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61話 料理大会!&温泉タイム。

「ふぉっふぉっふぉ! 獅子はウサギをとらえるにも全力を尽くす!」


 バヅキが中華鍋を振るってチャーハンを炙り、


「私のつめたーい料理で身も心も温まるが良いわ!」


 メイコが矛盾したセリフでかき氷を作って、


「おいらは負けねぇ、全力でマグロをぶった切ってやるぜ!」


 ツナがマグロを全力で解体している。これ何の料理対決なんだ?

 そんなことを考えつつ、僕ことディックはマッシュポテトを作っていた。

 ちなみに料理大会のテーマは揚げ物で、各々自慢のフライやてんぷらをつくると意気込んでいるんだけど……マグロ以外はどう揚げ物にするのか皆目見当もつかないや。


 まぁ僕のマッシュポテトも、傍目には分からないかもしれないな。


「す、すごい……なんてレベルの高い料理大会なんだ」

「あの人間が可愛そうになるよ、これだけの料理人相手にビビっちゃって、地味なパフォーマンスしかしてないじゃないか」


 いや料理は派手な事すりゃいいわけじゃないぞ、そんな事したら後始末が大変だからな。


「こらーディック! もっとこう、刀を振り回すとかして目を引きなさいよ!」

「お兄ちゃんがんばってー!」


 応援ありがとう二人とも、でもシラヌイ、そんな事したら僕ただの危険人物だからね。

 料理に大事なのは派手さじゃない、食べて欲しい人を思い浮かべながら、一つ一つ丁寧に手間暇をかける愛情さ。


 母さんがそうだった。僕のために忙しい仕事の合間を見つけて、おいしい料理を作ってくれたんだよ。食べてもらいたい人の事を想うからこそ料理はおいしくなるんだ。


「シラヌイとポルカが美味しいって言ってくれるように……それが味の秘訣だろ、母さん」


 さてと、仕上げに入るか。

 マッシュポテトを丸く整形して、衣をつけて揚げていく。最初は低温でじっくり火を通して、最後に高温で外をカラッと揚げる。手間だけど、こうした方がまんべんなく火が通ってほくほくになるんだ。

 母さんが作ってくれた思い出の料理、ポテトクロケットの完成だ。あとはキャベツを千切りにして添え物にして……うん、いい出来だ。ソースも小皿に分けて、味を好みでつけてもらうようにするか。


「そこまで! では審査に移ります!」


 丁度出来上がった所で時間が来た。やれることはやれたし、さぁどうなる?

 他の料理は、チャーハンのおにぎりフライにかき氷の天ぷら、マグロのカツレツか。どれも手が込んでいて美味しそ……かき氷の天ぷらってどうやって作ったんだ!?

 うーん、ちょっと普通過ぎたかなぁ。料理対決でも負けるのはやっぱり悔しいや。


「はい結果出ました! 優勝は……ディック選手のポテトクロケットです!」

「って僕?」


 てっきり負けたかと思っていたから意外だ。勝因は何だったんだろう。


「どの料理も美味かった、美味かったが……このクロケットはじーんと来るものがあった」

「そうそう、こう、心に来て胸が染み渡るような、感動的な響きがあった」

「これをなんと表現すべきか、そう! 愛! まさしく愛だ!」

「食べたい人の事を心から思い、丁寧に仕上げた味。こんな真心のこもった料理は初めてだ」

「って事で君の勝ち! オーケィ?」


 審査がちょっとアバウトな気がしないでもないけど、別にいいか。

 って事で勝利した僕は、商品として野菜一年分が送られる事になった。新鮮な野菜を貰えるなんて、これはラッキーだな。


「っしゃあ! どんなもんよ、ディックは強くて料理も上手い剣士なのよ、そこらの雑兵に負けるような男じゃないんだから」


 シラヌイと合流するなり、ドヤ顔で自慢してきた。誰よりも僕の成果を喜んでくれてるな。


「でもポルカ、クロケット食べたかったな」

「確かに、思うわね」

「そう言うと思ったよ、はいどうぞ」


 こっそり二人の分も作っておいたんだ。まだほんのり温かいし、味は損なってないはず。

 二人は大喜びでクロケットを取って、幸せそうな顔で食べ始めた。そうそう、僕が見たかったのは、その顔だよ。


「ほっくほくー。凄く美味しい!」

「優しい味ね、何個でも食べられそうだわ」

「あんまり食べると夕飯に響くよ、一個で我慢しようね」


 それにまだ食べ歩くんだろ、クロケットでお腹いっぱいにしたら勿体ないって。


  ◇◇◇


 いくつかの店で食べ歩いた後、僕らはいよいよメインイベントに入る事にした。

 当然、前来た時堪能できなかった温泉だ。ここは有数の温泉地、入らなければ勿体ない。

 特に昨日まで仕事を詰め込んだから、肩こりが酷い酷い。固まった筋肉をほぐさないとな。

 という事で温泉施設に入ると、ポルカが首を傾げた。


「お兄ちゃんとお姉ちゃん、一緒に入らないの?」

「ん? いや、ここ混浴じゃないし。僕らまだ、やったことないし」

「お父さんとお母さんは毎日一緒にお風呂入ってるよ」

「いっ!? あの夫婦毎日混浴してんの!?」

「ポルカも一緒だよー?」

「んにゃあ!?」


 大胆だなあの夫婦……僕達は同居していても、風呂はまだ一緒に入っていないんだけど。


「一緒に入らないの?」

「い、いやまぁそりゃ……入るわけないじゃない! ここ混浴じゃないしぃ!」

「シラヌイ、落ち着いて。ポルカ、もう人前でそんな事言っちゃだめだよ、いろいろ問題になるから」

「? うん」


 こりゃ、近いうちにポルカの弟か妹が出来そうだな。

 二人と別れて温泉へ向かうと、硫黄の匂いが漂ってくる。そしたら、


「お、ディック。お前も温泉で一休みか」

「リージョン。そっちも同じみたいだな」

「まぁな、いやー大漁だったぞ、カブトムシがもうわんさかいてな、入れ食い状態だ」


 本当にあの格好で虫取りしてたのかよ、リージョンが虫取り網片手にはしゃぐ姿……シュールすぎるだろ。


「ソユーズはどうしてる?」

「今頃卓球場だろう、あいつの数少ない趣味でな、随分楽しんでいるようだったぞ」

「ペストマスク被ってるのにピンポン玉見えるのか?」

「あいつ曰く、見るのではない、感じるんだ。だそうだ。結構やり手だぞ」


 へぇ、ソユーズ強いのか。後で対戦してみよう。

 リージョンと露天風呂に入るなり、温泉の熱が体に染み渡っていく。体が溶けてなくなってしまいそうだ。


「ぷふぅ……こいつは極上だ。おっ、見ろよディック。吟醸酒とやらの無料サービスだとさ」

「へぇ、気前がいいんだな」


 リージョンが指さす先には酒樽が置かれていて、客が思い思いに飲んでいる。僕らも有り難くいただいて、乾杯を交わした。


「~~~かぁ! こいつは利くなぁ! このあたりじゃ見ない酒だぜ」

「いい香りだ、米の香りだね。甘味があって、後味もさっぱりしているよ」

 最高の温泉に、上等の酒を味わえて、まるで天国だな。

「リージョン、カブトムシの他に捕まえた昆虫はいるのか?」

「勿論だ。他にもゴールデンクワガタがだなぁ」


 それから僕らは、しばしの間昆虫談義で盛り上がった。


  ◇◇◇


 私ことシラヌイがポルカと温泉に入るなり、見知った顔が居た。


「あらーシラヌイちゃーん。楽しんでるぅ?」

「メイライト。あんたも休憩?」

「まねー。旦那達もあちこち回っててね、合流するまでここで待つことにしたのよ」


 メイライトは泳いでポルカに近づいてくる。行儀悪いからやめなさい。


「ポルカちゃんも久しぶりねぇ、元気してたぁ?」

「うん。おばさんも元気だった?」

「お、おばっ!? ぶがっ!?」


 あ、ショックを受けて血を吐いた。普段メイライトにしてやられてるから、なんか新鮮な顔だわ。


「え、えーっとポルカちゃあん。私おばさんじゃなくてお姉さんよぉ、ほら言ってみて、お姉さん」

「んー、おばさん」

「がふぅっ!?(吐血)」

「あ、また血を吐いた」


 メイライトの意外な弱点発見。こいつおばさん呼ばれるのがダメなんだ。子供って無邪気な分、心を抉る発言するわよね。

 ……にやり、普段の仕返ししてやる。


「ポルカ、折角だからこのおばさんの背中流してあげようかぁ」

「ごぼぉっ!?(吐血)」

「うん! おばさん、こっち! ポルカが綺麗にしてあげる!」

「ぐげぇっ!(吐血) く、くしょお……子供だから怒るに怒れにゃいいい……」


 ふん、いつも私をいじめる罰よ、徹底的におばさん責めしてやる。

 って事でポルカと二人がかりでメイライトを責め立てる。おばさん言う度にメイライトは大ダメージを受けて血を吐き続けた。

 うん、留飲も下がったし、これ以上おばさん言ったら反撃来るわね。もうやめましょう。

 にしても気持ちよかったぁ、やっぱ温泉最高だわ。


「やぁシラヌイ。メイライトも居たんだな」

「あ、あら……ディックちゃん……ごきげんよう……」


 メイライトはすっかり青ざめた顔をしている。首をかしげるディックをよそに、リージョンがにやっとした。

 そういや、鬼って耳がよかったわよね。


「どうした、のぼせてしまったのか、おばさん」


 やっぱ私らのやり取りを聞いていた。

 とどめのおばさん攻撃にキャパオーバーしたメイライトは、リージョンに時止めを使って徹底的にボコボコにしていく。やっぱあいつ、空気読めない男よね。

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