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おとぎ話の悪役令嬢は罪滅ぼしに忙しい  作者: 石狩なべ
二章:狼は赤頭巾を被る
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第3話 クロシェ・ローズ・リヴェ(2)


 事が収まり、あたし達は部屋で勉強を開始する。

 まず最初に、ホワイトボードに先生が名前を書いた。


「これが私の名前。字はこう書くのよ」


 あたしとメニーがブラックボードを持って、ホワイトボードを眺める。


「メニーは自分の名前を書けるかしら?」

「はい」


 メニーがチョークでブラックボードに自分の名前を書く。


「はい」

「まあ、素敵な字。メニー。可愛い名前ね」

「ふふっ」


 メニーが笑う顔を見て、今度はあたしを見た。


「テリーはもちろん書けるわよね?」

「はい」


 あたしもブラックボードに名前を書く。


「はい」

「美しいテリーの花の名前。綺麗な名前ね。とっても素敵」


 クロシェ先生がホワイトボードの字を拭いて消した。


「今日は、私も初日なの。緊張してしょうがないから、二人とも、緊張をほぐすために付き合ってくれる?」

「はい!」

「うふふ! 素敵なお返事をありがとう。メニー」


 クロシェ先生が一枚ずつ、大きな紙をあたし達に配る。


「今から、二人には絵を描いてもらいます」

「絵?」

「何の絵ですか?」


 メニーとあたしが訊くと、クロシェ先生が人差し指を立てて、頬に添えた。


「そうね。何の絵がいい?」

「先生が決めるんじゃないんですか?」

「いいえ、メニー。決めるのは貴女達よ。描きたいものを描いてちょうだい」

「描きたいもの…?」

「何でもいいのよ」


 クロシェ先生が微笑む。メニーとあたしが顔を見合わせた。


「お姉ちゃん、何描く?」

「うーん…」


 あたし、絵って苦手なのよね。

 あたしはクロシェ先生を見上げる。


「何でもいいんですか?」

「何でもいいわよ」


(ふーん)


 テーブルに置かれたクレヨンはそういう意味か。

 あたしとメニーがクレヨンに手を伸ばす。


(どうしようかな)


 あたしは考える。


(色で誤魔化せばいけるかも)


 あたしはクレヨンで色を付けていく。


(緑)


 描いていく。


(ここに咲く)


 花がある。


(白)


 色を塗る。


(ここには赤)


 色を塗る。


(黄色もあった)


 色を塗る。


(…こんなもんかな)


 あたしが顔を上げると、メニーも顔を上げた。


「私、出来ました」

「あたしも」

「じゃあ、見せてくれる?メニーから」

「はい」


 メニーが絵を見せた。緑の猫の絵。見たクロシェ先生が微笑む。


「これは、さっきの悪戯猫ね?」

「はい!」

「ふふっ。とてもよく描けてるわ。この綺麗な瞳なんか、そっくり」


 クロシェ先生があたしの横に体をかがませた。


「テリーは?」

「ん」


 絵を見せる。クロシェ先生が首を傾げた。


「これは、どこかのお庭?」

「あたしの庭です」

「まあ、テリーにはお庭があるの?」

「はい」

「あの」


 メニーがあたしの正面から声を出す。


「お姉ちゃん、植物をたくさん育ててるんです」

「まあ、そうなの。素敵じゃない。そのお庭の絵なのね?」

「はい」

「今度見に行ってもいい?」

「はい。案内します」

「ええ。楽しみにしてるわ」


 クロシェ先生がそう言って、また紙を配る。


「じゃあ、今度は私の言ったものを描いてもらおうかしら」


 クロシェ先生がボードに絵のお題を描く。


『一番好きなもの』。


「さあ、描いてみて」


 メニーが赤のクレヨンに手を伸ばした。あたしは考える。


(一番好きなもの…)


 ちゅー。


(うっ!)


 駄目よ。あたし。真っ先に鼠を思い出すなんて、いけないことだわ。貴族令嬢として、鼠が好きだなんて言語道断。


(違うわ。鼠は恩人なのよ。恩鼠なのよ。一人ぼっちだったあたしの傍にいてくれたのは、鼠だけだった!)


 鼠こそ神!!


(でも、ああ、いけないわ。あたし。ここでメニーに弱みを握られるわけにはいかない…!)


 あたしは、負けない!

 あたしは黄色のクレヨンに手を伸ばす。


(ここはアピールしておく!)


 時間をかけて描いていく。時が過ぎていく。気にせず塗って、描いて、手を進める。クレヨンに手を伸ばす。メニーと手がぶつかった。お互い無視してクレヨンを掴んで描いていく。集中する。クロシェ先生は黙ってあたし達をそっとする。


 絵が完成した。


 メニーとあたしが顔を上げた。


「出来ました」

「あたしも」

「じゃあ、今度はテリーから見ましょうか」


 クロシェ先生があたしの絵を見た。目を見開く。


「まあ」


 あたしは一番嫌いなものの絵を描いた。


「ふふ。そう」


 クロシェ先生が微笑み、メニーの横に行った。


「メニーは?」

「ん」


 あたしに隠すようにメニーが紙をクロシェ先生に見せた。すると、クロシェ先生が笑い出す。


「あはははは!」


 あたしとメニーがきょとんとした。


「二人とも、仲が良いのね!」


 クロシェ先生がメニーの紙を回収した。あたしに見せないように、隠す。


「はい。テリーの絵もちょうだい」

「はい」


 あたしの絵をクロシェ先生が回収する。メニーに見せないようにする。


「二人とも、素敵な絵を描いてくれてありがとう。この絵は記念に私が貰っておきます」


 さて、とクロシェ先生が手を叩いた。


「今日はここまでにしましょう」

「え?」


 メニーが思わず声を出す。


「もう終わりですか?」

「メニー、時計を見て」


 あたしとメニーが時計を見る。授業が始まって、二時間が経っていた。


(えっ)


「え」

「ふふふ!」


 あたしもぽかんとする。メニーが思わず声を漏らす。クロシェ先生が笑った。


「二人ともよっぽど集中していたのね。ふふ。楽しめたようで良かったわ。今日はとりあえず、初日だし、ここまでにしましょう」


 もう二枚の紙も回収して、クロシェ先生がホワイトボードを壁の前に引きずって戻す。


「明日の授業は13時からよ。忘れないでね」

「「はい」」

「ふふ! 良い返事」


 クロシェ先生が微笑む。


「では、解散」

「メニー、立って」

「はい」


 あたしとメニーが声を揃える。


「「ありがとうございました」」

「お疲れ様でした」


 クロシェ先生が頭を下げて、また笑う。あたしとメニーはクレヨンを元に戻し、ブラックボードを持って椅子から下りる。


「行くわよ。メニー」

「うん」


 部屋から出て行く。階段を目指して廊下を歩く。


「授業、あっという間だったね」

「まあ、初日だから」

「明日もこんな感じならいいのに」


 メニーと歩幅を揃える。


「ねえ、お姉ちゃん」

「ん?」

「二枚目、何の絵を描いたの?」


 あたしはメニーに振り向く。


「あんたは?」

「秘密」

「………なんでよ」

「恥ずかしいから」

「ならあたしも秘密」

「えー」


 階段の前に行くと、メニーが何かを思い出した。


「あ、お姉ちゃん」

「ん?」

「猫ちゃん、迎えに行かないと」


 ああ、そういえば授業が始まる前に、使用人達に預けてたわね。


「取りに行ってくる」

「ええ」


 あたしは手を振る。


「行ってらっしゃい」

「うん!」


 使用人達の休憩室の方へ、メニーが駆けていく。あたしはそれを見送り、メニーが廊下を曲がって姿を消した瞬間、方向転換した。


(よし、あたしも行こうかしら)


 階段ではなく、裏庭へ。

 メニーの行った道と逆の方向を歩き始め、とことこ歩き、裏庭へ大股で向かう。


 ちゃんと正規のルートを通って歩き、裏庭への扉を開けた。


 いつのまにか暗くなった空を見上げ、すっと息を吸って、枯れた葉が落ちる木の上を見上げる。

 今日、事件を起こした猫が、使用人の休憩室ではなく、そこに丸くなってのんびりしていた。


 ふふ、と笑って、あたしは歩きながら歌い出す。



 迷子の迷子の子猫ちゃん

 あなたのお家はどこですか?

 お家を聞いてもわかりません

 名前を聞いてもわかりません

 にゃんにゃんにゃにゃん

 にゃんにゃんにゃにゃん

 鳴いてばかりいる子猫ちゃん

 犬のおまわりさん、困ってしまって

 わんわんわわん

 わんわんわわん



「大人気だったわね。皆に可愛がってもらって満足した? 子猫ちゃん」

「んにゃわけにゃいだろう!!」


 猫が大声を上げた。

 そして、くるんと一回転をして地面に着地したと思えば、瞬きをして目を開けた時に、すでにドロシーの姿に戻っていた。


 ドロシーがとんがり帽子を被り直し、あたしを睨み、めちゃくちゃな剣幕で迫ってくる。


「会って早々嫌味なお歌をどうもありがとう! 全く! いつも僕が君を助けてあげているのに! なんて皮肉だ! なんて歌だ! いいよ! 鳴いてあげるよ! にゃんにゃんにゃにゃん! にゃんにゃんにゃにゃん! どうだい! 満足かい! 満足なのかい! 満足したかい!?」

「ちょっとした冗談じゃない」


 ブラックボードで壁を作り、ボード越しから顔を覗かせてドロシーを見た。


「一体なんでああなったわけ? 誰かに見つかったの?」

「僕がそんなヘマするわけないだろ? ほんの少しだけメニーの姿が見たくなっただけさ。元気にしてるかなって思って。だから、本当に見るだけ。窓からじゃなくて、水晶からじゃなくて、真正面から」


 猫ならいけると思った。


「……ただ、そこで見つかった」


 あのクロシェ・ローズ・リヴェが、屋敷内で僕を見つけた。


「逃げたら追いかけてきたんだ」


 ドロシーが顔を青ざめた。


「僕、なんで追いかけてくるんだろうと思って、とりあえず木の上に逃げたんだよ」


 木の上まで追いかけてきた。


「そしたら使用人達が一気に集まってきて」


 あの騒ぎ。


「僕はね! 騒ごうと思ったわけじゃないんだ! あの人が追いかけてくるから! 逃げたんじゃないか! なんで追いかけてくるんだよ! 放っておいてくれよ!」

「ノラ猫が屋敷に迷い込んでるとでも思ったんでしょ。首輪もつけてなかったし」

「何なんだよ、あのクロシェとかいう家庭教師! テリー、覚えは!?」

「鮮明に覚えてる」


 だって、一番好きだった先生だもの。


「とってもいい先生よ」

「僕ね、ああいうタイプ苦手なんだ。諦めるということを知らない人種だ。ああいうのは本当に困るよ。自分で何でもどうにかしようと躍起になるヒロインタイプ。トラブルメーカーだ。魔法使いにとっても、ああいうおせっかいタイプ、一番困るんだよなぁ」

「メニーもそうじゃない」

「メニーは違うんだよ」


(何が違うのよ…)


 目をぴくりと痙攣させて、ドロシーに伝える。


「それよりも、また歴史が変わったわ」

「うん?」

「先生の前に、別の先生がもう二人来るはずだったの。それが来なかった」

「二人はすっ飛ばされて、順番が一気に回ってきたってこと?」

「そういうこと」

「へえ。なるほど。あの先生は、どうしてもこの屋敷に来なければいけない運命にあるんだね」


 ドロシーがどこからか箒を取り出し、腰掛けた。宙にふわりと浮き出す。ドロシーの言葉に、あたしは頷いた。


「そうね。ここが彼女の人生の終わる場所だから、当然かもね」

「…ん?」


 ドロシーがきょとんとする。あたしは目を伏せる。


「クロシェ先生、亡くなるのよ。近いうちに」


 ドロシーがふわふわと浮いて、静かに、瞼を閉じた。


「……原因は?」

「わからない。変死体で見つかったって」

「変死体? ってことは、殺人事件にでも巻き込まれるの?」

「この時期に、誘拐事件ほど騒いでる事件は、無かったと思うけど」

「でも、彼女は亡くなる」

「そうよ。雪の積もった日に」

「今年?」

「クリスマスの前よ」

「そっか。ってことは」


 ドロシーが瞼を上げる。


「もう少しだね」

「彼女は、とても利口な人よ。誰よりも。この先に来るはずの家庭教師の先生たちより、ずっと、一番利口な人だったわ」

「珍しいね。君がそこまで言うなんて」

「ドロシー、メニーがなぜ大人になって、字を読めたと思う?」


 勉強を続けていたからよ。


「彼女が教えたの」


 あの環境の中。


「唯一、メニーに勉強を教えた人だった」


 メニーは、先生がいなくなっても、勉強を続けたのよ。


「あの人は、あたし達に必要な先生よ」

「でも、亡くなるんだろ?」

「先生を生かすことが出来れば、何かが変わるかもしれない」

「テリー」


 ドロシーがあたしを見下ろし、忠告する。


「あのね、分かるよ。君がそこまで言うんだ。よっぽど素敵な先生なんだろうね。だけどね、」


 歴史は、そう簡単に変えていいものではない。


「彼女は死ぬ運命にある。それを回避したら、どこかに死が移ってしまうかもしれない」

「クロシェ先生が死ななかっただけで、誰かが死ぬってこと?」

「可能性はある」

「どうして? たった一人じゃない」

「それが宇宙の原理だ」

「意味が分からないわ。どうして命を一つ救おうとしただけで、誰かが死なないといけないの?」

「ミス・クロシェが死んだ分、誰かの人生があったかもしれない」

「そんなの分からないじゃない」

「そうだよ。分からないんだ。だから歴史は出来る限り変えない方がいいんだ」


 いいかい。テリー。


「君は自分の運命を変えようとしている。それで、何かが犠牲になる可能性だってあるんだ」


 でも、


「僕は協力するよ。それでメニーが幸せになって、君も幸せになれるなら、それは僕にとって、とても喜ばしいだから」


 テリー。


「何かを犠牲にしてでも、あの先生を助ける必要はあるのかい?」

「あるわ」


 あたしは断言できる。


「その必要は、必ずある」


 あの先生には、その価値がある。


「一人の死が誰かの死に移るなら、どうするのよ。地面を歩いてる虫は何百と死んでいるのよ。それが一匹増えたって、あたしは構わないわ」

「虫じゃなくて、人間の可能性もあるよ」

「逆を言うわ。だったら先生が死ぬ必要はどこにあるというの? 先生が犠牲になる必要はどこにあるというの? 死が移るなら、生が移らないのはなぜ?」

「ああ、まったく。うんざりするよ。ああ言えばこう言う。君は難しい事を言うね。少なくとも僕はそう教えられてきたし、見てきたよ。死は移る。それが宇宙の原理で生命の原則だ」

「だったら生の時間を伸ばせばいいわ。本当は亡くなるはずの人の寿命を、ちょっと延ばすだけ。それで、年老いてから伸びた寿命が切れて死ぬ。ほら、どう? これなら、誰も犠牲にならないわ」

「ねえ、彼女は何者だい? 君にそこまで言わせるなんて、一体何なのさ」

「ドロシー、クロシェ先生がいれば、メニーはもっと正しい選択ができていたかもしれない。使用人なんか辞めて、ここを出て、自由に生きることが出来たかもしれない。可能性だけだけど、少なくとも、もっと生きるための知識は増えていたはずよ」


 彼女はとても利口だった。先生だった。


「あの人以外、あたしは先生だと認めたことはない」


 あの人が、あたし達の先生だ。


「ドロシー、あの人がいれば、正しい知識が身につくわ。アメリにも、メニーにも。そうなれば、分からないけど、何か、また違うんじゃないかしら」

「つまり、君の言ってることはこうだ。今死なせるのではなく、ミス・クロシェの寿命を延ばす」

「そうよ」

「ということは」


 追加ミッションが出来たわけだ。


「君が幸せになるための、罪滅ぼし活動においての、追加ミッション」


 あたしは息を吸い、答えた。


「『クロシェ先生の死を回避させる』」

「なるほど」

「今、先生に死なれるわけにはいかないわ。教えてもらいたいことが山ほどあるんだから」

「君が先生だと認めるなんて、彼女はすごいんだね」

「ええ」

「どうしてそんなにすごいと思うの?」

「言ってるでしょ」


 あの殺伐とした環境の中、使用人同然のメニーに勉強を教えていた利口な人間は、彼女だけだったから。


「他の家庭教師は、誰もメニーを見なかったわ」


 使用人として扱っていた。


「皆、馬鹿ばっかりだった」


 先生ではなく、理不尽な大人ばかりだった。何かあったらイライラして、あたし達に怒鳴ってきて、怒ってきて、嘘ばっかりママに報告して、また怒られて、うんざりして、その繰り返し。


 先生は、彼女だけだった。


「こうなったら、先生の死亡予定日まで、先生の傍に居ることにするわ」

「そうだね。それが良いと思うよ。変死体ってことは、何か事件に巻き込まれるんだろうし、その調査も必要かもね。殺人事件や、変な事件がないか、もう一度落ち着いて思い出してみたら?」

「もし、何か思い出せたら?」

「ミス・クロシェの寿命が延びるよう、僕も手助けしてあげよう」

「どうやって?」

「これでどうだい?」


 ドロシーがぼふんと煙に包まれる。空から影が降ってくる。あたしの胸に飛び込んでくる。緑の猫。


「これなら、僕も傍に居られる」


 あたしの腕に抱えられた魔法使いの姿のドロシーがにこりと微笑む。不思議だ。猫の姿の時と同じ重さだ。ドロシーがあたしの肩に腕を回した。


「猫だと色々便利で良くない? メニーの傍にもいられるし、ミス・クロシェの足元にだっていられるし、君の様子を見ることも出来る。何かあったらすぐに駆け付けられるし、連絡しあえる。良い事尽くしじゃないか」

「あんた、帰らなくていいの?」

「大丈夫。今日からここが僕の家。僕のご主人様はメニーさ」


 ドロシーがにやりとした。


「ああ、勘違いしないでね。君は僕の世話係だよ。いいかい? 僕に美味しいご飯を用意して、高級なベッドを用意しておくれ。おやつは金平糖がいい」

「メニーに魔法使いが出たって大騒ぎしてやる」


 言うと、ドロシーが猫撫で声を出した。


「嫌だなあ! トゥエリーちゃんってば!! 冗談だよ! 冗談! 何言ってるんだい! 本気にするなんて、まったく君はぷりちーで優しくて尊くて愛しくて特別な存在でヘルタースオリジナル! とてもとても良い子なテリーちゃん!! それだけは勘弁しておくれよ! あっはっはっはっはっは!」


 ドロシーがあたしの肩をバシバシ叩く。まじで叩く。真剣に叩く。顔を青ざめて叩く。言わないからやめなさい。痛いってば。このクソ魔法使い。


「そろそろメニーが探してる頃だわ」


 あたしは腕に抱える。


「行くわよ」

「にゃあ」


 あたしは、ガラス球のような目を持つ猫を抱えて、裏庭を後にする。


(先生の寿命を延ばす)


 時間は、まだ残されている。


(原因を突き止めるのよ)


 変死体の理由。


(探らないと)


 猫のしっぽが、ゆらりと揺れた。









(*'ω'*)






「こんばんは、お姉さん」

「あらぁ? こんばんは~」


 ふらふらと女性が陽気に夜道を歩く。酔っぱらっているようだ。


「お姉さん、とても綺麗」

「ふふっ。そうでしょぉ~」


 質問する。


「お姉さん、どうしてお姉さんは、そんなに綺麗なの?」

「え~、どうしてかしらぁ~。生まれ持ってのものじゃなぁ~い?」


 質問する。


「お姉さん、どうしてお姉さんは、そんなに唇が赤いの?」

「口紅知らないのぉ~? きゃははは!」


 質問する。


「お姉さん、どうしてお姉さんは、一人なの?」

「思い出させないでよぉ。もう男なんて信じないんだからぁ…」


 質問する。


「お姉さん、どうしてお姉さんは、一人なの?」

「私は、一人になりたいのよぉ!」

「ふふっ」


 笑う。


「一人は、危ないよ」


 凶器が、きらりと光った。




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