プロロロローグ
初めての恋愛作品で、緊張しています。
キャラクター達のやりとりで、読者の皆様を笑顔にさせられたらなと思っています。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
「お兄ちゃん、起きて!」
目が覚めると、そこは異世界だった。
いや、そこの君ブラウザバックしないで。転生じゃないから。
お願い。チート出てこないからブラバしないで。
……ゴホン。じゃあ何でお前は異世界にいるのかって?
それは、俺がこの状況を「異世界」としか表現できないからだ。
俺は、両手両足をふかふかのベッドに結束バンドで固定されていた。
しかも、あろうことか俺の上には妹がまたがっている。
周りにはピンク一色に染まった家具類と大量のぬいぐるみ。
な?異世界だろ?
少なくとも俺はそう思うぞ。
え?何で妹にまたがられてるのかって?
知らないよ、聞くなら俺の上にいる妹に聞いてくれ。
「お兄ちゃんおはよう!
じゃ、早速気持ちいいこと、たくさんしよっか!」
「お前は何を言ってるんだ」
はぁ。
どこで俺は道を間違えたんだ。
こうなった原因は数時間前にさかのぼる……
*
説明しよう!
俺の名は佐藤冬樹!
背が高いだけで貧弱な体と、自分から女の子に話しかけることも
ままならない程の豆腐メンタルを併せ持つ究極(に弱い)生命体だ!
年は十九になる。大学生だが、無論大学内に友達などほぼいない!
女性経験?あるわけないだろう。ひねくれ大学生を甘く見るな!
二次元の嫁を三次元に召喚すべく、日々研究の毎日だ!
……つまりコミュ障童貞ぼっちって事だな。つらい。
だが、そんな俺にも一つだけ誇れる事がある。
それは、妹の京香の存在だ。
後ろでまとめられた、艶やかな茶髪のツインテール。
ぱっちりと開いた目。
高くて澄んだかわいい声。
家事は万能、しかも優しくて気が利く。
京香は、全人類の男が惚れて求婚しそうな女の子だった。
――変態で、なぜか俺の童貞を狙ってくる事を除けば。
*
「今日も課題が山積みだな」
家への帰り道。
俺、佐藤冬樹は、家でやる課題の事を考えながら憂鬱な気分で歩いていた。
どんよりとした曇り空。湿った空気が、俺にまとわりつく。
「まったく、大学生は最低だぜ」
俺はそんな気分を晴らそうと、今日届くある本について考え始めた。
「まあでも、今日はにじまる先生の新刊が届く日だからな……
ぐふふふ」
にじまる先生とは、いわゆるR18を専門とする漫画家の先生である。
出てくる女の子がとっても活発なのが作風で、
俺の性癖ドストライクの作品を数多く生み出している。
……ここまでで賢い読者諸君は察したと思うが、
俺がうっきうきで注文したのは、俗に言うエロ本という奴である。
男たるもの、エロ本の一冊や二冊は誰しも持っているものだ。
それは鳥に翼があるがごとく。至って自然な事だ。
だからそこの君、俺に冷ややかな目線を送るんじゃない。
「ふぅ~」
家が見えてきて、俺は息を大きく吐いた。
家族にもばれないように、誰もいない時間を指定し。
講義もずらして教授に頼み込み。
やっと注文した魂の一冊。
それが今日、俺の元に届くのだ。
俺は感動していた。深く、深く。
家の前に着いた。期待と興奮で震える手でドアを開ける。
俺の美少女妄想ライフが、再び幕を開けるのだ――
「お!お兄ちゃんお帰r」
目の前に現れたのは、あられもない姿の桃色美少女……ではなく、
この時間帯には学校にいるはずの、俺の可愛くない妹だった。
――しかも、エロ本を読んでいる。俺の。
ガチャリ。
俺はすぐさまドアを閉めた。
事態が理解できない。
深呼吸だ。深呼吸。落ち着け冬樹。
お前は出来る子だ。今の妹は幻だ。
俺はそう自分に何度も言い聞かせ、
なんとか冷静に再びドアを開ける。
「お兄ちゃん、この本面白いね!
女の子の気持ちになって読んだら興奮しちゃった!」
「キェアアアァァ!!!」
俺は白目を剥いて卒倒した。
妹にエロ本を読まれたという事実に、耐えられなかったのだ。
*
というのが俺の覚えている記憶である。
今の段階では三つ謎が存在している。順番に考えていこう。
一つ目、「なぜ妹が学校ではなく家にいたのか?」
これが最大の疑問である。
なぜそんな狙ったように妹は学校を休んだのか。
二つ目、「なぜ妹は兄のエロ本を読み、そして興奮したのか?」
こっちはもう答えが出ているといっても過言ではない。
京香(妹の本名だ)は、変態ブラコンだからだ。
兄の俺に性的感情を抱いているのか、そうでないのかはわからんが、
京香は様々な手で俺の童貞を狙ってくる。
しかも変態である京香は、俺の反応を見るのも大好きだ。
きっと、今回も俺に反応してほしかったに違いない。
「お兄ちゃん、服脱がしてあげるね!」
「やめろおおお!」
「ふふふ、そんなに照れなくてもいいのに」
「やめろって!」
「ふふふ、かわいいお兄ちゃんめ」
甘ったるい匂いを漂わせ、笑顔で俺の服を剥ごうとする京香に
俺は全力で抵抗しながら考える。
三つ目は「なぜ俺は拘束されているのか」だが、
これは言わなくても分かるだろう。
そう、俺の童貞を奪う為だ。
俺が隙を作ってしまうとこうなる。
まったく……冗談はエロ本の中だけにしてくれ。
「お兄ちゃん! チューしよ!」
妹の顔が目の前に迫ってくる。
近くで見ると少しかわいい。
活発そうなあどけない顔に、明るい茶髪のツインテールが良く似合っている。
潤んだ瞳は、黙っていれば世の男を一撃で落とすだろう。
胸も大きいし。
……なんて考えている場合じゃない!
俺は手首の関節を外し結束バンドから抜けると、こっそり全身の拘束を解き始める。
なんでそんな事が出来るのかって?
細かいことは気にするな。為せばなる。
あと5センチという所まで顔が迫ってくる。
「お兄ちゃん~、キスしよ!」
京香の息遣いを肌で感じる。
間近で見るその美しい顔に、俺は一瞬動揺してしまった。
だが!!
俺は手を、チョップの形に構える。
お前に童貞は渡さん!!!
そう心の中で叫び、俺は京香の首にチョップを叩き込んだ。
「えっ」
そう短く驚いたように声をあげ、気絶する京香を確認し、
俺は大きく息を吐いた。
「今日も、俺の童貞は守られたな」
*