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64話 頑張るディックが好きだから、シラヌイは支える。

 煌力の訓練に入って、どれだけの時間がたっただろう。

 ディックは煌力の習得に難航していた。私ことシラヌイは、もどかしい思いであいつの様子を見守っている。

 他にいるのは私とリージョンだけ。メイライト達は一度外に出て、補給物資を取りに行っていた。


「もう一度やってみよう、落ち着いてな」

「了解……!」


 ディックが深呼吸をして、神経を尖らせる。周囲に漂っている力を取り込もうと、何度もイメージを浮かべている。

 でもやっぱり、難しいみたい。

 煌力の訓練は、内容自体は単純よ。ハヌマーンを装備して、煌力を感じとるまで動かない。ただそれだけだ。

 ハヌマーンの持つ心を繋げる力を利用して、必死に煌力をつかもうとしているけど、どうにもきっかけ自体が見つからないみたいね。


「……駄目だ、影すら見えてこない。うっすらとだけど、漂っているのは分かるんだけどな」

「それを感じ取れているだけでも充分だろ、普通はそれさえもできないんだから。一旦休憩しようぜ」


 うん、大分行き詰っているみたいだし、ちょっと休ませないとね。

 ディックはその場に座り込み、大きく息をついた。動いてないのに汗びっしょり。


「ほら、タオル貸すから汗拭きなさい。凄い消耗ぶりね」

「うん……気配察知を最大限の力で使っているから、ちょっと疲れてしまってね」


 ディック曰く、気配察知は常に周囲を意識して使う物だから、本気で使うと精神的にばててしまうらしい。


「見ている限りは難しく見えないんだがな」

「まぁ、リージョンもそう思うだろうね。けど実際は、相当大変だよ。心が削られる」

「おいおい、まだ入り口に立ってないのに弱音言ってたら、この先持たないぞ?」


 ケイはさらにぞっとする事を言ってきた。


「煌力を取り込めるようになったら、自分の体が耐えられる量を調整しなくちゃいけない。もし失敗したら体が耐え切れず、四肢が砕け散ってしまうからな」

『四肢が砕け散る!?』


 だからリスクがデカすぎるでしょうが! そんなもん人の男に教えんなっ!


「ケイよ、さっきから説明が後手後手じゃあないか? ディックを危険な目に遭わせるな」

「大丈夫だリージョン、驚いたけど、それくらいのリスクが無いとフェイスに近づけないさ」


 ディックは休憩を切り上げて、また煌力の訓練に入った。

 訓練に苦戦していても、ディックはなんだか楽しそうだわ。


「はぁーい、沢山買い込んできたわよー」

「……進捗、どうだ?」


 買い出しに行っていたメイライトとソユーズが戻ってきた。ディックの様子を見るなり、二人は難しい顔をする。


「……あまりよくないようだな」

「ええ、おまけに体が壊れるようなリスクもあるって教わったわ。だってのにあいつ、すんごく楽しそうなのよ」

「そうねぇ、目がなんだか輝いてるわぁ」

「ほんと、何考えてんだかあいつは」


 口ではそう言うけど、私は分かっていた。

 あいつは自分のためじゃなくて、他人のために頑張る奴よ。煌力の習得も自分のためじゃなくて、他の人のためでしょう。

 じゃあ誰のために頑張っている? 自惚れではなく、私のためだと思う。

 私を守る力を手に入れるためにあいつは頑張っている。フェイスに二度と奪われまいと努力しているの。


「全く、しょうがない奴……」


 ま、そんな所も含めて好きになってしまったから、強くは言えない。


「! 今、一瞬見えた気が……」


 そしたらディックが急に顔を上げた。どきりとして、私は立ち上がる。

 一瞬だけどディックの体からスパークが上がった。あの感じ、煌力のスパークだ。


「きっかけを見つけたな、集中力を切らすな」


 ケイがはっぱをかける。ディックは歯を食いしばって煌力を操ろうとするけど、途端にばちっと力がはじけ飛んでしまう。


「うわっ!?」


 尻もちをついて、ディックは目を瞬いた。ほんのわずかな時間だけど、ディックは煌力を取り込んでいた。


「今の……!」

「ああ、煌力だ。どうやらとりこむきっかけを掴んだみたいだな」

「うん……! だけど力が強すぎる、集中しても制御できなかった」

「しょっぱなから出来たら俺の立場が無いっての。だけど、開始から一ヶ月でこれか……飲み込み早いな」

「そう言われると嬉しいよ、やっと一歩、進んだ気がする!」


 ディックは立ち上がるなり、私に腕を突き上げた。

 はいはい、凄い凄い。だからそんなはしゃがないでよ、見てるこっちが恥ずかしくなるし。


「シーラヌイちゃーん」

「一声かけてやれば、もっとやる気が出るんじゃないか?」


 茶化すな淫乱堕天使、セクハラ鬼め。けどまぁ、たまには褒めてやった方がいいかなぁ。

 こう言うのもあれだけど、頑張るディックも好きだしさ。


「がんばれ、ディック」

「ああ!」


 ちょっとした一声でそんなはしゃがないでよ、子供じゃあるまいに。

 ……少し可愛いと思ってしまったのは内緒にしてほしい。


  ◇◇◇


 煌力を感じ取れるようになってから、訓練は飛躍的に進んでいた。

 僕ことディックは、煌力を取り込むコツを掴み、吸収できる所まで進んでいた。

 だけど、そこからがまた、難しい。


「だめだディック、それ以上吸収したら死ぬぞ!」

「ぐっ!?」


 煌力が体に入るのが早すぎて、すぐに許容量を超えてしまう。そして煌力を体に入れた後は、全身がビリビリと痛んでしまう……。


「もう一度、もう一度だ……」

「……いや、少し休め。体を見ろ」


 言われて、腕に目を落とす。僕の体は全身鞭で打たれたような赤い痣が出来ていた。


「許容量を超えて力を取り込みすぎたな、体が悲鳴を上げている。体力が落ちた状態じゃ、煌力はお前自身に牙をむくぞ」

「ぐぅ……」

「焦るなよ、もう一息だ。ここでミスしたら、これまでの頑張りが無駄になる。一旦リフレッシュしてこいよ、温泉でも入ってきな」

「……そうしよう、かな」


 気が抜けた途端、全身に痛みが走る。思った以上に体がボロボロになっていた。


「ディック、大丈夫?」


 ふらついた僕をシラヌイが支えてくれる。自分で立てないくらい、体力も落ちていたのか。

 ケイのアドバイスに従って、一度解散、外に出る。時刻は丁度昼時で、なんだかお腹もすいてきた。


「ご飯食べに行きましょう、ほらしゃきっとして」

「はは、ごめん……節々が痛くて、上手く歩けなくてさ。支えてくれないかな」

「あーもう、甘えてまぁ……いいけどさ」


 シラヌイは僕の腕にしがみつく。支えると言うより、もたれかかられている気がするけど、いいか。

 近場の食事処でテラス席を取り、親子丼を頂く。やわらかい鶏肉の卵とじが、疲れた体に染み渡るな。


「もう一息なんだけどな、煌力を取り込む感覚は分かった、あとは制御するだけなんだけど」

「制御のコツとか教えてくれないの?」

「ケイいわく、制御の仕方は人それぞれで、自分の感覚を教えるとかえって混乱する可能性があるんだって。心が乱れたら、煌力を取り込むこともできなくなるらしい」

「随分難しいみたいね、けど習得は早いんでしょ? だったら出来るようになるって」

「なるさ、必ず。シラヌイを守る力になるのなら、絶対に身に着けないと」

「ぐぬっ……あんた、だからそう歯の浮くセリフをやめなさいっての」

「だって君を誰にも奪われたくないから」

「人前で言うなっつー話よ!」

 怒られた。機嫌を損ねてしまったか。

「気持ちは嬉しいけどさぁ……あーうー……」

「ごめん、追加であんみつ頼むから」

「そんな安いので買収できるかっ。豆かんで勘弁してあげる」


 充分安いからね。むしろランクダウンしてない?


「やぁやぁ二人とも、休憩中かな?」


 見回りの途中だったのか、ドレカーが通りかかった。リゾートの運営もあるから、僕の訓練には席を外す事が多い。

 なので進捗状況を話すと、ドレカーはふむと頷いた。


「どうやら行き詰まりを感じているようだね。ならば、宇宙一ためになるアドバイスを送ってあげよう。そんな時は、原点に立ち返るといい」

「原点?」

「そうだ。この場合の原点は、君が未熟だった頃、剣をうまく使えなかった頃の事だ。当然その頃も行き詰まる時はあっただろう?」

「うん、抜刀術が使えるようになるまで、何度も躓いたよ」

「だろう? 苦しくなった時は、自分が苦しかった頃の事を思い返すんだ。その時自分がどうやって乗り越えたのか、経験が必ず君を助けてくれる。困ったときほど、過去の自分は頼りになるものさ」


 成程、過去の自分か。

 やっぱりドレカーのアドバイスは含蓄がある。恥ずかしいから言わないけど、ドレカーは僕に心の在り方を教えてくれた、母さんに次ぐ二人目の師匠だと思っているんだ。

 ドレカーが去った後、胸に手を当てて考える。僕が苦しくなった時、何が一番の助けになっただろうか。


「何か掴めそう?」

「多分ね。きっと何とかなる、そう思えるよ」

「そう、なら頑張りなさい。あんたが出来るようになるまで、傍に居てあげるからさ」


 シラヌイは優しく僕を見守ってくれている。彼女が見てくれているから、僕は頑張る事が出来る。好きな人のために努力するのは、何よりのモチベーションだ。

 よし、足湯でも入って気分を変えるか。そしたらまた、煌力の訓練だ。

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