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68話 愛ゆえに、シラヌイは力を求める。

「……ふむ、ミストルティンとケーリュネイオンを使用した、武具の強化か」


 私ことシラヌイは、ソユーズにある相談を持ち掛けていた。

 この世界に存在している、神と鬼の魔石。ミストルティンとケーリュネイオン。その扱いについてを。

 ミストルティンは神の魔石と呼ばれている、使用者の力を増幅させる作用を持った魔石だ。けどその強化に体が耐え切れず、使えば自身を滅ぼしてしまう謂れがある。

 ケーリュネイオンは鬼の魔石と呼ばれる、使用者の命と引き換えに力を発揮する魔石だ。けど吸収する魔力量が多すぎるせいで、使えば即座にミイラとなってしまう物だ。

 ……改めて見ると、どっちもやばい代物よね。


「……その二つは非常に危険な魔石だ、そうまでして武具を強化しようとする理由は?」

「ディックのためよ」


 温泉であいつと話して、煌力がディックを滅ぼすための物じゃないって分かった。それはいいけど、だったら私は何もしなくていいの?

 答えはNO。あいつが先に進むんなら、私だって一緒に行かなくちゃ。

 今私とディックの間には、大きな差が開いている。となればコツコツ積み重ねていくのは遅すぎる。

 なら近道に頼るっきゃない。となると、メイライトが教えてくれた二つの魔石を使って無理やり強化するのが一番よ。


「だから、金属を操るあんたに意見を貰いたいの。魔石の扱いも熟知してんでしょ」

「……ふむ、気持ちは分かったし、手を貸してやりたいが……あの魔石はとてもじゃないが我でも持て余す。まともに扱えそうなのは、魔王様くらいだろうか。いくらシラヌイにも勧められる物ではない」

「だとしても、私は止まりたくない」

「……言うと思ったよ。ならば手を貸すほかないか、下手に突っぱねれば、一人勝手に無茶をしそうだからな」


 流石、付き合い長いだけあって私の性格を熟知しているわね。もしあんたが断ったら独学でどうにかするつもりだったもの。


「さて……頼られたからには、応えなければな。実を言うと、魔石の併用に関しては、理論だけは完成させていたのだ」

「あら話が早い。なら早速」

「まぁ待て……理論だけと言っただろう? 実用化には不安が残るのだ」

「何よ勿体つけて、言ってごらんなさい」

「……まず、二つの魔石の特性を理解してもらう。魔石は自身の傍に居る生物に反応し、そいつに対し魔力をそれぞれ与えて奪う。理由や原理は不明だがな」

「なんか生きてるみたいよね、聞くだけでも不思議だわ」

「うむ……併用する事で互いのデメリットを解消するのは、理論上可能だ。力の奔流に耐え抜く体があれば、というのが前提になるがな」

「となると、薬で強化して」

「……それは身を亡ぼすだけだ。もっと考えを変えてみろ、自分に力を流すから負荷がかかるのなら、負荷を代替してくれる生物を見つければいい」

「ああ、なるほど。例えば私の傍に、妖精や動物とかを置いといて、そいつに魔石の魔力が流れるルートを作れば」

「……魔石の併用が可能になる。だが机上の空論にすぎん、武具として使うなら、我々より小さな生物にせねばならない。だが、そんな生物が果たして魔石の力に耐えきれるかどうか」


 かなり難しいわね、つーか無理かも。

 アイディアとしてはいいのだけど、アブソーバーになる生物が耐え切れないんじゃなぁ……。


「……一応、道具自体はある。これをシュヴァリエにつけておけ」


 ソユーズが渡してきたのは、羅針盤のような丸型の飾りだ。これをつけておけば、とりあえず私に魔石の力が行かなくなるみたい。

 あとは、力を代替えしてくれる何かを見つければいいのだけど。


「そんな都合のいい生物なんて居るのかしら」

「……知らんな。こればかりは流石に、自力で探すしかない」

「だよねぇ……けどありがとう、糸口がつかめただけでもでかいわ」

「……また何かあれば頼ってくれ」


 勿論。他の四天王の事は……多少抜けているけど、物凄く頼りにしているから。

 よし、そうと決まればメイライトに頼んでミストルティンとケーリュネイオンを作ってもらおう。


  ◇◇◇


 って事で、二人の手も借りて、シュヴァリエ・改の完成だ。

 メイライトに作ってもらった魔石をはめ込み、ソユーズが用意したアブソーブシステムを取り付けている。これで魔石の力を利用、出来るはずなんだけど……。


「……これ使ったらどうなっちゃうんだろう」

「さぁ、どうなるのかしらぁ」

「……どうなるのだろうな」


 メイライトもソユーズも、魔石を使った所を見た事ないから首をかしげている。にしてもこの魔石、見ているだけで不思議な気持ちになるわね。

 ミストルティンは目が覚めるような水色をしている。粒子を零しながら輝いていて、神秘的な空気が漂っていた。神の魔石と呼ばれるのも頷けるくらい、綺麗な魔石だ。

 ケーリュネイオンは血のような深い紅色をしている。時折黒いオーラをほとばしらせ、まるで獲物を狙っているように禍々しい空気を携えていた。鬼の魔石の異名は伊達じゃない。


「神と鬼を同居させて大丈夫なのかしら」

「そうねぇ、特に鬼が殺されそう」

「……確かリージョンは、鬼族だったな」


 #バツイチ__リージョン__#の顔が思い浮かんだ。……駄目かもしれない。


「ともあれ、一回試してみましょ。実験用のホムンクルスを出してあげるわね」


 メイライトの力で、ピクシー大のホムンクルスが現れた。これが戦闘に邪魔にならないサイズらしい。

 アブソーブシステムを起動し、ホムンクルスと同期させる。これで魔石の魔力がホムンクルスに流れるようになったわね。


 そんじゃ、早速試してみましょう。


 訓練場に場所を移して、狙いを定める。とりあえずファイアボールを使ってみればいいわよね。

 って事で使ってみた途端、シュヴァリエが轟音を立てて震え始めた。

 驚く間もなく、まるで爆裂魔法のような、超巨大な火球が飛び出す。的に着弾するなり、壁が吹っ飛び、建物が消滅して、天まで届く黒煙が舞い上がった。

 余波で空気が弾け、一瞬周囲が真空になる。そこへ吸い込まれる空気の圧力がさらなる爆発を起こして、バルドフ全域に激震を走らせた。


「……危ない所だった」

「あ、ありがと、ソユーズ……」


 ソユーズが金属の盾を作ってくれなきゃ死んでたかもしれない……何これ、本当にファイアボール? 私、使う魔法間違えた?

 ……神と鬼が同居したら、破壊神が生まれちゃった……。


「シラヌイちゃん大丈夫?」

「え、ええ……アブソーブシステムはちゃんと機能したみたい。だけど……」


 ホムンクルスは爆散していた。力の奔流に耐え切れなかったみたいね。

 たかがファイアボールが超上級魔法に昇華したんだもの、そんなのを小さなホムンクルスが耐え切れるわけがない。


「……実験なのに、事故報告書じゃ済まないレベルの大惨事になったわね」

「これ、損害額どれくらいかしらぁ……」

「……考えたくないな」


 三人でため息をつく。目の前の事は、とりあえず後で考えよう。

 机上の空論は正しい理論だって事は分かった、アブソーバーさえしっかりすれば、あの暴力的な力を使いこなせるはずなんだけど……。


「もっと強いホムンクルスは作れる?」

「できるけどぉ……サイズアップしちゃうわ。そうなったら戦闘の邪魔になっちゃうわよ」

「……そもそも、強化したところで耐えられるのか? それにこの過剰火力だ、コントロールするにも難儀だろう」

「うーん……」


 あと一歩で完成なのに、悔しいな。……ってかそもそも動物を利用して使う時点で人道的におかしな話よね。

 はぁ……この計画はなかった事にしようかな。


「なんだなんだ!? この被害は!?」

「ってシラヌイ!? 皆も……これはどういうことだ!?」


 騒ぎを聞きつけて、ディックとリージョンが駆け込んできた。

 事情を話すと、二人とも険しい顔になる。


「シュヴァリエを魔石で強化だと? 危険すぎる、どうして勝手に仕出かした」

「今回ばかりは、僕も怒るよ。どうしてこんな事をしたんだ?」

「それは……」


 隠しても意味ないので、素直に話した。ディックの煌力に並ぶような力が欲しいって。

 そしたらディックはため息をついた。


「……家に帰ったら、しっかり話そう。ここで話しきれる事じゃない」

「ごめんなさい……」


 はぁ、大失敗だわ……メイライト、ソユーズ、巻き込んでごめんなさい……。

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