ストーカーではない、愛だ!
「ただいま」
「……おかえりなさい」
俺がドアを開けると、玄関に京香が立っていた。
待ってくれてたのか。珍しいな。
京香は何かいいたげにこちらを見つめている。
「あ、あのさ、お兄ちゃん」
「何だ?」
俺がやさしく聞こうとすると、
京香は俺から目をそらした。
「な、なんでもない」
「……そうか」
わかってたとはいえ、最近ずっとこうだから、
俺もメンタルにくるな。
とはいえ、京香に無理やり話をさせる訳にもいかない。
しばらくは、このきまずい空間で過ごさなきゃいけないって事だ。
……あ~、もやもやする。
大切な家族が悩んでいて、でも理由が分からないから、
自分にはどうもしてやれない――
この状況は、かなり歯がゆい。
俺はリビングのソファーに移動し、
寝転んでひたすら、京香の悩み事の内容を考えた。
学校で上手くいってないとか?
いや、それならいつもは俺に相談してた。
俺のことが嫌いになった?
いや、それは違うって玲菜も言っていた。
「やっぱり好きな人がいるのか」
「え?」
あ、まずい。口に出てしまっていた。
びっくりしたような顔の京香に、俺は急いでごまかした。
「いや、何でもない」
「え、そう」
ふう。なんとかなったか。
と、その時だった。
京香がつぶやいたのは。
「……バレたかと……思った」
「何だって!?」
「な、なんでもないよ!」
……読者諸君。いまの言葉を聞いたか。聞いたな。ヨシ!
俺もしっかり聞こえたぞ。地獄耳だからな。
あいつはどうやら、本当に好きな人で悩んでいるらしいな。
これは、兄として応援してやらないとな。
読者のみんな!
オラに応援力を分けてくれ!!
……あれ、でもそれなら何で俺と話をしないんだろう?
話さない理由にはならないはず。
うーん。
俺は頭をひねった。わからん。
まあいいか、妹の悩みに比べればささいなことだ。
俺が寝転がりながらそんな事を考えていると、
台所で料理をしていた京香が、ぽつりとまたつぶやいた。
「お兄ちゃん、あさって私出かけるから」
「ん?ああ」
こちらに振り返りもせず、黙々と料理をこなす京香の後ろ姿に、
俺は心が痛くなった。
何をそんなに悩んでいるんだ。
好きな人との事は、兄ちゃんに相談できないことなのか?
妹の力になってやりたい。
俺は心からそう思った。
*
「なら、ストーカーするわよ!」
「アイエ!?ナンデ!?ストーカーナンデ!?」
翌日の朝。
事情を説明したら、毎度のごとく玲菜はぶっ飛んだ事を言い出した。
何と、出かける京香のあとをつけようというのだ。
「何で、そんな事する必要が?」
俺がそう不思議そうに問うと、
「チョッコレエエエエイト!!」
と玲菜は発狂した。
突然の発作ですか。お薬だしときますね。
「あんた、明日は何日よ」
今度は突然物忘れが激しくなったようだ。
病院行ったほうがいいぞ。
呆れる俺に玲菜は続ける。
「いいから答えて」
「えっと、明日は2/14だけど……あっ!
明日バレンタインじゃん!!」
……成程、そういうことか。
「京香は明日好きな人にチョコを渡すんだな」
「たぶんそうよ」
「で、そこで明日つけて、相手の男がどんな奴か
確かめてやろうと」
玲菜はコクリとうなずく。
確かに、そうすれば相手の男がどんな奴か、
そして京香が何で悩んでるのかわかるな。
グッド!
「よし。それでいこう。作戦名は?」
「『愛のストーカー大作戦』よ」
「なんか古いな」
まあ、それはともかくとして。
俺たちは電話で連絡を取り合い、
妹のあとをつける作戦を練ったのであった。
*
そのまた翌日。
空は快晴で、雲一つない朝。
京香は白のワンピースを着て、出かける準備をしていた。
荷物をかばんに詰め込み、玄関前で俺にぎこちなく挨拶する。
「いってきます」
「おう」
京香はすたすたと歩いていった。
完全に京香がいなくなったのを確認してから、
俺はいそいで荷物をまとめ始める。
「えっと、変装用のあれとこれも必要だよな……」
ぶつぶつつぶやきながら着替えを済ませ。
そして、ポケットの電話を取った。
「玲菜、京香のGPSそっちに届いてるか?」
「ええ」
「じゃあ、お互いに気をつけて」
「そうね」
短いやりとりをして、電話を切る。
コートを羽織ると、なんだか自分が一流のストーカーになったみたいだ。
俺は全然嬉しくないぞ。諸君もそうだろう。
かばんを持って、スマホ片手にドアを開ける。
外に出ると、眩しい日の光が俺を照らした。
さあ、作戦開始だ!!
いつも読んでいただきありがとうございます。
これから物語が大きく動いていきます。
ちょっと甘酸っぱい、すれ違う二人を応援していただければ幸いです。




