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君に届け(速達)

 私のお兄ちゃんは、かっこ悪かった。


 運動ができるわけじゃないし、顔がいい訳でもない。

 昔から、学校に行くときは教科書を忘れるし、物はすぐ無くす。

 料理もできないし、これといったかっこいい特技はない。

 なにより、鈍感だった。


 でも、お兄ちゃんは他の誰よりも優しかった。


 朝起きたら「おはよう」、

 学校に行くときは「いってらっしゃい」、

 帰ってきたら「おかえり」。

 私の作ったご飯を食べたら、必ず「おいしいぞ!」と言う。


 お兄ちゃんは、いつでも私に笑顔で。

 その事に、私はどれだけ助けられたか。


 一番心に残ってるのは、私が中学生だったころの事。

 そのころ私は、クラスでいじめにあって毎日泣いていた。


 誰にも相談なんてする気になれなかった。

 心配させてしまうのが嫌だったし、

 自分がみじめに思えてくるから。


 でも、そんな時お兄ちゃんは、部屋にこもってふさぎこんでいた私に

 ドアの向こうからそっと優しく言葉をかけてくれた。


「俺に話してくれないか?

 京香につらい思いをしてほしくないんだ」


 当時の私の心は、今考えても相当すさんでいたと思う。

 だから私はそんなお兄ちゃんに八つ当たりした。


 この偽善者。私の気持ちなんてわからないくせに。

 どうせ何もできないし、しないくせに。

 他にもいっぱい、いっぱいひどい事を言った。


 それでもお兄ちゃんは、毎日声をかけてくれた。ひたすら優しく。

 お兄ちゃんだって、学校とか私がやらない分の家事で大変なのに。


「俺は、今の京香の気持ちがまだわかってない。

 でも、だからこそ少しでもわかってやりたい。

 それで、少しでも力になってやりたいんだ」


 それを聞いた時。私は声を殺して泣いた。


 あんなにひどい事をたくさん言ったのに。

 別に、特別何かをしてあげたわけでもないのに。

 こんなに、自分の事を思ってくれる家族が近くにいる。

 そう思うと、涙が(せき)をきったようにあふれて止まらなかった。


 あの時お兄ちゃんがいてくれなかったら、

 私はどうなっていたかわからない。


 そして、月日が過ぎ。

 気がつけば私は高校生になり。

 ……お兄ちゃんの事を、異性として見るようになった。


 お兄ちゃんはかっこ悪い。友達に自慢できるような人でもない。

 でも私にとっては、どんな男の人より素敵だった。

 話は面白いし、雑学の知識もいっぱいある。

 何より、とても優しい。


 気がついた時には、お兄ちゃんを好きになっていた。

 自分でもわかってる。許されない事だって。

 私は実の妹で、お兄ちゃんは実の兄だから。

 でも、諦めたくなかった。

 いや、どうしても諦められなかった。


 だから、どうすればお兄ちゃんに振り向いてもらえるか考えた。

 本を読んだり、インターネットで検索したり。

 ……お兄ちゃんの読んでる本を読んだり。


 そしてその分析結果を、自分で実行していった。


 内気で奥手な私から、活発でグイグイアプローチする私へ。

 もっと会話を増やして。料理もおいしく。常に笑顔で。

 たまにいたずらとかもして、気を引いたりするのも効果的。

 スキンシップは過剰なくらいがちょうどいい。


 最初は疲れたし、結構恥ずかしかったけど、

 お兄ちゃんと一緒になるためなら、いくらでも頑張れる気がした。


 そんなある日。お兄ちゃんに頑張ってるのを褒められた。

 すごい嬉しくて、思わず泣いてしまった。


 でも、その少し後、お兄ちゃんはいきなり、

「パンツの色は何色か」って私に聞いてきた。


 普通の子なら引くだろう。

 でも、私はなぜかパンツをお兄ちゃんに見せて。


 なんでかって……そんな事で喜んでくれるなら、

 それくらいはいいかなって思ったから。


 でもその時の私は、間違ってたみたい。

 だってお兄ちゃん、絶句してたし。


 私はそれを見て、血の気が引くのを感じた。

 意味が分からなかった。

 男の人は、こういう女の子が好きなんじゃないの?


 その日の夜は、ずっと悩み続けて。

 そのまた次の日からも、ずっと悩んでた。

 そしたら今度も突然言われたんだ。


「俺の事、異性として好きか?」って。


 好きだよ。大好きに決まってるじゃん。

 心の底から愛してるよ。

 でも、そんな事言えない。

 だって、そうしたら……


 お兄ちゃんは、もう私に笑いかけてくれないかも知れないから。


 だから、「そんな訳ない」って嘘をついた。


 でも、なんでそんな質問されたのかは分からなかったし、

 お兄ちゃんが私の事をどう思ってるかはもっとわからない。


 私は、そんな事が重なって一気にお兄ちゃんと話すのが怖くなった。

 目を合わせるのも、気持ち悪がられるんじゃないかって怖い。

 今までみたいに襲いに行って、引かれるのも嫌だからやめた。


 そして、私とお兄ちゃんは、ほぼまったく話さなくなり。

 恋人たちの日、バレンタインを迎えた。


「今日くらいは、奇跡が起きるのをお願いしてもいいよね……?」



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