第12話 雪の王(3)
テリーの涙を見たくなかったんだ。
ほら、前の件で、お前、可愛いくらい泣いてただろ? ミス・リヴェが見つからないってさ。俺に助けを求めてきた時、俺、嬉しかったんだよ。お前の頼りになれてるんだって思って。でもその油断がお前の危険に繋がった。リトルルビィがお前の血を吸う事を阻止出来なかった。俺も反省したんだよ。だからこそ、もう二度と、お前を傷つけまいと俺は頑張ったさ。お前を守る。それが婚約者になってくれるための約束だったよな? だから、それを守ろうと思った。お前を事件に巻き込まないように、俺はたーーーくさん、お前に忠告して、お前の邪魔をして、お前を追いかけた。お前は逃げたけどね。もちろん、悪役になればそうなるだろうと思ったけど、少しは、少しは分かってくれると思ったよ。俺は何か考えを持って行動していると、お前なら理解してくれてると思った。俺はお前を信じたんだ。だからお前の背中を押した。そしたら、ねえ、なあに? 一体どうしたっていうの? 何が気に食わなかったの? 俺はお前を守った。俺はニクスを安全に助けようとした。その間、ずっと何言われても我慢して悪役に回って、テリー、お前を守ってやった。なのに、お前はあろう事か自分から危険な橋に渡ってしまったわけだ。
ねーえ?
テリー、
「俺、優しかったよね?」
にこりと微笑むキッドに、あたしは手を前に出して、青い顔で、顔を引き攣らせながら、且つ弱い顔は見せないように、冷静なのよという表情を浮かべて、じっと、真面目な顔で、頷いた。
「キッド、話せば分かるわ。話し合いましょう」
思ったよりも震えた声で言えば、キッドはにこにこと微笑み続ける。
「うん。話し合うって大事だよね。自分の意見も言えるし気持ちも伝えられる。テリーは伝える前に、報告する前に連絡する前に相談する前に出て行ったけど、そうだね。一つ俺からアドバイスをあげよう。テリーは今年で13歳になるんだもんね。じゃあ、もっときちんと周りの意見に耳を貸さないと駄目だよ? 相手がどんな心配するか知った上で行動するべきだよね? 特にお前は馬鹿なくらい馬鹿な行動をするんだから馬鹿なお前にはそれくらいが馬鹿ちょうどいいと思うよ」
キッドの笑みとは裏腹の低い声に、こくこくと頷く。
「ええ。それは、ええ、確かにあたしが悪かったわ。反省してる。本当、その、たんこぶが出来たのは、確かにあたしの自業自得でもあると思う。ええ。そう思う。今後はキッドの言う事にも耳を貸すべきかもしれない。本当に、そうね。確かにあたしが自ら危険に飛び込んだ。本当、目の前のことに集中して周りが見えてなかった。ええ。認めるわ」
「そっか、反省してるんだ。偉いね。テリー。良い子になってくれたのかな?」
「ええ。本当に、ええ、申し訳なく思ってるのよ。ええ、本当に…」
「じゃあ、もう無茶な行動しないね?」
「……しません」
「ごめんなさいは?」
「………悪かったわ」
「ごめんなさいは?」
「………………」
あたしはこくりと頷いた。
「悪かったわ」
「………テリー」
キッドがにこりと笑った。
「悪かった、は謝罪の言葉じゃない。俺はごめんなさいが欲しいんだ」
「………」
あたしは顔をしかめる。
「謝ってるじゃない」
「お前な」
キッドの片目が笑顔のまま引きつった。
「俺がどれだけお前のために手を尽くしたと思ってるんだ」
「ボディーガードでしょ。当然じゃない」
「お前を助けるために、リトルルビィも危険を顧みず助けに行った」
「そうね。リトルルビィには感謝してもしきれないわ。ニクスとあたしを助けてくれた。…キッドも先回りして情報を入れておいてくれたわ。確かにね」
「でもお前はそんな俺達の努力を無視して、一人で行動した。結果、このざまだ」
「だから、悪かったってば」
「よし分かった。テリー、こうしよう」
キッドが腕を組んだ。
「百回」
笑顔をあたしに向ける。
「百回ごめんなさいって、言え。今ならそれで許してやるから」
カチンと来たあたしがキッドを睨んだ。
「だから悪かったって言ってるじゃない」
「だからそれは謝罪じゃないから、ごめんなさいと言えって言ってるんだ」
「何よ。その言い方」
あたしは腕を組み、頬を膨らませた。
「あんたのそういうところ、良くないわよ。キッド」
「へえ。悪い事したテリーが俺に意見を言うの?」
「目の前の事しか見えなくなって、一人行動したのはあたしよ。それに関しては申し訳なかった。悪うございました」
「反省の意が見えないな。テリー。良い子になったんだろう?」
「反省してるじゃない」
たんこぶを優しく撫でる。
「はあ、痛い」
「お前な、頭に触りながら人と話すな。マナーも知らないのか」
「何がマナーよ。あんたよりは知ってるわ。さっきから何様よ、お前」
「テリー、お前が子供だから仕方なく優しく教えてあげる。相手が怒ってる時は、許してもらえるまで誠意をこめて謝るんだ。それが人と人が関わるためのルールってやつだ」
「罪を認めて謝った。もういいじゃない」
「お前のどこが謝ってるんだ」
「何よ。その言い方が腹立つのよ」
言うと、キッドの目がきらりと光って、その笑みが、また更に、深くなる。
「へえ!」
ただ、キッドの目は、笑ってない。
「自分が悪いのに、人の言い方がむかつくから謝らない。ほーう? 偉くなったねえ。テリー」
「だから謝ってるじゃない! 悪かった! あたしが悪かったってば! はいはい! あたしが悪かったわよ! 全部あたしが悪いのよ! これで満足!?」
「お前さ、家の人達にもそんな態度取ってるわけ? だったら改めた方がいいぞ。酷すぎる」
「なんでキッドにとやかく言われないといけないわけ? ムカつく奴ね! さっきからちゃんと反省してるじゃない!」
「だったら、ごめんなさいくらい言えるだろ」
「なんであんたに、ごめんなさいって言わなきゃいけないのよ!」
あんたなんか、
「悪かったで十分よ!!」
「最後のチャンスだ。今なら許してやる」
キッドが、口角を下げた。
「百回、ごめんなさいって言え」
「うるっっっさいわね!!」
ぷっちんと、あたしの理性の糸が切れた音がした。
「誰がてめえなんかに百回ごめんなさいなんて言うか!! 反省してるって言ってるでしょうが!」
「へーえ。そういう態度取る?」
「助けてくれた事も守ろうとしてくれた事も感謝してる! だから悪かったって反省してるでしょ! 何よ! お前! 人が下手に出れば調子に乗りやがって! 本当、その嫌味な言い方何とか出来ないの!? イライラするのよ!!」
「ふーん。そっか。よくわかった」
にこりと、またキッドが笑った。
「お仕置きだ。テリー」
キッドが自ら着ていたシャツの第二ボタンを外し、あたしに近づく。あたしは後ろに下がれない体を無理矢理後ろに押し込んで、キッドを睨み続ける。
「なななな、何よ! ギロチンの写真見せて拷問しようたって、あたしは折れないんだからね!」
「拷問なんてとんでもない。愛しい我が姫にそんな事するとお思いですか?」
キッドがいやらしく微笑み、あたしから毛布を引きはがした。
「わ! ちょっと! 毛布返して!」
ベッドに乗り込み、あたしの右足首掴む。
「ひゃっ! ちょっ! どこ触ってんのよ!」
ぐいっと引っ張られ、あたしの右足が持ち上がる。あたしの体はベッドに倒れる。ふくろはぎと足首を掴まれて、あたしの足がキッドに向けられる。
キッドは足の横から顔を覗かせて、あたしに微笑みを見せた。
「お前が百回、ごめんなさいと言うまで、俺はこれから、お前の足を舐める」
(はあ?)
顔をしかめ、キッドの行動を察する。
―――ああ、そういうことか。
納得し、今度は、あたしが笑う番だ。くくっと、笑い、いやらしい目でキッドを見下ろす。
「あんたね、あたしにこんな下品ではしたないポーズを決めさせて、あたしが恥ずかしくてごめんなさいって言うとでも思ったんでしょ。おほほ! 残念だったわね。あたしはまだ子供なの。こんな下品ではしたないポーズなんて何とも思わないんだから」
「へえ。それは残念だな」
「それに、もう一つ教えてあげるわ。あたしは今日一日朝からこの時間までお風呂に入ってない。ずっと蒸れたブーツを履いてた。いい? 人の足って使うと雑菌がつくのよ。雑菌がつくと何が起きるかというと、臭いがつくの。つまり、今のあたしの足は臭うのよ。それを舐めるなんて正気なのかしら?」
余裕の笑みを浮かべ、にんまりと微笑むと、キッドも微笑んであたしに返事をする。
「ああ、知ってるよ。お前が屋敷からこそこそ出てきてずっと走って頑張ってた姿は連絡がきているから全部知っているさ。朝から全くご苦労様だったね。テリー。でもね、俺を舐めてもらったら困るよ。俺はテリーと愛し合っている婚約者なんだ。愛する人の足ならば、どんな臭いだって舐めれるさ。それすらも愛おしいと思えるからね」
「呆れた。やれるもんならやってみなさいよ。あたしは貴族よ? 足を庶民に舐められて、ごめんなさいと言うとでも?」
「お手並み拝見といきましょうか? プリンセス」
「はっ! ちゃんちゃら笑える!」
鼻で笑い、あたしが邪魔な長い髪を払うと、
「それではいただきます。レディ」
キッドがあたしの足の指を口に入れた。ぱくりと、呆気なく。
(こいつ、本当にやりやがった…!)
ぎょっと目を見開くと、キッドの口角が上がった。そして、
舌が、動いた。
―――――直後、
あたしは悲鳴をあげた。
ひぃいいいいいいいいいやぁああああああああああ!!!!
その気持ち悪さに、そのくすぐったさに、そのねちゃねちゃする感覚に、足がすくみ、震え、体ががたがたと震え、揺れ、首がすくみ、背筋がぞわぞわして、足の指がピンと伸びて、手の指が痙攣した。
「き、きき、き、キッドーーーーーーーー!!」
キッドの舌が動く。
れろれろと、動く。
「キッド、キッド、キッド、だめっ! だめっ! だめっ!」
れろれろと動く。
「やぁあああ! 待って! 待って待って待って!」
れろれろと動く。
「待て待て待て待て待て待て待て!!」
れろれろと動く。
「て、てめっ、…このやろー! おまっ、絶対許さないからな! 絶対許さないからな!? 覚えてやがれよ! てめえみたいな庶民なんてなあ! あたしがベックス家を継いで紹介所の社長になってから金と権力を使ってぶつって潰してやるんだから! てめえなんて一溜まりもねえんだからな! たわけ! たわけたわけたわけ!! ぶつって潰して、ぶつってつぶって、ぶつってやるんだからな!!」
れろれろと動く。
「ぶ、ぶつって…ぶつって……! ぶつって………!!」
れろりと、動きを変えた。
「やぁああああ! ちょぉおおっ! やめてぇえええ! やめてよぉおお! やめてぇえぇえ!」
れろれろと動く。
「んんんんんんんぅうううううう! うううううううううっっっっっ!!」
れろれろと動く。
「だって、ニクスが、ニクスッ、ニクスが、ニクスがぁああ、やぁああああぅうううううう! やめてぇえええええ!」
れろれろと動く。
「ごめんなさいっ! ごめっ、あぅっ、ごめんなさいいいいい! ごめ、ごめ、ご、ごめ、ごめんなさぃ、あぅっ、ごめんなさい! ごめんなさい!」
れろれろと動く。
「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさいってば! ごめんなさい!! お願いだから、お願い、だから! もう、お願い! やめて! やめて! やめて!! やめて!!! やめて!!!!」
ぱっ。
口を足の指から離して、足首を掴んだまま、キッドが楽しげに、にんまりとした表情で、何気に少し頬を赤くさせて、興奮した様に、期待した様に、肩で呼吸するあたしの顔を覗き込んできた。
「反省した? テリー」
はあはあ、ぜえぜえ。
呼吸を繰り返しながら、ぎろりと、キッドを睨む。
「さ、最低…。変態。本気で足を舐める奴がどこにいるっての…?」
「ごめんなさいは?」
「もう言ったでしょ! ごめんなさいでした! はいはい! これで満足!?」
「もう、仕方ないなあ」
キッドが微笑んで、あたしの足を縦に立てる。そして、足の裏を下から上にかけて、舐めあげていく。
つーーーーー。
その舌遣いが、また、これがまた、―――気持ち悪い!!!!
また、悲鳴が上がった。
ひぃいいいいいいいやああああああああああああああああ!!
また指を咥えられる。
ぱくりと。
舌が動く。
れろれろと動く。
「ごめんなさいっ! ごめんなさいっ! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめっ、ごめんなさい!!」
れろれろと動く。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
れろれろと動く。
「やぁあああああ! 謝ってるのにぃいいい!!」
れろれろと動く。
「んっ! やだっ! も…っ! ぁっ…! ゃっ…! …っ! …っ!」
口元を押さえて、唇を噛んで、その何とも言えない、気持ち悪い感覚に堪え、我慢しだすと、キッドが口を離す。
「テリー。言わないと終わらないよ」
「あたし、謝ってるもん…! 何度も言ってるもんんん…!」
ぶるぶると体を震わせて上擦った声で叫ぶと、キッドの目がにこやかに薄くなる。
「まだ百回言ってないでしょ?」
ぎろっと睨む。
「ふざけんな!! 庶民のくせに!! あんた、本気でいい加減にしなさいよ!」
指をキッドに差すと、またにこやかに、舐められた。
ぺろりと。
やぁああああああああああああああああっ!
つーーーーーーー。
「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」
れろれろと動く。
「ごめっ、ごめっ! ごめっっ!」
れろれろと動く。
「も、もうやだ…! ふぇえっ、んっ、んぅううっっ…!」
ぱっ、と離れる。
「ほら、泣いても駄目。俺は同情なんてしないよ。テリー?」
「ぇええんっ、えっ、ええんっ!」
「ごめんなさいは?」
「ごめ、ごめんなさいっ、ごめんなさいっ、ごめんなさい! ごめんなさいっ! ごっ、ごめんなさい!」
「はい、あと70回」
「ええええんっ…! ふぇえっ…! ええええんっ!」
「泣いても許さないよ。ほら、ごめんなさいは?」
「ひっ…ごめんなさい…っ…ごめんなさい…っ…ごめんなさい…ひんっ…ごめんなさい…ごめんなさい…!」
「どこ見てるの? 俺を見て謝って? ね? ほら」
「うぅ……キッド、ごめんなさい…本当にごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」
「うん、うん。良い子。そうやって普段から素直になれば可愛いのに」
「…ちくしょう…! …この恨み…! くっ…! …晴らさないで、おけようか…! …絶対潰す…、っ、潰す…!」
「……………テリー」
ぱく。
「やああああああああああああああああああ!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
れろれろ。
「ふええええんっ! もうやだああああ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
れろれろ。
「~~~~~~~~っっっっっっ! ごめっ……ごめっ……! …ふっ…ふぇえっ……ごめ、ごめんな、さい、ごめんなさい、ごめんなさい、…はっ……ごめんなさい…ぅうっ…ごめんなさい……!」
つーーーーー。
「んんんんんんんんっっ……!!! ……はぁっ…ぅうっ…ご、ごめんなさい…ごめんなさいごめんなさい…ごめんなさい、ごめんなさい…っ…」
ぱっ。
「だんだん雑になってきてるよー? テリー? 謝罪の気持ちを込めないと」
「だってっ! だってっ! キッドが変な舐め方するから…!」
「えー? 俺のせいなの?」
「だってっ! だってっ!」
「駄目だよ。俺は許さない。あと50回謝って」
「キッド…っ、本当に、反省してるから…っ、もうやだぁ…!」
「駄目だよ。許さない」
「ふえええんっ、やだああああ! ええええんっ…!」
「ほら、左足もいくよ?」
「やだやだやだやだ!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
「ほら、抵抗しない。無駄だよ」
「やめてやめてやめてやめて! ひいいい! やめて! やめろ! おい! ふざけんな! 触るな! 汚らわしい! 嘘つき! あたしの涙を見たくないって言ったのは誰だ! お前だ! このキッドめ! このキッドが! このキッドの分際で! このキッド野郎! ふざけんな! このテリーに触るなんて50年はや…わあああああ!! 足が! 左足が取られた!! いいいいいい!!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
「ふふっ。テリー、キッドの分際で、キッドの指で、触れられるとどうなの?」
下から上へ、つーーーーー。
「いっっやああああああああああっっ!! もっ! さいってい!!」
「結構。感度も期待以上だ」
ぱく。
「ひゃあああああああっ!!!!? ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
れろりれろり。
「ごめんなさっ、ひゃっ、ちょ、無理無理無理無理! ごめんなさいっ! あっ! ~~~~~っっ!!! くううううううううううっっっっ! ごめんなさいっ! ぁっ、ごめ、ごめんなさいっ! ごめんなさい!! ごめんなさい!!」
れろれろ。
「…ぁっ…助けてぇ…! り、リト…ルビィ…!」
「おっと、妬けるね。むかついたよ。テリー」
ぱく。
「んんんんんんんんっ……! ごめんなひゃい、ごめ、ごめんなさい! あっ…あっ…ごめんなさい…! んっ……ごめん、なさい! …ふぇっ…ごめんなさい…!」
れろれろ。
「…はっ…はっ…ご、ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ひゃっ!? ……っっああああああ……ほんと、無理……! ~~~~っっっ……! …ごめんなさぃ…! ごめんなさぃ…!!」
れろれろれろれろれろ。
「あああ……あ、あああああ……あうううう……」
ぺろ。
「ひいいいいいんっ! ごめんなさいごめんなさいっ! ごめんなさい! っ、はあ! ごめんなさい! ごめんなさい!!」
れろれろれろり。
「やっ! んんんんっ! ごめ、ごめんなさい! …ゃああっ! それ、も、ごめんなさい! もう、ごめ、ごめんなさい! やめて! ごめんなさい…ふえええっ! ぇっ…! …んんんっ……! …ごめんな、さい…!」
れろれろれろれろれろりれ。
「……っく、…ひんっ…! …ごめんなさい…! ごめ、ふぇっ…ごめんなさいっ…! …んひゃっ…! えええんっ…! …ごめんなさい…! …ひっ…、く、ぅええんっ…! ……ごめんなさい…ごめんなさい……」
ぱっ。
「よし、ラスト五回」
キッドがあたしの足をようやく離して、あたしの顔の横に手を下ろし、体を伸ばし、膝を下ろす。ぐったりと倒れこむあたしの上に覆いかぶさる。ベッドが、ぎしりと、音を立てた。
腕で口元を隠して、涙でいっぱいで、顔を熱くさせて、肩で呼吸するあたしの顔を、キッドがうっとりと、恍惚と、微笑み、うっとりと、口角を上げて、見下ろし、あたしの口元を隠す腕を強く掴んで、あえて退かそうとする。あたしは顔を見られたくなくて、ぐっと力をこめるが、無駄な抵抗だと嘲笑うように、簡単に、手を退かされた。
あたしは目を瞑って、ふいっと顔を逸らす。
「見ないでよ…! ぶぁか…!!」
(屈辱…!!)
「もう、テリーってば。お前が一々する反応にぞくぞくしちゃうよ」
「ううううっ…!! ぐっ…! この変態…! 16歳のガキのくせに…! まじで許さないんだから…! 覚えてなさいよ、キッド!!」
「あー、いいね。お仕置きはこれだから止められないよ」
「くたばれ! 巨人に踏まれて、くたばってしまえ…!」
「おっと、そんな口、叩いていいのか?」
そっと、キッドの長い指が、あたしの膝に触れた。途端に背筋に、ぞぞぞと寒気が走り、ぶんぶんと首を振る。
「や、やだ、やめて! 反省してるから! もう、反省したからぁ!!」
「うん、だったら、ラスト五回は、ちゃんと俺と向き合って、ごめんなさいして?」
キッドがあたしの両手首を掴んでベッドに貼りつけた。12歳の少女に向けるような優しい笑みなど浮かべず、いやらしく、その形のいい唇を舌なめずりしながら、頬を赤らめさせて、あたしを見下ろす。
(くそっ…こっちは鼻水と涙でいっぱいだっていうのに…!)
ずず、と鼻をすすりながら、キッドと目線を合わせる。
「……キッド」
「うん」
「ごめんなさい」
「うん」
「…ごめんなさい」
「うん」
「…悪かった。ごめんなさい」
「うん」
「ごめんなさい」
「うん」
「…ごめんなさい」
「はい、よくできました」
くすっと、優しく笑ったと思ったら、体が倒れて、優しく、そっと、割れものを扱うように、柔らかく抱きしめられる。そのぬくもりにさっきまでの恐怖と気持ち悪さが緩和される。体が脱力して、動けない。
(……終わった……)
ぶるぶる震えてた体がどんどん落ち着いてきて、震えが収まっていく。でも、唇は未だ震えてる。心臓も震えてる。手はまだ震えてる。そっと、キッドがあたしの手に手を重ねてくる。ぴくっと指が動くと、優しく指が重なり、指同士が絡まる。ぎゅっと握られる。耳元で、くくくっ、とおかしそうに笑うキッドの笑い声が聞こえた。
「気持ちよかった?」
「…ふざけんな。ロリコン…。…気持ち悪かったわよ…」
「くくくくくっ…! いやあ、よかったよ。本当に、実によかった。俺が出会ってきた中で一番いい反応だったよ。強気なテリーを泣かせた瞬間のあの快感、…ああ…、本当に忘れられない。あれはもうね、最高だったよ…。俺は、軽く、ふふっ、心が絶頂しかけたね。くくくっ…! もう、もうさ、いっそうの事、足を斬り取って永遠に舐めていたくなるくらい、可愛い泣き声だったよ。テリー」
「悪趣味、最低、最悪、間抜け、阿呆、とんちんかん、あんぽんたん、おたんこなす、すかたん…!」
「あはは! すげー悪口!」
こつんと、あたしの額にキッドの額を押し当てられる。目が、合う。
「…っ」
「…反省した?」
その見つめてくる目に、黙って、小さく頷く。
「ん、もう一人で勝手に行動しちゃ駄目だよ」
「…ごめんなさい…」
「うん。皆、心配したからね」
「………」
「とりあえず、ニクスや、凍っている人達を助ける方法を考えないと。…で、テリーは空を飛んだって?」
キッドは、綺麗な、涼しい顔で、笑っている。
「ね、どうやって飛んだの? 俺に教えて?」
「……その前に、キッド」
「ん?」
「うがいして」
…………。
くすっ。
「俺はこのままでいいよ」
「あたしは良くない」
「お前の足の雑菌が口の中にいると考えたら、もう興奮してくるよ。ああ、臭いの事も気にしなくていい。癖になりそうな臭いだった、うん。もう、体がぞくぞくして震えそうなくらい、癖になりそうだった」
「キッド、お願い。これだけは本当にお願い。うがい、もしくは、歯を磨いて。あたしが悪かったわ。ごめんなさい。もう何度でも言ってあげるわ。ごめんなさい。本当に、もう、キッドたちにちゃんと話すし、空を飛んだ理由も話す。お婆様の助言も言うわ。だから、ね、歯磨きして」
「ふーん。…そっか」
キッドは残念そうに、でも、にこやかに。
「話を聞きたいから、うがいにしておくよ。歯磨きは、まだ夕飯を食べてないから、寝る前でいいや」
「…………」
「あはは、俺、お前のその顔が好きなんだぁ」
にんまりと、笑いやがる。
「そのうんざりしたような、仏頂面」
あたしは目を逸らした。
「……うるさいわね……」
「はーあ、楽しかったぁ。もう一回やりたいなあ。ねえ? テリー。ほら、悪い事していいよ」
「…二度とするもんか…」
ずずっと、また鼻水をすすった。