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天使と悪魔に花束を添えて  作者: v私立桜咲学園文芸部
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第十三話 誰かのための、自分のための努力

「何見てるの?」

「大学のパンフレット。コウちゃんも見る?」

「うん!」

 私たちも来年から大学生だ。実感なんて全然無いけど、どうせ通うなら良いところを選びたい。出来るだけ奇麗なで広いところに行きたい。

「ボクはどこでも良いよ」

「え? なんで?」

「メアちゃんが居るから」

 そういう事を全く意識せずに言うんだから困る。照れたら負けな気がするから何も反応しないけど。

「……真剣に探さないと! 春香ちゃんに失礼だよ!」

「ボクは真剣なんだけどなぁ」




「ねぇ、楓」

「なに?」

「そんなに警戒しなくても良くない?」

 休み時間。特にすることがない私たちは席に座って他愛もない話をしていた。その中でも一つ気になることがある。と言うよりかは気付いたことがあった。

 楓は能力を使う時、左目の色が変わることに気付いた。何気ない休み時間なのに左目の色が違う。と言うことは何かしらの能力を使っているってことだ。ただ、それが何の能力なのか分からない。

「何もしてないよ? 私は」

「え? あ――」

 野球のボールが窓を突き破って物凄い勢いで飛んできた。楓の仕業だろうけど確証がないから責めるのは可哀想だ。

 時間を止めて私と楓の位置を入れ替えた。座る位置を交換すれば私にボールが当たることは無いし。

「やっぱりかぁ~」

 ノールックで野球のボールをキャッチした楓は溜息を吐きながら呟いた。

「私だけの特別が春香に取られたみたいで悲しいよ」

「楓は私に出来ないこといっぱい出来るでしょ?」

「そうだけど……時間操作はズルいじゃん」

「まだ言ってるの?」

 左目の色はさっきと同じまま元の色に戻る気配がない。と言うことは何かを仕掛けようとしてるに違いない。正直言えば何が来ても対処出来るから別に問題は無いけど。

「時間操作……どうすれば倒せるんだろ?」

「倒す気満々じゃん」

 悩みながら席を立って教室の後ろの方に移動した楓は手に持っていた消しゴムを全力で投げてきた。普通の人が全力で投げる速度よりも遥かに速い。

「今っ!!」

「えっ!?」

 消しゴムが一瞬でイケメン先輩に入れ替わっていた。イケメン先輩からすればかなり迷惑だろう。

「え――」

 イケメン先輩たちには悪いけど、このままじゃ私が大怪我を負ってしまう。

「っ!」

 自分の動きだけを二百倍にして全力でイケメン先輩を殴った。その速度は音速を遥かに上回っていた。

「ぐはっ!?」

 ものすごい勢いで楓のもとへと飛んでいくイケメン先輩の姿が一瞬で消えてしまった。その瞬間、上の階から物凄い衝撃音が聞こえてきた。

「うん。私の負けだ!」

「勝ち負けとか無いと思うけど……」

 楓の吹っ切れたような笑顔を見て少し安心した。やっぱり私には何もない普通の日常が一番大事に思える。

 この前までは卒業したら先輩たちに会えないってずっと思ってたから不安と寂しさでいっぱいだったけど、先輩たちも大学に通うって言ってるし。これからも一緒に居られるんだって思うと嬉しくて仕方がない。

「楓!」

「ん?」

「私、もっと頑張るよ!」

「そうじゃないと先輩たちにも失礼だしね!」

 当たって砕ける覚悟はまだ無いけど、卒業式までの日に出来る努力は全てしておきたい。最大限の勇気と、私に出来る全力の祝福を先輩に送るために。




「メアちゃん」

「どうしたの?」

 パンフレットを眺め続けて飽きたのか、私の手をギュッと握って放そうとしない。構って欲しいのかな。

「大学よりも先に探さなきゃいけないことあるよね?」

 卒業と同時に私はコウちゃんと家族になる。もちろん忘れていた訳じゃないけど、どう言えば良いのか分からない。言葉に出来ないような恥ずかしさに襲われて話を切り出せなかった。それは多分コウちゃんも一緒だ。さっきから私の目を見てはすぐに逸らすし、顔も真っ赤になってる。

「そうだね。せっかくコウちゃんが告白してくれたんだもんね」

「うん……」

「プロポーズはまだだけど」

「……まだしないよ。ボクが飛びっきりメアちゃんを幸せにしてあげるんだから準備だって必要だし」

「私はコウちゃんが居てくれるだけで十分幸せだよ」

「……ありがと」

 そっぽ向いて呟くように言った。やっぱりコウちゃんでも恥ずかしいものは恥ずかしいって思うんだ。羞恥心とか一切無いと思ってたけど。

「結婚式よりも先に大学入試だよ! 私たちがしっかりしないと春香ちゃんに失望されちゃうし!」

「頑張ろっか!」

 あのクリスマスの出来事は今でも覚えている。あの時の春香ちゃんは自分自身を邪魔者みたいな扱いをしていて心の中がぐちゃぐちゃになってたと思う。一緒に居たいと思う反面、自分が居るから他の誰かが幸せになれないって考えちゃってたんだと思う。あの日の春香ちゃんの涙は今でも思い出してしまう。

 私たちがしたことが正しいとは言い切れない。私たちのわがままに巻き込んでしまったんだから。それでも私はその選択に後悔はない。

 卒業してからもこの地上で暮らせる。それがいつまで続くか分からないけど、それでもこの幸せを噛み締めて生きていくのも悪くない。毎日が奇跡みたいなものだし。

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