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77話 ラピスの思惑

「昨日僕達は、あんな所で何をしていたんだろうね?」

「うん、全然思い出せない」


 翌日、僕ことディックは朝食を頂きつつ、シラヌイと昨日の事について話していた。

 気が付いたら森の中に居た。部屋からそこに至るまでの記憶が完全に抜け落ちていて、二人で首を傾げていたんだ。

 何度考えても思い出せないし、不思議な事もあるものだ。


「ただ、なんとなくだけどさ、シュヴァリエに関しての心配をしなくていいってのだけは頭にあるのよね」

「魔石を使って改造したんだよね。安定して使えるかはまだ分からないんだろ?」

「うん。でも近いうちに強力な使い魔を手にできるような、そんな気がするのよ」


 なんでそう思うのか、シラヌイもよく分からないようだった。

 ただ僕も、なんとなくだけど不安が無いんだ。彼女が改造したシュヴァリエを自在に操れる時が来るって、確信めいた何かを感じている。どうしてなのかは分からないけど、ともかく、心配事の一つが解消されたような気がしていた。


「あと残っているのは、エルフ達との同盟を無事組めるか、ディックの新しい剣が見つかるかどうか、それと……あの巫女と外務大臣の間をどうとりなすか、の三つね」

「……三つ目の問題が一番大変な気がするよ」


 同盟に関しては魔王軍の外交官に任せるしかない。僕の剣に関しては、急いで片付ける必要はないから後回しでいい。三つ目の、ラズリとワードに関してはどうすりゃいいんだろう。


「なんかなし崩し的に仲を取り持つ事になってしまったけど、僕らにそんな大役出来るのかな。それに相手がその……」

「ライオンとカピバラの恋を応援しているような物だものね。正直自信ないわ私」

「僕もだ。惨状になる未来しか見えない……」


 と言うかワード、ラズリの本性知ったらむしろ引くんじゃないか? 彼が好きなのは巫女としてのラズリで、本来の彼女ではないのだし。


「あーもう、こんな時メイライトが居ればなぁ。どうして肝心な時に居ないのよあいつは」

「居てもどうにかなると思う?」

「むしろ余計に酷くなるわね、居なくてよかったわ」

「三つ目の問題は僕達が関わっている以上、どうにかしなくちゃいけない。気が重いなんてもんじゃないけど、とりあえず頑張ってみよう」

「思わぬところから思わぬ難題が出てきたものね……」


 二人でため息をつき、食堂から出る。そしたら早速、件のワードが現れた。


「ディックさん。丁度食事終わりみたいですね、どうですか、エルフの食事は」

「美味しかったです。野菜と果物が中心で体にもいいですね」


 今朝のメニューはフルーツサンドにサラダ、野菜スープと、菜食主義のエルフらしい食事だ。ちょっと物足りなさはあるけどね。


「ふふ、人間の貴方には少しボリュームが足りなかったのでは?」

「う、まぁ……」

「実は僕もなんです。だから時々、こっそり手に入れたジャーキーを食べてまして。後で差し上げますよ」

「肉食は大丈夫なんですか?」

「外務大臣の立場を利用して、ちょこっとね。おっと、これはオフレコでお願いします」


 結構狡い手を使うな。いいのか外務大臣がそんな事をして。

 くすりと笑うワードを見て、シラヌイが目を瞬く。


「しかし、失礼を承知で言いますが……可愛らしいですね」

「いや、よく言われるんですよ。男らしくない、女みたいだって。実際、他のエルフに比べると小柄で華奢ですし、顔立ちもその、女性らしさが目立ちますから」

「あっ、すみません、つい……」


 シラヌイにしては珍しいミスだ。それだけワードが女性受けする外見って事なんだろうな。

 ……普通の女性に惚れていれば、まだまともな恋ができただろうに。よりによって惚れたのがティラノサウルス系女子と思うと、なんだか気の毒になる。

 しかも、その肉食恐竜が近づいてきているようだ。


「これはディック様にシラヌイ様、おはようございます」


 振り向けば、ワードの想い人、ラズリが居た。どうやら訓練終わりのようで、少し汗ばんでいる。

 そういや、朝の型の確認をしているとき、世界樹の裏ですさまじい暴風が起こっていたな。彼女の仕業か。


「それに、ワード様も。また徹夜をされたようですね」

「あっ、気付かれてしまいましたね。魔王との協議をどう折り合いつけるべきかが中々定まらなくて。現状魔王の力が上ですからね、上手い落としどころを見つけないと、我々に不利が生まれてしまいますし」


 そうか、僕がラズリを倒したから、魔王軍との戦力差を見せつける形になったんだな。外交官も僕のお陰で有利に交渉できると息巻いていたし、僕が彼の業務を増やしてしまったか。ちょっと悪い事をしたな。


「無理をなされたら、いつか倒れてしまいますよ。そうなれば貴方を想う方達も心配されるでしょう」

「そうですね……両親にも心労をかけてしまいますし、ほどほどにしておきます」

「え、ええ……その通りですよ」


 ラズリとワードはなんとも初々しいやり取りをしている。ラズリの本性を知らなければ、美しい光景なんだけどな。

 何しろラズリは頬を赤らめて、小さく舌なめずりしている。悪いけど、ワードに興奮して今にも襲い掛かろうとしているようにしか見えない。ほんとにエルフかこの巫女。


「うぅ……どうしよう、可愛い可愛い今すぐお持ち帰りしたい……でもだめ、だめ……ちゃんと任期が終わるまで我慢しないと……もう、これ以上我慢できないって言うくらい気持ちをため込むまで、我慢……♡」


 ……あかん、心の声が漏れてもうとるやん……。

 思わず僕の口調が変わるほどにラズリは興奮している。この巫女、もうダメかもしれない。


「あの、ラズリ様? どうかしたのですか?」

「失礼しました。どうやら鍛錬で疲労してしまったようで、呆けてしまいました」


 うん、シラヌイから本性を聞いた上で見ると大分イメージが違う。ただの痴女だこれ。


「おんやー、こんな所でみんな揃って、何してるのー?」


 さらなる混沌、ラピスがやってきた。スキップしながら、面白そうにラズリとワードを見比べている。


「んふふー、やっぱりお似合いだねぇお二人さん。ベストカップル賞狙えるんじゃないの?」

「茶化さないでください姉様、私は世界樹の巫女、恋愛など御法度です。姉様も重々理解されているでしょう? 私達は世界樹に禊をささげているのですから」


 ……大分面の皮の厚い発言だな。さっきワードに対し猛烈な好意を示した奴の言葉じゃないだろ。


「でもワードさんはまんざらじゃないでしょ? 実際ラズリって美人だもんね、背も高くておっぱいもおっきくて。そう言えばシラヌイも結構立派な物持ってるよねぇ。うん、うらやましいなぁ……」


 どす黒い目でシラヌイを見るな。君、貧乳だからって他人を妬むのはどうかと思うよ。


「今貧乳って思っただろそこ!」

「ぐはっ!? み、みぞおちに……!」


 心の声を読んだ!? 貧乳って言葉に過剰反応しすぎだろ、気にしてるのか!?

 そう思った途端、第二撃の喧嘩キックが顎に直撃。僕はひっくり返って倒れた。バイオレンスな反応だな……。


「さてさて……そういやワードさんさ、魔王軍の人たちにエルフの国の紹介しなくていいのかな?」

「そう言われましても、今回魔王軍は同盟のすり合わせを行いに来ただけです。観光とは違いますし、そうした事は相手側が独自に行えばいいかと」

「ダメダメー、同盟を結んだら、魔王領から人が来る機会も出てくるでしょ。外資入手のためには観光業で優位に立っとかないと。でしょ?」


 うん、言ってる事は間違っていないな。

 人の流れが出来るって事は、国が力をつけるチャンスでもある。PR出来る所はきちんとしておいた方が、国としては利益があるな。


「だったら、一回国の紹介をしておきなよ。写真機持ってる人もいるんでしょ? エルフの国の情報を開示して、魔王領の人達にインパクトを与えておかないと」

「……一理あると言えば、ありますね」

「でしょでしょ。丁度ここに護衛関連の責任者もいるし、ちゃちゃっと決めちゃったらどう?」


 そう言い、ラズリを示す。僕とシラヌイは、彼女の意図がつかめた。


「……ラピス様、国の紹介を理由に二人をデートさせるつもりでは?」

「その通りぃ。丁度ラズリのブレーキ役になれそうな人もいるし、チャンスかなって思ってさ」


 結構性悪だなこいつ。


「実はワードも人気あるんだよ、狙ってる女は数知れず、あれもあれで魔性の男なの。だから、今のうちに既成事実と言うか、唾つけさせといた方が二十年後安泰じゃん?」

「俗っぽい考え方ですね」

「考えとしては合っているような、間違っているような……」

「細かい事は気にしない! ともかく、ラズリの恋路を協力してやってよ。私この後祈祷があるから離れられないんだ、あの子一人だと暴走してやばくなりそうだからさぁ」


 うん、間違いなく路地裏に引きずり込んで襲うだろう。

 全く、何百年も恋心を募らせた結果、愛情が重い性格になったみたいだな。重すぎる愛は相手が受け止めきれないと、ただただ苦しい物になるだけだぞ。


「じー……」

「何、シラヌイ」

「いや、今お前が言うなって思って」


 何の事だろう、わからないな。

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