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99話 結成、ディック・サーカス団

「次同じ事したらあんたのボンジリ切り落として食ってやるからね」

『うん、もうしないって約束する。だから足のひもをほどいてくれないか?』


 シラヌイはシルフィを捕まえて、足をひもで縛って逆さづりにしていた。出刃包丁も握りしめていて……おいおい、首を切って活〆にしちゃだめだよ?

 僕ことディックは苦笑しつつ、さっきの子シラヌイを思い出した。

 ……めちゃくちゃ可愛かったよな、あの子シラヌイ……好意を全開に表現してくる彼女に鼻血が出そうになる。シラヌイには悪いけど、ナイスだシルフィ。


(後でアップルマンゴーを買ってあげようかな……)

(感謝するぞ色男よ。じゅるり)


 シルフィと心の中でやり取りした後、僕はワードとの話を続けた。


「ドラゴンの攻勢に乗じて、他国から進撃の気配はありますか?」

「今の所は。魔王様が女王様と連携して、情報を上手く隠してくれているようです」


 エルフの国を狙う輩は、結構な数に上る。人間以外にも、この大陸各地にある勢力から、世界樹の力や希少種族エルフを簒奪しようと謀る勢力は多いのだ。

 ドラゴンとの戦いが知られれば、その隙にエルフの国を掠め取ろうとする勢力は沢山出るはずだ。乱戦になれば、エルフの国に未来はないだろう。


「流石は、魔王だな。ちゃんと先々を見据えて行動している」

「あえて人間軍を挑発して、エルフの国以外にもドラゴンの戦線を伸ばす事で、奴らの狙いが分からないようにしているみたいね。仮にわかっても、ディアボロスが出張る戦場に出てくる物好きはいないでしょうし」

「確かに、遠方から見張っていても、戦いの余波で全滅しかねないしね」


 実際、ラズリとの戦闘では三つの山が消え去った。あれじゃあ、近づきたくても近づけないだろうな。


「僕も各所と連携して、国外の情勢に対応しています。ラズリ様のように前線には行けませんが、文官には文官の戦いがあります。例え隣に立てなくても、僕は皆さんと共に戦います」


 子供のような外見だけど、男らしいな。ラズリが惚れるのも分かる気がする。堂々と胸を張り、しっかり僕達を見据える彼は、一人の戦士だ。


「ただ、ディアボロスが動くとなると、人間軍と魔王軍の戦線が活発化するだろうな。ディアボロスが攻めれば、各地の戦線が一気に活性化するだろう?」

「間違いなくね。リージョン達も要所に配置されたみたいだし……多分あんたが入軍してから、一番の山場になると思うわ。フェイスも本腰入れて攻めてくるみたいだしね」


 予感はしていたけど、きつい戦いになりそうだな……。


「ま、悩んでいてもしょーがないんじゃね? どんなに恐がっても、嫌な事ってのは襲い掛かってくるもんだ」


 険しい顔をする僕に、ワイルは肩を叩いて、にかっと笑った。


「ならさ、受け入れるしかねぇよ。そんでもって、笑って立ち向かえばいい。暗い顔してちゃ、悪い運命に食われるだけだ。だから、辛い時、苦しい時ほど笑って挑みな。そうすりゃ、幸運の女神様がきっと助けてくれるさ」

「盗賊が運命の女神を当てにするとはね。けど、励ましてくれてありがとう」

「なぁに、あんたの彼女が散々っぱら笑わせてくれたお礼だよ」

「あんた焼き殺すわよ」


 シラヌイが真っ赤になって炎を出した。急いでワイルは僕の後ろに隠れる。

 茶目っ気強い奴だよ、まったく。


「笑う……そうだ、皆さんに相談したい事がもう一つあったんです」


 ワードは困った顔で、


「住民達は近日中に、世界樹の地下にある避難所へ再度誘導させる予定なんですが、どうもドラゴンの侵攻に強いストレスを感じているようで……体調不良を訴える者が続出しているんです」

「そっか、ディアボロス、凄く恐かったもんね。あんなのがまた襲ってくるんじゃ、皆怖がっちゃうよ……」


 ラピスも暗い顔になった。放置すれば、最悪暴動に繋がる事態になりかねないな。

 ドラゴン達が次に攻めてくるのは、計画書によれば三日後だ。まだ多少の猶予はある。その間にエルフ達を安心させる行事が出来ればいいんだけど……。


「楽隊でも呼んでジャズでも弾かせるか?」

「こんな困窮した時に来れる楽隊なんか居ないでしょ。手軽なのは炊き出しだけど、それだけじゃちょっと弱いわよね」

「となると、それに加えてもう一つ、催しを行うべきですね。うぅ……私は戦う事以外はからっきしだから、こういうのはいいアイディアが……」

「ラズリってガチガチさんだもんねぇ。けど私も娯楽に関してはあんまりだし……格闘技なんて余計に不安煽りそうだもんなぁ」

「時間も限られていますから、演劇などの大掛かりな催し物も苦しいかと……」


 皆で色々意見を出し合うけど、中々決まらない。

 なるべく短時間で仕上げられて、なおかつエルフのストレスを和らげるものか……そう思った時、僕の頭に一つの案が浮かんだ。


「……大道芸とか、どうだろうか」

「大道芸? それの方が余計に無理でしょうが」

「いいや、そこまで難しく考える必要はないさ」


 僕は手近にあった文鎮や爪楊枝入れなどを手に取り、ジャグリングを披露した。

 母さんが昔教えてくれた、お手玉って遊びだ。片手ずつで回したり、股越しに放ったり、背面キャッチやリフティングでの軌道変更を交えれば、変幻自在の大道芸の完成っと。


「こんな感じに、自分の特技を活かせばそれっぽく見えるはずだ。ワイルだって、盗みの技術を見せればみんな驚くんじゃないか?」

「なぁるほど、悪いアイディアじゃねぇな。ずっとシリアス続きだったし、ここらで遊んで一息つくのも一興か」


 ワイルはかなり乗り気だ。そしたら当然ラピスも手を上げ、


「はいはーい! 世界樹の力を使えば、私も面白い事出来るよ! ラズリと一緒にやってる遊びもあるから、それ見せたら皆喜ぶと思うよ!」

「わ、私も、演武くらいならできます……!」

「いいですね、即席サーカス団だ。エルフ軍の騎馬隊も馬術のパフォーマンスが出来ますし、早速当たってみます」


 着々と準備が進み始めている。大戦がはじまる前の小休止だ、ちょっとだけ戦いから頭をそらした方が、僕達にも丁度いいだろう。


「……どうしよ、私なんもできないんだけど……」


 そんな中で、シラヌイだけが立ち尽くしていた。

 彼女は驚くほど不器用だ、炎魔法以外の事柄に関しては、からっきしを通り越してポンコツの領域に達している。

 炎魔法をそのまま見せても、多分あまり驚かれないだろう。なんらかのエンターテイメント性を含んだ演出が必要だ。

 ライオンとかが居れば、彼女の炎魔法を駆使して火の輪くぐりとかが出来るんだけど、エルフの国にそんな猛獣なんかいないし……。


『ふっふっふ、そんな時こそ幻術よ』


 困っているシラヌイに、シルフィが助け船を出した。


『さっきは悪ふざけが過ぎたが、今度はきちんと協力してやる。貴様が得た新たな魔法、幻術の真骨頂を、大道芸とやらで披露してやろうではないか』

「……ごめん、全く信じられないわ」

「同じく」

『あんれまぁ』


 シルフィはしょぼんとうなだれた。そんな反応するなら余計な悪ふざけをしなければいいのに。

 ともあれ、ドラゴンの前にエルフ達の心を救わないと。短時間なら大丈夫だろうし、念のため、応援も呼んでおこうかな。

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