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天使と悪魔に花束を添えて  作者: v私立桜咲学園文芸部
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第七話  お泊りと止まる足を進める大きな一歩

やっぱり大好きな先輩たちは優しすぎるよ

年が明けて冬休みも終わった。生徒会の仕事は山ほど溜まっていて、その仕事に追われていた。先輩たちのお誘いも断ることが多く、気が付けば二月の中旬まで差し掛かっていた。二月の中旬になると卒業式の仕事も追加された。


「うぅ……」


「会長? 大丈夫ですか?」


「う、うん! 大丈夫!」


 本当は全然大丈夫じゃない。この学校の卒業式は制服じゃなく各自好きな衣装で出ても良いとか訳の分からない校則のせいで衣装の許可を認定しないといけない仕事が増えた。と言っても、その仕事は確認してハンコを押すだけなので後輩任せていた。そして、


「終わった!」


 冬休み明けから溜まりに溜まっていた仕事は全て終えることが出来た。それでも、私にはやるべきことが残って居る。芽亜先輩へ私の気持ちを伝える日まで残りが少ししかない。


「ん~っ」


 どれだけ念じて咲くことはない。少しでも咲かせたいって気持ちが残ってるから、たまに花を咲かせる練習をしている。結果は言うまでも無かった。


「無理だ……」


 言葉で全てを伝えることしか出来ないのは嫌だけど、花に関しては諦めるしか選択肢が無かった。


「帰ろ」


 最終下校時刻を伝えるチャイムが人の居ない学校に響き渡った。外は真っ暗で、一人で帰るのは寂しく感じる。

 空には無数の星と綺麗に輝く月が浮かんでいた。目を奪われた私は届くはずのない月へと無意識に手を伸ばした。


「…………」


 ううん、まだ終わりじゃない。これで終わりに出来るほど私の気持ちは弱くない。だからこそ、今私に出来るのは諦めて傷付かない方法を探すんじゃなくて全力で出来る方法を探すんだ。

 そう意気込んで走り出した矢先、文芸部の部室から出て来た女の子とぶつかってしまった。いつも桜の木の下に居る女の子だ。


「痛た……ごめんね」


「あれ? 生徒会長? こんな時間に何してるの?」


「こっちは生徒会のお仕事が残ってて……って、下校時刻はとっくに過ぎてるよ! 早く帰って!」


「は~い」


 女の子は自分のカバンを拾って下駄箱へと向かって行った。文芸部の部室を閉めようと扉に近づくと、文芸部の先輩とぶつかってしまった。


「大丈夫?」


 差し伸べてくれた手を握って立ち上がる。スカートに付いた埃を払いつつ何をしてたのか尋ねる。


「こんな時間まで何をしてるんですか?」


「部活動だよ。作品作りが困窮しててね」


 困ったような表情をして部室の方を指さす先輩。部室の中には丸められた紙や束に敷き詰められた紙が散乱していた。


「もう下校時刻は過ぎてますよ」


「はいはい。って天日とか望無といつも一緒に居る子だよね」


「最近はそうでも無いですけど……」


「そっか、もし困ったらうちの部室においで。相談くらいは乗るよ」


「ありがとうございます」


 陽が沈んで星が輝き始める時間。外は薄っすらと暗くて一人で帰るには心細かった。文芸部の先輩は芽亜先輩たちと仲が良いはずだから色々と相談してみても良いのかも知れない。


「先輩はさっきの女の子と付き合ってるんですか?」


「あ~まぁ、う~ん……告白は私からするって言って告白させてもらえなかったんだよね」


「そうなんですか」


「桜は真っ直ぐな子だからね。一度決めると曲げたりしないんだ」


 下駄箱にはさっき帰ったはずの女の子が下駄箱で待っていて、先輩の姿を見ると少し微笑んで、


「遅いですよ!」


 なんて言うもんだから、先輩の顔は真っ赤に染まっていて。薄っすら暗くてもどんな表情なのかくっきり見えた。


「生徒会長も一緒に帰ろうよ!」


「え? でも……」


「私ね、クラスで誰も話し相手が居なくて一人ぼっちだった時に話しかけてくれたヒーローみたいなカップルが居たんだ。一人じゃ寂しいよ。ね?」


 すごく温かい笑顔でそう言った女の子。伸ばした手を握り返すとにっこりと微笑んでくれた。一人で悩んで、外も暗くなってるとどうしても寂しさを感じてしまうもので、そういう時に話しかけてくれたのはすごく嬉しかった。


「あれ?」


 校門に誰か立っていた。注意しようと駆け寄ると、二人の顔がはっきりと見えた。駆け寄る足が自然と止まってしまって動かなくなってしまった。


「生徒会長? 誰か居るの?」


「………」


 二人は私に気付いた瞬間にすごい勢いで駆け寄って来た。なんで、もうとっくに帰ったはずなのに……


「望無と天日か。ここで何やってんだ?」


「大事な後輩が暗い中一人で帰るのは怖いかなって思って」


 なんて芽亜先輩が優しく微笑んでくれるから心がギュって縮むような感じがして涙が零れそうになった。

 心のメーターが限界を振り切って我慢できなくなった私は芽亜先輩に勢いよく抱き着いた。そんな私でも何も言わないで抱きしめ返してくれる芽亜先輩の優しさが嬉しくて、人目も気にせず泣いてしまった。


「一緒に帰ろ?」


「はいっ!」


「青原くん、ありがとね」


 天使先輩が文芸部の先輩に一礼をした後、何か話しているのを後ろから眺めていた。


「何が?」


「相談乗ってあげてくれて」


「気にしないで」


 せっかく先輩たちが迎えに居てくれたんだし、今日は家へと招待したいけど急に言って迷惑じゃないかな?


「春香ちゃん、今日はうちに泊まりに来てよ」


「芽亜先輩のお家にですか?」


「ボクの家でもあるけどね」


 まさか先輩の方から誘ってくれるなんて思っても見なかった。そんなお誘いを断ることは絶対に出来ない。例え校則で禁止されていても。

 満月の照らす帰り道と好きな人の横顔。そんな状況が嬉しくてたまらなかった。無意識に笑みが零れてしまうくらいに嬉しさでいっぱいになった。


「嬉しそうだね」


 天使先輩が私の頭を撫でながらそう言った。天使先輩の手は普通の人よりも温かい。安心できる温かさだ。


「あ」


芽亜先輩が立ち止まって何かを見つめている。その方向には二人の人影があった。よ~く目を凝らしてみると、薄っすらと顔が見えた。


「青原先生と天野先生?」


「桜か、望無と天日も居るじゃないか。こんな時間まで何してたんだ?」


「生徒会のお仕事が長引いちゃって、二人は私を待っててくれたんです」


「そうか。お疲れさん」


 青原先生と天野先生はそのまま帰って行った。手を繋ぎながら。


「あの先生たち本当に仲良いよね。ボクがキューピットになってあげようかな?」


「その必要は無さそうですよ」


 二人の背中を見ればわかる。あんなに幸せで温かい後ろ姿なんだから、二人は少しずつだけど進んでるんだ。両手じゃ抱えきれない幸せを人に配りながら。


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