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92話 10日前、フェイスの旅路。

 遡る事、十日前。

 俺ことフェイスは人間軍を引き連れ、龍の領域へ向かっていた。

 事の始まりは、人間軍将軍からの要請だ。酒場で飲んでいるときに通信を寄越したそいつは、俺にある事を依頼してきた。


『勇者フェイス、人間軍とドラゴンの同盟をなすため、龍王ディアボロスとの交渉に出向いて欲しい』


 今までの俺だったら、間違いなく断っていた。そんな面倒なことをどうして俺がやらなきゃならないんだとな。

 だが、俺は二つ返事で了解した。


「しかし、面倒くさい山に住処を作ってるな」


 人間領の北側に位置する巨山、モンストルム。怪物の名を冠するこの山は標高三千メートルを超え、その山頂を超えた先に龍の住処があるそうだ。

 俺の目的はそこに住んでいる、龍王ディアボロスをぶっ倒し、ドラゴンを人間に従わせる事だ。

 ドラゴンは至極単純な思考回路をしている。自分より強い奴に従い、忠実な下僕となる。ようは力のみが奴らの正義だ。


 ディアボロスを倒せば、世界中のドラゴンは人間の指示に従うようになる。加えて、ディアボロスは強大な魔剣を持っているそうじゃねぇか。

 人間がドラゴンと組もうがどうでもいい。俺はディアボロスを倒し、龍王の力を手に入れる。ディックを倒す力を手にするためにな。

 ……ディックに負けてから、俺の胸にはどでかい風穴があいていた。女を抱いても、酒を飲んでも、全く埋めようのない大きな穴だ。


 憂さ晴らしに殺しもしたが、味気が無くなっている。寝る度に見る夢は、ディックに敗北した瞬間ばかり……。

 なぜ俺はあいつに負けた? ずっと考えた。俺にとって忌々しい、「愛情」とか言う物で、ディックはエンディミオンを打ち破るまで強くなった。それが忌々しくてたまらない。

 この憤りを解消する方法は一つだけ、ディックを殺す事だ。それもただ殺すだけじゃない、全力全開のあいつを真正面からぶっ殺して、あいつの信じる愛とやらを完全否定する事でしか、果たすことのできない物だ。


「あ、あの、勇者様……少し休憩、しませんか?」

「も、もう何時間も歩き詰めで、足がしびれているんです……」

「休みたければ勝手にしろ。俺は先に行く」


 女どもめ、何泣き言を吐いてんだ。

 そもそもお前らは戦力として勘定していない、所詮娼婦と同じようなもんだ。別にここで捨てても構わないんだぜ。


「そ、そんな……勇者様一人で、行かせるわけには……!」

「そう思うなら歩け。無理なら、手伝ってやろうか?」


 女どもに洗脳の魔法をかけ、自我を奪う。これで喚かず、足が血だらけになろうとも歩けるだろ?

 俺達の付き添いで来ていた兵士どもも恐れおののき、黙ってついてくる。雑魚のくせに、強者に口答えをするな。力ない奴は、力ある者にひれ伏さなくちゃならねぇんだからよ。

 お前らは黙ってついてこい。俺がディアボロスをぶっ倒すさまを、しっかり見ておくんだな。


  ◇◇◇


 登山を開始してから、結構な時間がたった。

 女どもも、兵士どもも、疲労がピークに達している。全く、たかが休憩なしで登山しているだけだろが、付いてこれないなら最初から来るんじゃねぇよ。

 ったく、これじゃこの先、俺一人で戦わなきゃならねぇみたいだな。使えねぇ連中だ。


「さて、と。腹ごしらえにもならねぇだろうが、やってみるかな」


 山頂が近づくにつれて、気配が近づいてくる。空を飛ぶトカゲの気配だ。

 どうやら、縄張り周囲を一丁前に巡回しているようだな。エンディミオンを抜き、肩に担いだ。

 って事は、近いらしいな。ドラゴンの領域がよ。


『来訪者とは珍しい。それも、弱者たる人間の来訪者とはな』


 俺達の頭上に、二匹のトカゲが飛んできた。

 俺より一回り程度でかい体の、小ぶりのドラゴンだ。念話で話しかけてくるあたり、一応脳みそは詰まっているようだな。

 ドラゴンを見るなり、取り巻き連中は全員びびりやがった。ったく、あの程度の雑魚に怯えんじゃねぇよ。


『聖剣エンディミオン、その所有者か。人間達を引き連れ、何用だ?』

「ディアボロスに喧嘩を売りに来たんだ、出てきたんなら案内してくれよ」

『……悪い事は言わん。立ち去れ』


 ドラゴンは哀れみを込めた目で俺を見下ろした。


『勇者フェイス、その実力はうかがっている。だがいくら貴様でも、龍王様には勝ち目がないだろう。龍王様の貴重な時間が無駄になるし、我々も人間の死体を処理せねばならなくなる。面倒だからさっさと帰れ』

「はっ! たかだかトカゲごときが、人間様に意見しようってのか? 笑える冗談だねぇ」

『……何?』


 ドラゴンが不愉快な顔になる。だってそうだろ? 最強種だかなんだか知らねぇが、所詮翼が生えてブレスを吐けるだけの爬虫類だろうが。

 トカゲごときに恐れをなして逃げ出すような腰抜けじゃねぇんだよ、この俺フェイスはな。


『我々をトカゲと愚弄するか、人間……!』

『いかに勇者とて、その言葉は許さんぞ』

「へぇ、許さなかったらどうすんだ?」

『ここで死ね!』


 ドラゴンどもが襲ってくる。ったく、余計な仕事を増やすんじゃねぇよ。


「勇者様、ここは私達が」

「は? 何をすんだよ」


 女が叫ぶ間に、一匹は首を切り落とし、もう一匹は蹴り飛ばして半殺しにした。

 一瞬の事に全員黙りこくる。ったく、面倒くせぇやつらだな。


「最初からお前らの力なんて当てにしてねぇよ、引っ込んでろ」

「……!?」


 この程度の雑魚相手に何を喚いてんだ、耳障りなんだよ。さて、半殺しにしたドラゴンさんよ、ちょいと付き合ってくれや。


「まだ生きてるだろ? このままディアボロスの所まで案内してくれよ」

『……な、るほど……! 龍王様へ挑もうとする、力と覚悟はあるようだ……しかし!』


 ドラゴンが雄たけびを上げた。そしたらどうだ。

 あちこちからドラゴンが集まってきて、俺達を取り囲む。その数は百を超えるか、縄張りの哨戒に何匹のドラゴン使ってんだよ。


『龍王様の所へ連れていくだけの資格があるか、確かめさせてもらおう!』

「あっそ、じゃあ俺も確かめさせてもらおうか。ドラゴンがどんな声で泣くのかをな!」


 いきがった馬鹿を放り捨て、俺はエンディミオンを振りかざした。

 ドラゴンだろうが、ビビる事はねぇよ。こいつら相手にするくらいなら、ディックを相手にした方がよっぽど厄介だ。

 ……俺は決めたんだよ、ディックを殺すと。あいつより強くなって、俺の持論が正しいと証明してやるってな。

 ディック未満の雑魚で躓くようじゃ、あいつに勝てるはずがねぇ。お前ら如き軽くねじ伏せて、ディアボロスまで最短ルートで駆け抜けてやる。


「だからとっとと消えろ、101匹ドラゴンちゃんよ!」


  ◇◇◇


 でもって勝負はほんの二分で片付いた。

 俺の目の前には、ドラゴンの死体が山と積まれている。全く、前菜にもならないくらい弱かったぜ。

 エンディミオンを持つ俺に、お前ら如きが敵うわけねぇだろが。たかだかトカゲが無駄な抵抗してんじゃねぇ、尻尾でも切り落としてとっとと帰れ。

 ま、ぶっ殺しちまったら帰るも何もねぇけどな。


「ゆ、勇者様……す、素晴らしい、成果です……!」

「ドラゴンをこうもあっさり……やはり貴方は人類最強のお方……」

「うるせぇ、おべっかなんざ耳障りだ、口閉じてろ」

「あう……申し訳ございません……!」


 雑魚殺して褒められてもなんも嬉しくねぇんだ、この程度でお世辞使ってんじゃねぇよ。

 ……どうせお前らなんざ、勇者ってブランドに惹かれてついて来ている馬鹿女にすぎねぇからな。


「さてと、これで資格とやらは見せられただろ。とっととディアボロスの所へ案内しな」

『……よかろう、貴様は力をしめした。我らドラゴンは、強き者に従う……だが貴様では、龍王様には勝てるはずもない……愚かな戦いに挑もうとしているのだぞ、貴様は……!』

「はっ、望むところだよ。暫くチャンプとして、迎え撃つばっかりだったからな」


 たまには挑戦者の気分になるのも、悪くねぇさ。

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