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86話 四度目のフェイス戦。

 空を埋め尽くさんばかりに、大勢のドラゴンが迫ってくる。

 僕ことディックは刀を握り、その先頭に立つ巨龍を睨んだ。

 全ドラゴンの中でもひときわ大きな巨躯を誇るドラゴンだ。全身に無数の古傷を蓄え、岩のような質感を持つ皮膚は動くたびに軋みを上げている。筋肉量がすさまじいんだろう。

 傷が深く刻まれた顔は歓喜に満ちている。戦える事に純然な喜びを見せていた。


「龍王、ディアボロス……!」


 横で、ラズリがうめいた。

 その姿を見た者は誰もいない。なぜなら出会った瞬間、そいつは殺されているからだ。

 この地上において勝てる者はいない。存在そのものが災害、命自体が最強の証。そう謳われる、この世界最強の生命体。

 龍王ディアボロス。そんな奴が、エルフの国にやってきたのか。


「しかもだ……」


 お前がそいつの頭上に居るのが、何よりの驚きだ。


 勇者フェイス、どうしてお前がディアボロスの頭に乗っている。


 ドラゴンはプライドの高い種族だ。人間を頭にのせるなんて、万が一にも有り得ない。ドラゴンの背や頭に乗るためには、ドラゴンを打ち倒し、屈服させなければならないんだ。


 ……つまりそう言う事か。


 ディアボロスはフェイスに敗れ、力を認めた。あいつは地上最強の生物を倒したんだ。


「って事は人間とドラゴンの同盟が成ったわけだな、それも僕達が想像している以上の速さで」

「感心している場合じゃないわよ、あいつら奇襲に来てんだから、迎撃準備!」


 シラヌイは杖を振り回し、ファイアボールを展開した。

 無数の火球がドラゴン達に飛んでいく。音速を超えるファイアボールの弾幕だけど、ドラゴン達はブレス攻撃で対抗した。

 シラヌイの弾幕を前に拮抗している。多勢に無勢と言え、彼女にここまで戦える相手は初めてだ。


「弩弓隊撃ち方始め! ドラゴンを近づけさせるな!」


 ラズリが大声を張り上げるなり、僕の頭にも声が響いた。世界樹の力で念話を飛ばしたんだ。

 彼女の号令に従い、下からエルフ兵が弓を構える。強力な弓による射撃が飛び、ドラゴン達の壁となった。


『ブレスを撃て! 圧し負けるでないぞ、ばっはっは!』


 ディアボロスの号令でドラゴン達の攻撃が始まる。弓と炎の撃ち合いは一見、エルフ不利に見えた。

 だけどエルフの矢は魔法の矢だ。水属性を宿した矢により炎を打ち消され、全くの互角だ。


「ふぅ、ギリギリ間に合ったみたいだな。ただ、こっから先も賭けだぜ」


 ワイルは腰に手を当て、険しい顔でドラゴンを見上げている。彼がどのようにしてドラゴンと人間の合同計画を察知したのか聞きたいけど、今はそれどころじゃあないな。


「ワイル、僕達に協力してくれ。ドラゴンの襲撃を教えてくれたのなら、味方と捉えていいんだよな」

「いや、勘弁してくれよ。本当、マジで俺戦闘に関しちゃ門外漢だから。協力したところで活躍できる保証なんかひとっつもしてやれないんだぜ?」


 ワイルは本気で困った様子だった。けど、


「ただまぁ、なんもしないってのも筋じゃあねぇよな。俺もここを獲られるのは我慢ならねぇし、しょうがねぇ。出来る限りやってやるさ、怪盗なりの戦い方でな」

「感謝する」


 稀代の怪盗が一時的にでも味方になったのは心強い。するとラズリが拳を打ち合わせた。


「ディアボロスが接近している」

「何?」


 一向に破れない拮抗に業を煮やしたのか、ディアボロスが前に出た。いくらエルフでも、生きる災害は止める事が出来ない。

 あいつが世界樹に来たらまずいな。


「ディアボロスは私が止める。貴方達は勇者を頼めるか」

「了解、気を付けてくれ」


 ラズリと頷きあう。僕が戦わなければならない敵も、しっかり見えている。

 ラズリがディアボロスに殴りかかると、巨龍の腹が大きく陥没した。山をも砕く拳の一撃、しかしディアボロスは意に介していなかった。


『ばっはっは! 貴様が噂に聞く世界樹の戦巫女か! まさかかようなる者と戦えるとは、何たる幸運! さぁ、ワシを楽しませてみろ! 小さくも強き者よ!』

「貴様のような戦闘狂に合わせる趣味などない!」

『ならば無理にでも合わせてやる! おい勇者、こいつはワシが貰う、貴様も楽しんでくるがいい!』

「勝手にしな」


 ディアボロスからフェイスが飛び降りた。まっすぐに、僕をめがけて。

 ハヌマーンを装備し、迎撃する。僕の抜刀術と同時に、フェイスの一太刀が振り下ろされた!


「ディィィィック!!!」

「フェェェェイス!!!」


 刀と剣がぶつかり合い、火花が散った。僕と奴の瞳に、互いの姿が映りあう。

 互いに弾きあい、距離が開く。前戦った時とは違う手応えに、僕は刀を振った。


 ハヌマーンの力が発動しなかったんだ。


 でも理由はすぐにわかった。あいつが使ったのはエンディミオンじゃない、別種の剣だ。

 禍々しいオーラを纏った、広刃の大剣だ。生物的な鍔を持ち、刃にはいく筋もの文様が浮かび上がっている。

 見ているだけで相手を不安にさせる、恐怖を体現したかのような剣だ。


「新しい得物を手に入れたのか」

「お前を殺すためにな。苦労したぜ、何しろあのクソジジィをぶっ倒さねぇと手に入らない代物だからよ」


 フェイスは右手にエンディミオンを、左手に大剣を握りしめた。


「龍王剣ディアボロス、龍王の名を関した、エンディミオンに次ぐ名剣だ。お前にエンディミオンが通用しないなら、それ相応の準備をするまでだよ」

「そいつは、随分な歓迎ぶりだな」


 改めて、こいつがディアボロスを倒したのだと実感する。すると頭上からさらなる気配が落ちてきた。


「あいつの仲間よディック!」


 シラヌイが言うなり火球を放つ。辛うじて火球を防御し、フェイスの女達が着地した。

 その中の、女剣士が僕に斬りかかってくる。数度打ち合い距離を取ると、彼女の持つ剣に気付く。彼女が持つ剣も変わっていた。

 ディアボロスとは逆に、神々しいオーラを纏った剣だ。同じ広刃の大剣で、白く輝く刀身と、美しい装飾が施された鍔が印象的だ。


「どうだディック! 勇者様より受け取ったディアボロスの兄弟剣、その名も輝龍剣オベリスクだ! この剣の前ではお前の刀も」

「黙れ、ぺらぺら喋んな。その程度でビビる奴じゃねぇよ」


 フェイスが一喝するなり、彼女達は怯え、縮こまった。

 以前までなら甘い顔をしていたのに、彼女達に本性を隠そうともしない。僕に負けてから、あいつの何かが変わったらしい。

 遊びが消え、最初から全力で来ている。どうやら、今までの中で一番タフな戦いになりそうだ。


「お前と戦うのも、これで四度目か」

「結構な腐れ縁だよな。フェイス、どうしてお前は僕に拘る、僕と知り合ったのは、ここ一年くらいだ。こっちには因縁をつけられる理由が思い当たらないんだけど」

「お前にとってはそうだろう。だが俺にとっては、十何年も前から、お前がムカついてたまらなかったんだよ」


 フェイスはエンディミオンを担ぎ、ディアボロスを突きつけた。


「おしゃべりはここまでだ、とっとと始めようぜ。こっちはもう、お前を殺したくてうずうずしているんだからよ」

「そう簡単にやられるつもりはない」

「いい加減、あんたもしつこいのよ。ストーカー勇者なんてこっちから願い下げだわ」

「いやー、男に追い回されるとは、随分と苦労してんだな、お前さん達」

「誰だてめぇ?」


「あ、どうも。ワイル・D・スワンです。当然俺の名前はご存じだろ?」


 フェイスが驚いた様子を見せる。奴にとっても稀代の怪盗の登場は予想外だったか。


「乱入しちゃって悪いけど、この兄ちゃんが俺に助けを求めていてね。正直自信ねーけど、足手まといにならない程度にゃ活躍させてもらうぜ」

「助かるよ、ワイル」


 シラヌイとワイルが並んでくれる。これで数は、三対四か?


『ううん、四対四だよ』


 念話でラピスが話しかけてくると、枝葉が伸びてフェイス達を襲った。

 これは、祈祷場からラピスが助けてくれているのか?


『世界樹の領域内なら、私も戦えるよ。ワイル様が戦っているのなら、私だって勿論あなたの味方をする。ディアボロスもラズリに任せて、ディックは思い切り勇者と戦って!』

「ありがとう、ラピス」


 よし、四対四なら互角だ。背中を気にせずフェイスに集中できる。


「昔からてめぇはずっとそうだ。なんも力を示してないのに、なんの取り柄もないくせに、どうしてお前には勝手に人が集まる? それが前からムカついて……仕方なかったんだよ」

「……何を言っているんだ?」

「こっちの話だよ。さぁ、議論の時間だ。てめぇの語る愛と、俺の語る力。そのどっちがこの世で本当に強いのか……今ここで示そうじゃねぇか!」


 フェイスとの四度目の戦いか、初っ端からハードな展開になりそうだな!

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