バレンタイン、聖人やめるってよ。
諸君、説明しよう!
妹の服にGPSをつけておいたのである!
説明終わり!
いやあ、なんて俺は説明が上手いんだろう。
そこにシビれる!憧れるゥ!って感じだね。まったくゥ!
……さて、作戦の方だが。
今俺たち二人はやっと合流し、
電柱の陰から京香を静かに尾行している。
たとえ見失っても、GPSがあるので尾行しなおせるのだ。
この完璧な作戦!
これぞジャパニーズ・ニンジャ!
妹を困らせる奴は、我がカラテで忍殺してやる!
俺が意気込んでいると、その横で玲菜がぶるっと震えた。
「長時間日陰にいると、寒いわね」
「確かにな」
今日は二月。日なたはそこそこ暖かいが、
あいにく俺たちは、建物や電柱の陰にいる必要があるので
必然的に日陰にいることになる。
今日は風も冷たいからな。屋外だときつい。
「まあ、結構歩いているしもう少しだろう」
「そう、そうだと助かるわね」
俺たちがこそこそと話しながら尾行を続けていくと、
京香は道を曲がって公園へと入っていった。
あそこが、「奴」のいる場所か。
妹を騙した罪、ここで償ってもらおう!
「よし、行くぞ玲菜!」
「そうね」
俺たちは茂みをがさがさとかきわけ、隠れていく。
よし、どうやら京香にはばれていないようだな。
俺たちは茂みから、持ってきた望遠鏡で京香を観察した。
あいつは、公園の中央にあるベンチに腰掛けて本を読んでいる。
近くに男の姿はない。どうやらまだ待ち合わせの時間ではないようだ。
そうしてしばらく観察していると、京香が突然立った。
「おばあさん!ヨーゼフ!クララ……じゃない京香が立った!」
「いやヨーゼフいないわよ。てかおばあさんじゃねえわ○すぞ」
本を持って立ち上がった京香は、何か言葉を何度も繰り返している。
本の表紙を良く見ると、「好きな人に告白する8のポイント実践編!」
というタイトルと共に、少女マンガのような挿絵が載っていた。
「どうやら告白の練習をしているようね」
「何ぃッ!?」
俺は激怒した。烈火のごとく。
京香をたぶらかした野郎には……
死んだことを後悔する時間をも与えんッ!!
「大丈夫?顔真っ赤よ」
「大丈夫だ、問題ない」
持ってきた氷水を飲み干して、頭を冷却する。
おまけとばかりに腹まで下ってきたが、
妹の恋路よりかはささいな問題だ。
ああ、京香は何と言って告白するのだろう。
「これ、本命です!」とかか?
「あんたの為に作ったんだからね!せいぜい感謝して食いなさいよね!」
とかもあるな。玲菜の方が言いそうだけど。
「なんかいった?」
「ナンデモナイデス」
ここからでは何を言っているのか聞き取りずらい。
もっと近くによってもいいかもしれないな。
そう思い、俺はゆっくり京香に向かって足を進めた。
が、これが失敗だった。
俺の前に出した足は、なぜか足元に捨ててあったエロ本によって滑り
俺は美少女ではなく地面とファーストキスすることになったのだ。
ドサッ。
「ぐおおおお、痛てえええええ!!」
「お兄ちゃん!?」
あえなく俺たちの尾行がばれる。
なんてこったい。パンナコッタ。
「──ッ!!」
俺たちが居心地の悪さを感じながら立ち尽くしていると、
京香は手に本を持っていたことに気がつき、突然走って逃げてしまった。
「……そんなに俺が苦手かなあ。好きな人との約束もあるだろうに」
「……どうなんでしょうね」
かくして俺たちの尾行は、
俺のミスによってあっけなく幕を閉じてしまったのであった。
*
夕方、俺の家。
俺と京香は、一言も喋らずに黙って夕食の片付けをしていた。
ガチャガチャ、と皿のぶつかる音のみがリビングにこだまする。
沈黙に耐えられなくなった俺は、
京香に勇気を出して話しかけた。
「なあ、京香」
「……なに」
「今日はすまなかった」
「!」
俺はそう深く頭を下げる。
京香が逃げたのを見て悟ったのだ。
自分が京香のために善意でやったことが、京香を逆に傷つけたという事を。
そんな俺に対し、京香は黙ったままだった。
……話したくないという事か。
俺が絶望とともにその場を去ろうとしたその時、
京香はおびえたように目をキョロキョロさせながら、
目線を合わせずこちらに口を開いた。
「ね、ねえ」
「何だ?」
「私が練習してた内容、聞こえてた?」
「いや」
「そっか。よかった……」
胸を撫で下ろす京香に、俺の中にある罪悪感はさらに増していった。
嘘はついていないが、尾行したのは事実だ。ごめん。
「じゃあ、俺部屋もどるから」
そう言って俺は、これ以上京香を傷つけないよう部屋に戻ろうとする。
それを、京香は引き止めた。
「待って!お兄ちゃん」
「?」
こちらを上目遣いにしっかりと見つめ、
かばんからハートの形のラッピングされた箱を取り出すと、
京香はそれをこちらに差し出してきた。
これって……もしかして。
「す」
「す?」
「す、すすすっごいチョコがおいしくできたから、
お兄ちゃんにも余り、あげる!」
「お、おう」
ずいっと手渡され、なぜか俺は京香からチョコをもらった。
なんでだ?苦手な奴にチョコは渡さないだろう。
余りを包んだにしては、きれいにラッピングされてるし。
俺が疑問に思っていると、京香は話を続けた。
「それで、仲直りしよ!」
「え?」
「仲直り。……お兄ちゃん、やっぱりだめ……?」
「い、いや。ものすっごい嬉しいけど、なんで?
俺の事苦手なんじゃないのか?」
「え?違うよ?」
「え?」
なんかお互いに勘違いをしていたようだ。
京香は俺のことが苦手ではない、らしい。
よくわからん。
でも、京香の表情を見る限り、俺と仲良くしたいのは
本当のようで、俺はひどく安心した。
今まで悩んでいたのがうそのように気持ちが軽い。
あれ、でもじゃあ何で俺を避けてたんだ?
なんかよくわからんが、俺たちの楽しい日常は帰ってきそうだぞ、諸君。
一番大事な、家族と仲直りできそうみたいだからな。
これにて第二章、完となります。
冬樹は鈍感だけどいい奴ですね。
これからも、できるだけ毎日投稿していきます。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました!