表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

62/179

62話 月を見上げ想う。

 温泉から上がった後、僕ことディックは、四天王も交えて温泉街を楽しんだ。

 ソユーズと一進一退の卓球勝負をしたり、リージョンが捕まえた昆虫を見たり、メイライトのショッピングに付きあったりと、普段の激務から解放されて、自由に思い思いの時間を過ごしていた。

 まだ一日目なのに、凄く充実した休日になっている。明日は丸一日使えるし、何して楽しもうか今から悩んでしまうな。

 夕暮れ時に旅館へ戻って、ドレカーのような服に着替える。似ているけど、浴衣って服らしい。これも東洋、母さんの故郷の文化らしい。


「なんでこんな東洋文化にこだわったんだろうか」

「……ドレカー先輩は昔冒険者でな、東の大陸を旅した事があったらしい。その影響だろう」

「涼しくて気分がよくなるな、さて、女達はどうなっているかな?」


 部屋から出るなり、シラヌイ達も出てきた。

 シラヌイは花柄の浴衣に身を包み、髪をアップにまとめている。黒髪に浴衣が映えて、綺麗だ。


「悪くないでしょ?」

「うん。勿論ポルカもね」

「へへー」


 有翼人種用の浴衣もあるんだな。こうした細かな心配りが、妖怪リゾート人気の秘訣なんだろう。


「もぉ、シラヌイちゃんに見とれてないで、私の浴衣姿もどぉ?」

「勿論似合っているよ」

「なんだか社交辞令みたいでやーねぇ、ぷんぷん」


 僕はシラヌイ一筋だからね、許して欲しい。

 皆の浴衣披露が終わったら、宴会場で食事だ。料理は見た事ないものばかりで、刺身に、冷ややっこや酢の物、茶わん蒸しと言った珍しい品が並んでいる。どれも美味しくて、すぐに平らげてしまったな。


「やぁ諸君、どうかね? 私が誇る宇宙一の御馳走は」


 夕餉を終えて一息ついたころ、ドレカーがクミンを連れてやってきた。

 最高のおもてなしにお礼を言おうとしたら、彼の後ろから二人出てきた。


「あ、お父さん、お母さん!」


 そしたらポルカがばんざいする。ケイとアスラが僕らの前に現れたんだ。


「ドレカー先輩の旅館で働いていたんですね」

「二人とも優秀で助かっているよ。ケイ、アスラ。彼らにならかしこまらず話していいよ」

「ありがとう、ポルカ、今日はどうだった?」

「すっごく楽しかったよ! ほんとだよ!」

「あらあら、凄く喜んじゃって。よほど楽しかったのね」

「何から何までポルカを世話してくれて、頭が上がらないな。もう俺達よりなついたんじゃないか?」

「そんなことはないよ、実の親の下で過ごすのが一番だ」

「その言葉で、ディックの親がどんな奴なのかわかるな」

「とても優しいご両親だったんでしょう? あなたとシラヌイを見ればわかるわ」

「うん、自慢の母さんだった」


 勿論、ポルカの両親も素敵な人たちだ。


「魔王四天王の方々にも改めてお礼を言わせていただきたい。俺達ウィンディア人を助けてくれて、本当にありがとう」

「魔王軍として当然のことをしたまでだ、そうまでかしこまらなくていい」


 四天王を代表して、リージョンがそう答えた。


「ずっと考えていたんだ、どうやって恩を返すべきか」

「それで思いついたの、ディック、あなたにウィンディア人の秘術を授けようって」

「ウィンディア人の秘術?」

「ああ。君達はまだフェイスと戦うんだろう、ハヌマーンを使いこなすディックじゃないと使えない術でね、これを習得できれば、この先勇者と戦う中できっと役に立つはずだ」

「どんな秘術なんだ?」

「明日のお楽しみにしておいて。それで、メイライト様。貴方の時間を操る力をお借りしたいのですが」

「あー、私の力で時間の流れを遅くすればいいのね。訓練時間の確保、任せといて」

「なら俺の力で訓練場を作ってやろう、リゾートで訓練したら他の客に迷惑だしな」


 協力的な四天王が頼もしい。あいつに近づくためにも、新しい力はどんどん手に入れないとな。


  ◇◇◇


「あふ……ねむい……」


 客室に戻り、ババ抜きをしていると、ポルカがウトウトし始めた。

 僕達三人は同じ客室に居る。ソユーズが気を利かせて部屋割りしてくれたみたいだ。


「そろそろ横になりましょう、夜更かしは体に毒だからね」

「うー、もっと起きてたい。お兄ちゃんとお姉ちゃんと、もっと一緒に居たい……」


 可愛らしい我儘だ、でも辛くなるのはポルカだしね。


「なら明日早起きすればいいさ、そうすれば長く一緒に居られるだろ?」

「ん……そっかぁ……じゃあ……おやすみ……」


 ポルカは力尽きて、ぽふっと横になった。昼にあれだけはしゃいだから、疲れが出たんだろうな。


「また明日、いい夢見てね」


 シラヌイが頭を撫でて、額にキスをする。ポルカの寝顔が柔らかくなった気がした。


「ねぇ、フェイスがまたポルカを奪ったりしないわよね?」

「できないさ、術を使うための駒が無い。心配しなくても、ポルカは奪われたりしないよ」

「わかってる。ちょっと怖くなっただけ」


 すっかり母性本能に目覚めているな、ポルカにも甘々だし、子供が出来たら自分がされなかった分、思い切り愛すタイプなんだ。


「今日一日凄く幸せだったな、こんな日が永遠に続けばいいのに」

「続けるさ、勿論。明日教えてくれる秘術ってなんだろうな」

「さぁ……でもウィンディア人の技術だし、きっと凄い秘術のはずよ」


 ハヌマーンを持つ僕だから使えるか、何となくだけどハヌマーンの心を繋げる力に関わっているような気がするな。

 僕にあってフェイスにない力、人の心を信じる力。ハヌマーンはその力を象徴する魔導具だ。

 僕が目指すべきは、その力をより伸ばす事。あいつが一人の力で人類最強になったのなら、僕は大勢の力を借りて、魔王軍最強の男になってみせよう。

 そう思った時、僕の肩に重みがかかる。シラヌイがもたれかかってきた。


「どうしたの?」

「……ぐー……」


 ぐっすりと眠っている。彼女もこと切れたみたいだな。

 布団に寝かせてから、僕は月を見上げた。

 フェイスもどこかでこの月を見ている。気分は悪いが、あいつと繋がっているような気になってくる。

 あいつは僕と合わせ鏡のような、対極に位置する男。僕は愛情を知っていて、あいつは愛情を知らない。それが僕達の関係を形作っていた。


「僕を襲ったのも、どこかで僕と母さんを見ていたからかもしれないな」


 見えないところで絡み合った縁の糸。だけど、僕達が分かりあう事はあり得ない。だからこそ、僕達は剣で語り合う必要がある。

 ……どちらかの命が、削り切れるまで。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ