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おとぎ話の悪役令嬢は罪滅ぼしに忙しい  作者: 石狩なべ
三章:雪の姫はワルツを踊る
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第6話 雪の城(1)


 11時。

 ミセス・スノー・ベーカリー。


 うとうとしているニクスの肩を叩いた。


「ニクス」


 ニクスがはっとして顔を上げる。ぼんやりとあたしを見て、ぼんやりと笑顔になる。


「やあ、テリー」

「体調はどう?」

「もう大丈夫。ありがとう」


 レジカウンターの中で、ニクスが伸びをした。


「ああ、駄目。眠ってしまいそう」

「寝てないの?」

「いつもよりは寝たよ。体調も良くなかったから」

「お父様は? なんて言ってるの?」

「お父さんは仕事で忙しいから」

「なら、体調管理は自分でちゃんとしないと」

「ふふ。テリー、お母さんみたい」


 ニクスが柔らかく笑った。


「ありがとう。テリーとお喋りしてたら、目が覚めてきた」


 ニクスがのろりと立ち上がり、カウンターから出てくる。


「今日のおすすめのパンを教えるよ。だけど、その前に、一つテリーに提案を聞いて欲しい」

「提案?」


 あたしが首を傾げると、結んだポニーテールがゆらりと動いた。ちらっと、ニクスがあたしの顔を覗き見る。


「テリー、スケートって好き?」

「…………」


 一瞬黙った後、すぐに、にこりと笑った。


「大好き!」


 ニクスが顔を眉をひそめた。


「…………苦手なの?」

「な、何言ってるの。やだ、ニクスったら。苦手じゃないわよ?」


 あたし、貴族のお嬢様なのよ?


「スケート如き、別に苦手じゃないけど? え? 何言ってるの。ニクスったら。ちょっと、やめてよ。あたし別に氷なんて怖くも何ともないわ。ニクスはスケート好きなの?」

「テリーは、苦手なんだね…」

「ちょっとやーだー! 苦手じゃないわよー! ニクスったら何言ってるの!? おっほほほほほほ!」

「苦手なんだ…」

「苦手じゃない!!!!」


 全力で否定するとニクスが苦く笑った。


「名案を思い付いたんだ。テリーと遊べる唯一の方法」

「え?」

「夕方、16時以降」


 ニクスがにんまりと口角を上げた。


「一緒に遊ぼうよ」

「……遊べるの?」

「うん」


 ただ、一つだけ。


「一時間だけね」


 ニクスがトングを持った。


「その後は用事があるから、一時間だけなら遊べる」

「そう」

「まずはお試し期間。今日、時間ある?」

「ええ」


 頷く。


「あたしは大丈夫」

「OK。じゃあ、16時頃に噴水前で待ってて」

「噴水前で?」

「うん」

「わかった」

「必ず行くよ」


 ニクスが売り棚の前で立ち止まった。


「さあ、お嬢様。本日のおすすめは、パンの詰め合わせ。なんと6種類のパンが一袋に詰め合わせて入ってます」

「あら、いいわね」

「お買い得ですよ。お姉さんや妹さんに、小さな女の子にも、いかがですか?」

「確かにお得だわ」


 いただこうかしら。


「ニクス、何袋用意できる?」

「おっと、どうかな。いくつくらい必要?」

「今日は持って行きたい所があるの」


 そうね。


「用意出来る分、沢山ちょうだい」




 というわけで、



「お裾分けです」


 紹介所職員が、ジェフが、山ほどあるパンの詰め合わせ袋を見上げた。

 事務所に全部運んだ警備員が疲れ果て、その場に座り込んだ。


「ディラン! こんなに力仕事したのは久しぶりだぜ! 見ろよ。輝く汗が止まんねーぜ!」

「ブロック、俺はどうだ? パンを運んで、ちょっとはパンパンなパン腹を吸収してもらえたかもしれない」

「何言ってやがるんだ! お前もただの汗だくの豚だぜ!」

「なんてこった! 飛べねえ豚はただの豚だってな!」

「「HAHAHAHAHA!!」」


 パンの袋を見て、あたしを見て、ジェフが、ぶわっと滝のような涙を流した。


「テリーーーーさばあああああああ!!!」


 ジェフが、あたしの手を握り締めながら号泣する。


「こんな寒い中でのご訪問!! そして、お裾分けの暖かいパン!! なんて、なんてお優しい!!!」


 紹介所職員が一斉に喜んだ。


「ミセス・スノー・ベーカリーのパンですね!」

「やった! 俺、あそこのパン好きなんだ!」

「おい、見てみろ! ベーコンチーズパンが入ってるぞ!」

「本当だ! ベーコンチーズパンだ!」

「なんですって!? ベーコンチーズパンですって!?」

「私、ずっと食べたかったのよ!」

「俺なんか夢にまで見たぜ!」

「よーし、じゃんけんだ!」

「ちょっと、そこはファースト・レディでしょ!」

「この場合、関係ないと思います! にこっ!」

「ベーコンチーズパンは俺のものだ!」

「ベーコンチーズパンは私のものよ!」

「「うおおおおおおお!! ベーコンチーズパンは譲らねえええええ!!」」


 職員が外の扉に札を下げた。

『本日のランチ時間のみ、閉館します。ご用の方はロビーにてお待ちください』


 職員達がじゃんけん大会を開く。


「「じゃーんけん! じゃーんけん! じゃーんけん!」」

「テリー様、何とお礼申し上げたらいいのか…! ありがとうございます…!」

「大袈裟ね。Mr.ジェフ。パンくらい、いつだって届けるわ」

「なーにをおっしゃいますか! テリー様! 12歳にしてこの気遣い!! このジェフは、あなたの会社で働けて幸せです…!!」


 ジェフがハンカチで鼻をかんだ。


「テリーさずびいいいいいいいいい!!!」


(またこの人は大袈裟すぎる…)

(とても真面目で紳士でいい人なんだけど…)

(リアクションがオーバー過ぎる…)


 職員一同大袈裟すぎる。たかがランチで。たかがベーコンチーズパンで。どうなってるのよ。この会社は。ちゃんとホワイト企業に設定されてるんでしょうね。


「そういえば、テリー様」

「ん?」


 ジェフを見上げると、ジェフが自分の鼻下に伸びているひげをつまみながら、あたしに向き合う。


「大きな地震の日、キッド様とお出かけされていたそうで…。…大丈夫でしたか? お怪我は?」

「ああ、平気よ。何ともない。キッドもいたし」

「そうでしたか。それは良かった。………おデートの時に地震とは、タイミングの悪い奴め…」


 ぎりっと、悔しそうにジェフが歯を食いしばり、関係のない横の壁を睨みつける。その姿に、あたしは目を瞑る。


(デートじゃない)

(あれは出かけただけ)

(キッドと勝負に行っただけ)

(否定したいけど、…もう面倒くさいからいいや。放っておこう)


 地震に怒るジェフを再び見上げる。


「貴方は平気?」

「私は平気です。もちろん職員一同も」

「そう。良かった」

「また揺れるかもしれません。用心してください」

「Mr.ジェフもね」

「ははっ。有難きお言葉です」

「仕事の紹介を受けに来た人にも、怪我をした人はいなかった?」

「ご心配には及びません。きちんと対応させていただきました。全員無傷です」

「そう。ならよかった」

「地震が起きているというのに、この会社の売り上げは相変わらずの右肩上がりです」


 仕事は溢れている。仕事を求める人が溢れている。


「テリー様、皆、この紹介所のお陰で助かってますよ。ええ、本当に」

「働いてくれてる人達のお陰だわ。貴方も」

「私は、自分の仕事をしているだけです」


 ただ、地震には困ったものですね。


「地下室には、管理している書類が山ほどしまってあるのです。しかし、地震が起きるたびに片付けていては、人手が足りなくなってしまいまして」

「困りものね」

「そこで、新しい棚をいくつか用意しようと思います。地震対策にぴったりのものを。ただ、少々お値段が高く…」

「いいわ。Mr.ジェフ。会社のお金を会社のために使うなら大賛成。貴方に任せるわ」

「おお、それは良かった。早速手配しましょう」

「個人情報系の書類は特に大事だもの。大切に管理して」

「このジェフにお任せを」


 ジェフが優しく微笑んだ直後、ベーコンチーズパンの入った袋を手に入れたじゃんけん優勝者が、喜びに拳を高く掲げた。



(*'ω'*)



 16時。


 一度屋敷に戻って、再び街へ。

 噴水前に行くと、10分ほど遅れてニクスが走ってきた。


「テリー!」


 長靴に雪がついている。


「遅れてごめんね。ちょっと忙しくなっちゃって」

「大丈夫!」


 にっこり笑ってニクスを出迎える。


「あたしなら大丈夫よ。ニクス!」


 遅い!!!!!


(あたしを10分も待たせるなんて、何考えてるの!?)


 凍え死にさせるつもりか!!!


「寒いのにごめんね」

「平気だってば。ほら、あたしのコート、すごくあったかいの。だから平気!」


 寒かったわ!!!

 コートの生地がどんなに上等で厚くても、めちゃくちゃ寒かったわ!!!!


(自ら呼び出しておいて遅れてくるなんて、分かってるんでしょうね! ニクス! 埋め合わせはしてもらうからね!!!)


「で? ニクス、どこに連れてってくれるの?」

「テリーはお嬢様だから」


 ニクスがくすりと笑う。


「お城なんていかが?」

「……お城?」

「そう」


 ニクスが、あたしの手を握る。


「雪の国へ行こうか。テリー」


 顔をずいっと近づけて、


「こっち!」


 ニクスが走った。

 あたしは引っ張られる。

 転びそうになりながら、でも歩幅は同じくらいで、ついて行くのは苦じゃない。一緒に走る。


 雪を踏む。

 氷を滑る。

 雪を踏む。

 雪道を走る。

 広場を抜けて、商店街を抜けて、誰かの庭に忍び込んで、ゆっくり進んで、走って、上って、雪道の小川を通って、橋を超えて、抜ける。


 立ち入り禁止の看板が雪に刺さっていた。


(あれ)


 見たことある。この看板。


「大丈夫だよ。おいで」

「うん」


 ニクスと看板を無視してその先へ進む。


 森に囲まれる。気味の悪い薄暗い一本道を進む。木々が揺れる。お化けのように揺れる。

 けれど怖くない。


 あたしの手をニクスが繋いでいて、

 ニクスの手はあたしが繋いでいる。


 森を進む。

 森を進む。

 森を住む。

 光が見えてくる。

 ニクスと森を出た。


「テリー、ようこそ」


 ニクスがあたしに振り向き、景色を見せた。


「雪の王国へ」


(ああ)


 ここか。


「雪の王国、ね」


 氷張りとなった地面。隣には工事途中の長いトンネル。


(そうだった。当時は、お化けが住む洞窟だと思ってた)


 でも、ニクスは洞窟とは言わなかった。


「あれが、雪の城!」


 ニクスがトンネルに指を差した。


「おいで。雪の王様に挨拶に行こう」


 ニクスがあたしの手を取り、雪山から下の地面に滑り込む。そして、氷の上へと、あたしを引っ張った。


「テリー、こっち!」

「ちょ、ちょっと! 待って!」


 氷に入る前に、あたしがニクスを必死に引っ張る。


「ニクス!」


 ここは相変わらず、


「辺り一面凍ってるわ!!」

「大丈夫。僕が手を掴んでるから!」


 ニクスがあたしの手を握ったまま、氷の上へと滑り出した。


(ひゃ!!!)


 長靴で、つるーっと滑っていく。

 あたしはブーツで、つるーっと滑っていく。

 ニクスの髪が揺れる。

 あたしのポニーテールが揺れる。


「ここ、寒くなる前に雨が降ったんだ。地面が窪み状になってるみたいで、水が溜まった状態で凍ったらしい。だから、湖の上みたいでしょ?」


 ニクスがケタケタ笑いながら氷を蹴る。


「でも安心して。湖みたいに底は深くないよ。雨が溜まってるだけだからね。氷が割れても、ちょっと足が濡れるだけ」

「でも、転んだら冷たいわ!」

「わかった。転ばないように気をつけるよ」


 ニクスがあたしを引っ張って、すいすい滑っていく。あたしはニクスにがっちり掴まる。


「ニクス! もっとゆっくり!」

「ふふふ!」

「ニクス!!」

「あはははは!」


 あたしが怯えれば怯えるほど、ニクスが笑う。あたしの手を絶対に離さず、軽やかに滑っていく。

 二人でトンネルの前に滑り、足を止める。体をトンネルに向ける。


「こんばんは! 雪の王様! この子はテリー!」


 背中を叩かれる。


「ほら、テリーも挨拶して」

「…こんばんは」


 返事は無い。あるはず無い。空っぽのトンネルは薄気味悪い。


「よし、挨拶したから行こう」


 ニクスが再びあたしの手を取って、滑り始めた。


「そーれ」

「ニクスーーー!!!!」


 あたしは再びがっちりニクスに掴まる。


「ニクス! 絶対離さないで!」

「大袈裟だな。テリーは。ブーツだからそこまで滑らないでしょ」

「滑るわよ!」


 たとえ刃で滑って無いとは言え、つるーって滑ってるじゃない!!

 なんでそんなに簡単に滑れるのよ! お前!


「大丈夫だよ。テリー。ずっと滑ってたら楽しくなるから」


 ニクスの前髪が揺れる。


「そうだ。雪だるまも作らないと」

「ええ、そうね…。氷の上を滑るより、雪だるま作りの方がずっといいわ…!」


 つるーん!


「ひゃーーー!」


 ニクスが手早くカーブして、あたしの手を取って、また滑る。まるで華麗なスケート選手。


「ニクスーーーー!」

「大丈夫だよ! ふふっ!」


(笑ってる場合じゃねえだろ!)


 あたしがそう思って睨んでも、視線に気づかないニクスは無邪気に笑う。黒い目が、前を見て、転ばないようにあたしを支えながら滑っていく。


「テリー、僕、ここで遊ぶのが好きなんだ!」

「ええ! そうみたいね! よっぽど楽しいんでしょうね!!」

「うん! 氷の上って楽しい! 友達がいなくても、一人で滑って遊べるから!」


 でも、


「今日はテリーがいるから、もっと楽しい!」


 ニクスがあたしに笑顔を向ける。あたしの目とニクスの目が合った。


(あ)


 見たことある笑顔。

 あたしに向けられる黒い瞳。

 純粋な、黒い瞳。

 雪のような微笑み。


 ニクスが、笑っている。


「あっ」


 ニクスが声を出した。


「え」


 あたしははっと、前を見た。


 直後、二人で雪山に突っ込んだ。


「わあ!」

「ぶぎゃっ!!」


 ニクスとあたしが頭から突っ込む。体が埋まる。ニクスが先に雪山から出てきた。冷たい風が吹いて、寒くて、体を震わせて、笑い出す。


「あはははははははは!!」

「んがーーー!」

「ははっ! おっかしい! あはは! 大丈夫? テリー! はっはっはっ!」


 ニクスがあたしの手を握り、ぐいと引っ張る。起き上がる拍子に、勢いつけて、あたしは握った雪玉をニクスに押し当てた。


「おら!!」

「ぶふっ!!」


 ニクスが再び雪山に沈む。あたしは起き上がる。


「ふう。ああ、なんてこと!」

「やったな! テリー!」


 はっとして振り向く。ニクスが瞳をきらんと光らせて、雪玉を握って、雪山から飛び出てきやがった。


(こ、こいつ! あたしに雪玉をぶつける気!?)


「えい!」

「させるか!」


 あたしは雪玉を避ける。雪玉を握り、にぎにぎして、固めて、ニクスに向かって投げる。


「えい!」

「わあ!」


 ニクスが逃げる。あたしの雪玉が雪に戻った。


「ニクス!」

「あははは!」


 ニクスが雪山に隠れた。

 あたしが雪の壁に隠れた。

 急いでにぎにぎ雪玉を作る。


(くそ! どこだ! どこに行きやがった!)


 顔を覗かせる。すると、ニクスも雪山から顔を覗かせていた。あたしの瞳が光る。


「そこか!」


 雪玉を投げる。


「っ!」


 ニクスの顔に命中する。


「うわっ!」

「っっしゃあ!!」


 拳を握って、また構える。


「ニクス! あたしと雪玉合戦なんて、10年早くってよ!」

「それはどうかな!」


 ニクスが雪山の横から走ってきた。あたしの目が見開かれる。


「何!?」

「覚悟!」


 ニクスが雪玉を投げる。あたしの顔に命中する。


「ぶっ!!!!!」


 あたしが雪に埋まる。ニクスがケタケタ笑った。


「あはははは! やーい! どうだー!」


 あたしは雪から出てこない。


「テリー! 出ておいで! 今度も当てるよ!」


 あたしは雪から出てこない。


「テリー?」


 あたしは雪から出てこない。


「……テリー?」


 ニクスが近づく。


「テリー…?」


 ニクスが傍まで歩いて来た。


「テ」


 その手を思いきり掴む。ニクスが目を見開いた。


「あっ!」


 引っ張る。ニクスが雪に埋まった。


「ぶふっ!」


 ニクスが吹き出し、笑いながら暴れ出す。


「あははは! テリー! それは卑怯だよ!」

「うるさい! あんたなんか雪まみれがお似合いよ! そのまま雪だるまになればいいんだわ!」

「だったらテリーも雪だるまになる?」


 起き上がったニクスがあたしの上にのしかかってきた。


「そらーーー!」

「ぶっ! やめろ! 重いでしょ!」

「どうだ! 抜けてみろー!」

「やめなさいって! ニクス!」

「あははは! はははは!!」

「あ! ニクス! あれ見て!」

「え!?」


 振り向いたニクスを突き飛ばす。


「うわ!」

「ふん!」


 ニクスの上にあたしがのしかかり、寝そべる。ニクスが暴れる。


「ちょっとテリー! 重たいよ!」

「うるせえ! レディに重たいとか言わないの!」

「今のテリーはどう見たってレディに見えないよ!」

「何ですって!? ごらぁ!!」

「あはははは!! お腹痛い! あはははは!!」


 ニクスが笑って、息を吸って、―――ゆっくりと、白い息を吐いた。


「テリー」

「何よ」

「雪が冷たい」

「雪は冷たいものよ」

「うん。だけどね、不思議なんだ」


 ニクスが微笑んで、あたしを見上げる。


「テリーが傍に居ると、体がぽかぽかしてくるんだ」


 ニクスが汗を拭った。


「ふふっ。暑いや」


 ニクスが笑う。


「冬なのに」


 ニクスが笑う。


「寒いのに」


 ニクスがあたしを見て、笑顔になる。


「すごく、あったかい」








 ここは、遊び場所。

 あたしとニクスの秘密の場所。

 あたしはニクスに引っ張られて、ここで遊んでた。


 そして、


 ここで約束をした。


 そう。この雪の王国は、二人だけの約束の場所。



 約束を、すっぽかされた場所。



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