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69話 エルフとの同盟。

 シラヌイが起こした魔石騒動から数日後の事だった。

 僕ことディックは、彼女と共に魔王の呼び出しを受けていた。

 てっきり先日の事を説教されるのかと思いきや、全く違う案件だった。


『シラヌイとディックに命じまーす。外交官をエルフの国へ護衛してくださいな』

「エルフの国へ?」


 妖怪リゾートへ向かう途中に見た大樹を思い出す。あれが確か、エルフの国だったはずだ。

 確か、同盟を組むための交渉をしていたって聞いた事があるな。


『実はね、最近になってエルフの女王からお返事来たんだよぉ。同盟を組んでもいいよって』


 そんなカジュアルな返事をエルフがするのか? エルフって聞いた話だと真面目な性格で、殆どお遊びとか無いらしいけど。

 けどなんで急に同盟を組もうと思ったんだろう、背景が知りたいな。そう思ったら、シラヌイが聞いてくれた。


「魔王様、無礼を承知で伺いますが、なぜエルフは突然同盟を結ぶと言い出したのでしょうか」

『実はねぇ、人間側でちょっと不穏な空気が流れだしたのよ』

「人間軍が?」

『うん、この不利な状況を覆すために、どうやら人間達はドラゴンと同盟を組むつもりらしいんだよね』

「ドラゴンと!?」


 人間領の近くには、高位のドラゴンが群れを成している竜の領域という場所がある。

 ドラゴンは全種族の中でも最強の力を持っている。群れからあぶれたはぐれドラゴンですら、沢山の街を滅ぼしかねない脅威になる。そのため、僕達は彼らの事を生きる災害と呼んでいた。

 はぐれドラゴンなら僕も倒せるけど、高位のドラゴンとなると話は違う。倒せるだろうけど、相当な反撃が来るのは覚悟しなければならない。


 そんな存在が人間と組んだとしたら……考えたくないな。ただ、


「ドラゴンが人間と同盟を組むのか? 彼らは、強い者にしか従わない。ドラゴンと同盟を組むのなら、竜王ディアボロスを倒す必要がある。ディアボロスと戦いになる奴なんて」

『一人居るじゃない、勇者様が』


 言われてハッとする。フェイスか、あいつなら確かに、ディアボロスを倒す可能性が少ないけどある。

 相手は地上最強の生物だけど、フェイスはエンディミオンの力を持っている。正直、フェイスでも勝てるかわからない相手だけど……あいつが動くのなら、


「人間とドラゴンが手を組む危険はある」

『そゆこと。一パーセントでも可能性があるなら、それは立派な脅威だ。なら対抗するために、こっちはエルフと同盟を組もうって考えたわけ』

「我々がドラゴンと同盟を組むのは?」

『竜の領域に行くには、人間領を超えないといけないからねぇ。地理的な無理があるんだ。けどエルフも十分ドラゴンと戦う力がある、決して無意味な一手じゃないよん』


 確かに、エルフも魔法だけならドラゴンと渡り合える。


『人間がドラゴンと同盟を組んだら、エルフも狙われる危険があるからねぇ。当然彼らもそれが分かっている。だから今のうちに対抗手段を身に着けるため、ワシら魔王軍と同盟を組もうって考えたわけさ』

「それで外交官を派遣し、同盟の照らし合わせを行うのですね」

『うん。けど何かあるか分からないから、念のため四天王を護衛に着けるんだ。勇者フェイスを跳ね除けた二人が、今の所魔王軍一番の戦力だからねぇ』


 そう言われると、期待を感じるな。経緯はどうあれ、フェイスを退けたのは事実。

 加えて、僕は煌力を手に入れた。ハヌマーンの力と合わせれば、フェイスと対等以上に戦える自信はある。


「任務、承りました。四天王シラヌイ、ディックと共にエルフの国へ向かいます」

『よろしくね。あ、それと訓練所の損害だけど、一応保険でどうにかなったから心配しなくていいからね』


 ……うん、やっぱりきっちりしてるなこの魔王。


  ◇◇◇


 エルフの国への出張が決まったのはいいけど、僕が向かって大丈夫なんだろうか。

 エルフは人間を嫌っていると聞く。交渉は外交官がやるにしても、僕が護衛になる事で弊害が起こらないかな。


「どう思う、シラヌイ」

「え、ああ……そうねぇ……」


 シラヌイは上の空だった。どうしたのか疑問に思って、すぐに気づいた。

 先日の魔石騒ぎを気にしているみたいだ。あの後僕は彼女にきつく言い聞かせてしまったから、委縮してしまったのかもしれない。

 僕に隠れて力を得ようとしたのはどうでもいい。僕が怒ったのは、あんなに危険な、自分の身を亡ぼすような力を試そうとしたことだ。

 ミストルティンとケーリュネイオンの話は聞いた。あれは僕達で扱える範疇を超えた力だ。煌力とは違う、まるで異質な、正反対の力だ。

 あれを使ったら最後、シラヌイ自身が傷ついてしまう。それが我慢ならなかったんだ。


「シラヌイ、怒りすぎた僕も悪かったよ。だからそんなにへそを曲げないで」

「へそなんか曲げてないわよ、気にしてなんかないし。んで、なんだっけ?」

「話が耳に入らないくらい気にしているじゃないか」

「うっさい」


 だめだ、すねちゃった。こうなったらもうどうしようもないな。


「僕がエルフの国に入るのは大丈夫かな、って話なんだけど」

「んー、まぁ大丈夫なんじゃない? だって無理なら魔王様はやらせないでしょ。あの人占いで大まかな未来が見えるんだから」

「確かに」


 魔王は意外と周囲や先を見ての行動をとる。部下の力量をきちんと判断して、フォロー体制を整えた上で辞令を下しているんだ。

 って事は、人間だからって特に気にする必要はないのかな。

「つーか、気にするならエルフ軍の最高戦力にした方がいいわよ。あんたエルフの事知らないみたいだし、一応忠告しておく」

「最高戦力……四天王みたいな存在が居るんだ」

「四天王ってか、一強だけど。エルフの国にはね、世界樹の巫女ってのが居るのよ」


 シラヌイの話だと、エルフの国の大樹は世界樹と呼ばれているらしい。

 世界樹の巫女とは、世界樹と会話する力を持ったエルフで、そのエルフは世界樹から数多の英知と恵みを受け取る事が出来るそうだ。

 その恩恵によってエルフは生活し、同時に多くの不思議な力を得ているという話だ。


「んで、エルフ軍の最高戦力が世界樹の巫女。たった一人で一国を相手取れる、一騎当千の戦士らしいわよ」

「たった一人で国を? 嘘でしょ?」

「ほんとよ。大昔、人間軍がエルフの国を侵略しようと、五万の兵を持って大挙したことがあったの。だけどそいつら全員、たった一人の女エルフが、拳一つで捻り潰したそうよ」


 ……ん? 今シラヌイ、何て言った?


「拳一つ?」

「……言葉通りよ。ステゴロで五万の兵を叩き潰したの、巫女エルフが」

「……オークじゃないよね? エルフってそんな筋肉モリモリマッチョ種族だったっけ?」

「身体的には貧弱だけど、その巫女だけは別格みたいね」


 なんだその女エルフ。しかもエルフは長命種族だ、千年は軽く生きるという。って事は。


「まだ、生きているんだな。そのステゴロ巫女エルフが」

「当然でしょうね、そんな化け物が簡単に死んでたまるものですか」

「……もしそのエルフが人間嫌いだったら」

「間違いなく襲ってくるでしょうね。さぁ、ディックはどうなっちゃうのかしらぁ」


 そんな薄情な……最悪の場合、化け物エルフと戦わなくちゃならないのか。


「こうなる事があるから、私は魔石の力が欲しかったのよ」


 頭を悩ませていると、シラヌイがもたれかかってきた。


「あんたは確かに強くなった、過去の枷を取っ払って、元々あった力も取り戻した。だけどね、一人で戦い抜けるほど世界は甘くないわ。誰でも戦うのなら、寄り添う人が必要になるの。私はそうなりたいだけなのよ」


 ものすごく切実な気持ちを感じる。彼女なりに、僕の力になろうとしているのは、分かってはいたよ。

 だからこそ、破滅的な力には頼ってほしくない。

 煌力を身につけた僕が言うのはおかしいかもしれないけど、何となく感覚で、力の意志が分かるんだ。

 魔石から発せられるのは、冷徹な意志だ。煌力の出す暖かな力じゃない。

 煌力と違って魔石の力は、確実に相手を殺すためだけの力だ。煌力のように見守り、後押しする力じゃない。大きすぎる力に翻弄される者を、弄んで楽しむ力だ。

 魔石は味方ではなく敵になりうる力……そんなものを、シラヌイに扱ってほしくないな。

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