見上げていた。
俺が考えていたのは、異世界転生して一つだけチートがもらえるとしたら、
何にするだろうか、という頭の悪い事なのだが。
諸君はどうする?
もらうなら、何のチートが欲しい?
やっぱり戦闘系の能力で無双する?
敵をなぎ倒していくのは爽快だよな。
それとも内政の知識で成り上がる?
敵を罠にはめるのも楽しそうだ。
ちなみに俺が欲しいのは、立っているだけでかわいい女の子が寄ってくる
いわゆるハーレム系能力だ。
お嬢様とか、ケモミミ美少女とかを仲間にしてイチャイチャしながら、
悠々自適にハーレムライフ。男の夢ってやつだな。
いや、何でこんなことを考えてるかというと。
今日の俺、見た目はなかなかハーレムだったからなんだよね。
実際はハーレムってより上野動物園だったけど。主に玲菜が。
猛獣とか変態とかと付き合うようなハーレムは、こっちから願い下げだし。
いやでもさ、それはそれで中々楽しかったんだよな。
一日に、あんなにお菓子を人から貰ったのも初めてだった。
俺の所に来てくれた皆は、結構笑顔で喋ってくれてたし、
俺自身も、病室が賑やかでとても楽しかった。
もし俺がハーレム系主人公だったらさ。
五人くらいの女の子に囲まれて生活できるんだよ。
それって、結構退屈しなくて楽しいんじゃないかなと思ったんだ。
……童貞卒業したいのも、理由としては大いにあるが!
玲菜も言っていたけど、知り合ったのも何かの縁だから、
女の子に限らず、友達とか知り合いは大切にしていきたいよな。
家族ももちろんそうだけど。
そういう意味でも、梨奈とは打ち解けていきたい部分はある。
今日の態度を見る限り、悪い奴じゃなさそうだからな。
玲菜に食べられてしまってないかがとても心配だが。
骨折はしたけど、俺の生活はなかなか面白い方向へ進みつつある。
そうだろ、ブラザー!じゃなかった諸君!
俺たちの戦いはこれからだ!
*
打ち切りイイイイイィィ!?!?
俺は慌てて、ベッドからがばっと飛び起きた。
カーテンを開けると、外はもう朝日が昇っている。
小鳥たちのさえずる声が俺を癒した。
そうか、悪い夢か。
確認の為に、恐る恐る自分の頬をつねってみる。
い…痛え!鋭い痛みがゆっくりやってくるッ!
うおあああああああああ!!
……寝起きで感覚が制御できていなかったが、
どうやらまだ打ち切りにはなっていないようだ。よかった。
今日は入院三日目だな。
病院での生活にも慣れ始めてきた頃だ。
さて、今日は誰が最初に来てくれるかな。
ウキウキして待っていた俺の所に現れたのは、
げっそりとやつれた梨奈だった。
「冬樹さん……」
「ど、どうした?」
あまりにも元気がない。どうしたのだろう。
「玲菜さん、スキンシップ激しすぎませんか……」
「ああ、その事だったか」
「あたしの中の、新しい扉開いちゃいそうになりましたよ」
「そりゃ災難だったな」
開いてたら面白かったんだが、という言葉を飲み込む。
もし玲菜に心を許せば、もう人間には戻ってこられないからな。
梨奈は、襲われずに済んでるならまだいい方じゃないか。
そう思う俺に、梨奈は不満を口にした。
「知ってたなら教えてくださいよ!」
「うーん。あいつには借りがあるんだよな」
「あたしを生贄にするんですか!?」
「梨奈だって俺に借りがあるだろう」
「ぐっ……確かにそうですけど」
「諦めて、全てを天にまかせるしかないんだ」
「ええ……」
ごめんな。妹を生贄に捧げるわけにはいけないから、こうするしかない。
意外と付き合ってみたら楽しいかもしれないぞ。知らんけど。
「じゃあそれは一旦置いといて、とりあえず本題に入ります」
「おう」
「あたしの学校と親に、連絡する準備が出来たんです」
「じゃあかけるか。番号教えてくれ」
俺がそう言うと、梨奈は途端に申し訳なさそうになった。
「骨折してて入院までされてるのに、こんなことまで手伝わせてごめんなさい」
「大丈夫だ。今暇だしな」
「ほんと、あたしに出来ることならなんでもします!
というかさせて下さい!」
おやおや、頭を下げられてしまったぞ。
苦手なんだよな、こういうの。
別に見返り求めてる訳じゃないし。
でも、そんなに何かしたいなら、頼んでもいいか。
「なら、梨奈のバンドのライブチケットを三枚くれないか」
「えっ?そ、そんな事でいいんですか?」
「ライブ、見に行ってみたいしな。梨奈が歌う姿には興味がある」
「それなら、渡しますけど……本当にそれだけでいいんですか?」
「逆に、他に何があるんだ」
「いや、ミニスカメイド服で恥ずかしいご奉仕をさせられる、とかかと」
「俺何だと思われてたの!?」
梨奈の赤面した顔を、俺はまじまじと見つめた。
変態だと思われていたとは、心外だな。まったく。
俺は変態紳士なのに。
だが、俺の不満げな表情を間違って解釈したのか、
梨奈は恥ずかしそうにモジモジしながら、とんでもない事を言い出した。
「そ、添い寝くらいならできますよ」
「いやJKと添い寝とか、どこの怪しいサービスだよ!」
「え、裸エプロンの方がいいですか……かなり、恥ずかしいですけど」
「完全にアウトだよ!アウト!」
どうしてこう、そっち方面に話を持っていくのか。
最悪俺捕まるぞ。
しかし、呆れる俺に梨奈はもっと過激な事を言い始めた。
「一週間くらいなら、命令、何でも聞きますよ」
「はいぃ?さっきから何言ってんすか?」
「なんか、自分で言ってて興奮してきちゃったんです」
「?????」
なんか、京香みたいなこと言い始めたぞ。
嫌な予感がする。
「冬樹さんはいい人みたいなので話しますけど、
実は、あたし人に恥ずかしい所見られるの、本当は好きなんです。
だから、遠慮しなくていいっていうか、過激なことさせられたいんです……
恥ずかしいから、二人だけの秘密ですよ?」
「ど、ドMじゃねえか!!」
これもうどうしようもねえな。
なんで俺の周りにはまともな奴が集まってこないんだ。
皆、見た目は美少女だよ。でもさ。
頭、イカレてね?
特にこの子は最初まともで、仲良くなれそうだと思ったのに。
おお、神よ!まともな子と出会うことが出来ぬ我を救いたまえ!
「こういう、命令されるのすごい好きで。
普段はバンドやってるし、髪も赤いんで気が強そうだと思われますけど、
本当はそうじゃないんです。」
「はあ」
さらに梨奈は熱弁する。その時だった。
「だから、何でも恥ずかしい命令してくださ
「お兄ちゃん、おはよ……あれ?」
京香が、病室に来てしまった。
ベッドには、体を前に出している梨奈と、
押し倒されたような格好になっている俺。
「なに……?」
京香の表情が一瞬にして凍りつく。
修羅場……か。
次回、冬樹死す
デュエルスタンバイ!