二章 狼は赤頭巾を被る
昔々、とても仲のよい親子がいました。
親子はお金こそなかったものの、貧しさの中で感じる幸せは、人一倍に感じることが出来ていました。
しかし、ある日、家族を支えていた唯一の親のお母さんが死んでしまいました。
今度の親はお兄ちゃんです。
お兄ちゃんが唯一の家族となった妹を守るために、働きに行こうとしましたが、お兄ちゃんはまだ子供で、子供を雇ってくれる場所は、どこにもありません。
仕方がなく、お兄ちゃんは盗みをすることにしました。
妹と二人で生きていくために。
そんな時、お兄ちゃんは優しい紫の魔法使いに出会いました。
紫の魔法使いはお兄ちゃんの事情を聞き、こういいました。
「それじゃあ、この飴をあなたに差し上げましょう。本当にもうダメだと思った時に、これを舐めたら、良い事が起こります。でもね、お気を付け。良い事があると必ず悪い事もついてくる。だから、舐めるタイミングを考えて舐めるんですよ」
お兄ちゃんは、今すぐ飴を舐めたいのを我慢して、もっと頑張って生きようとしました。
しかし、すぐに体と心がこれ以上は限界だと悲鳴をあげます。お兄ちゃんはまだ幼い子供です。妹はもっと子供です。
お兄ちゃんは決心します。飴を舐めることにしました。
すると、不思議なことに、たちまち幸せがやってきました。
食べるものが増えたのです。
お兄ちゃんと妹は喜び、お腹がいっぱいになるまでご飯を食べました。
しかし、悪いことはついてくるもの。仕事は全く見つかりません。
お金がなく、ほしいものや、妹が寂しくならないためのお人形も、買ってあげられません。
お兄ちゃんは自分のやるせなさに、どんどん心が追い詰められていきます。
お兄ちゃんは、また飴を舐めることにしました。
すると、また幸せがやってきました。
今度はお金が入ったのです。
お兄ちゃんと妹は大喜びです。
こうして、どうしようもなくなった時だけ、飴を舐めることで、お兄ちゃんと妹は、幸福を得ることが出来ました。
しかし、ふと、お兄ちゃんは気になります。
幸福を得れば得るほど、妹の首や腕には、傷が増えていくのです。
お兄ちゃんは妹に訊きました。
「それは、怪我をしたのかい?」
妹は答えました。
「いいえ」
お兄ちゃんは妹に訊きました。
「じゃあ、どうして傷が増えているんだい? 誰かに虐められたの?」
妹は答えました。
「虐められてなんかいない」
お兄ちゃんは妹に訊きました。
「じゃあ、どうして傷が出来るんだい?」
妹は答えました。
「これは幸福になるための傷なの」
そこでお兄ちゃんは思い出しました。
「幸福になれば、不幸が訪れると魔法使いが言っていた。僕の妹に傷が出来るなんて、そんなことは僕の幸せじゃない。飴を舐めるのはもうやめよう」
「いいの。お兄ちゃん。飴を舐めて」
「でも」
「これでいいの。これで幸せになれるなら、いいの。私、お兄ちゃんといられるなら幸せ。私、今のままで幸せなの」
数日後、
お兄ちゃんは死にました。