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60話 観光を楽しむ三人。

「……大丈夫?」

「このくらい平気よ平気」

「でもお姉ちゃん、泣いてるよ?」

「ゴミが目に入っただけだから」


 私ことシラヌイは、足を引きずりながら歩いていた。

 落下はしたけど、ポルカが無事だったからよかったわ。庇った時に右足くじいたけど、安い物よ。うん、本当に痛くないから、問題ないから。

 ……嘘。本当はめっちゃくちゃ痛い……。


「意地張らずに手当てを受ければよかったのに」

「四天王が玄関で転んで捻挫したとか笑い話じゃないのよ」

「いや落下したんだけどね君。ともかく、薬師の所に行こう。怪我治療しないと」

「うー……」


 自分のアホさ加減に頭が痛くなる、他の四天王の事言えないなぁ。


「じゃあじゃあ、ポルカが案内するよ。怪我がすぐに治る所があるんだよ」


 そしたらポルカが私達の腕を引いた。連れてこられたのは、東屋かしら。温泉が浅く張られたお風呂がある。


「足湯か、無料で利用できるんだな」

「うん。ポルカもね、足を怪我したの。でもお母さんがここに連れてきてね、すぐに治ったんだよ」


 へぇ、怪我を治す温泉かぁ。今の私には嬉しいわ。

 って事で早速試してみる。そしたら足首がじんわりと温められて、青くなっていた足首が見る間に治っていく。


「凄い、足が軽くなっちゃった」

「これは気持ちいいな。よく見ると、あちこちに足湯があるみたいだ」

「そうだよ。他にもね、いっぱいあるんだよ。おさかなさんがいるのもあるんだ」

「魚?」

「うん! 案内するね」


 次にポルカに連れてこられたのは、小さな魚が沢山泳いでいるところだった。

 利用している人を見ると、足に魚が群がっている。何してんだろあの魚。


「もしかして、足の垢を食べているのかな」

「足の垢? マニアックな物エサにする魚ね」

「あかなめって妖怪さんが飼ってるお魚さんなんだって」

「あかなめ?」

「名前の通り、風呂場とかに着いた垢をなめて綺麗にする妖怪だね」

「変態じゃない」


 飼い主がダイレクトすぎる。足入れる気無くなるけど、ポルカの手前引けないし。


「どしたの?」

「なんでもない」


 勇気を出して入れてみる。そしたら魚が足に集まって、ちょんちょんつついてきた。

 こそばゆいけど、ちょっと気持ちいいかも。指の隙間とか汚れがたまりやすいし、食べてくれると助かるわ。


「にしても、ポルカは色んな所知ってるわね」

「えへへ、お父さんとお母さんが連れて行ってくれるの。他にもいっぱいあるんだよ、おんせんまんじゅうとか、おだんごとか、おまっちゃとか!」

「食べるのばかりじゃない」


 やっぱり可愛い。この子と一緒に居ると癒されるわね。

 今日はいっぱい甘やかしちゃおう。この子がやりたい事を、めいっぱい叶えてあげなくちゃ。


  ◇◇◇


 ポルカを連れて、私達はあちこちを回った。

 この子の望んだお菓子だったり、あとは的あてとかのゲームをしたりして、心行くまで温泉街を楽しむ。一日目からこんなに幸せな時間を過ごせるなんて、夢みたいね。

 ポルカおすすめの温泉饅頭、軽い甘さで美味しい。お土産にいくつか買ってこうかしら。


「美味しい! でもポルカまんじゅう恐い」

「なにそれ、おかしな子」

「こう言うとね、枕元におまんじゅうが来るの。ほんとだよ」

「? なんじゃらほい」

「多分あれの事じゃないかな」


 ディックが指さす先には、演劇場がある。そこに今日やる演目で、饅頭恐いってのがあった。


「なにこれ、変なタイトルの劇ね」

「落語って劇みたいだ。けど聞いた事ないな、どんな劇だろう」

「面白いよ! 行ってみない?」


 上目遣いでおねだりされると弱いなぁ。よし行きましょう。

 劇場内は高座が一席あるだけで、特段大きなものじゃない。何かしら、人形劇の会場とも違うけど……。

 戸惑いつつ待っていると、三味線の音と共にはかま姿の一つ目男が、ひょっこりと現れた。


「いやどうも遅れました。最近ね、近所の爺様がどうにも私を目の仇にしてるもんだから寝不足なものでして。私こんな身なりしていますが、相当なビビりで。この世にゃもう恐い物がわんさかとあるんですよ、地震雷火事親父って。けど一番怖いのはうちの奥さんですが」


 どんなカミングアウトよ。けどちょっと笑ってしまった私が居る。

 一つ目男は小気味よい語り口調で話し続け、いつの間にか饅頭恐いの演目に入っていた。どうも落語ってのは、一人でたくさんの役を演じる大人の紙芝居って感じね。

 内容としては、恐い物自慢をする男たちの一人が「饅頭恐い」と言い出して、そいつをビビらせるために皆が饅頭を枕元に置くけど、それが結局男の好物でまんまとしてやられたって話だ。

 男の話し口調がまた面白くて、何度も笑っちゃった。結構好きかも、こういう演劇。ただのおしゃべりが芸になるなんて、演劇の世界も奥が深いわ。


「なるほど、これを聞いてから「饅頭恐い」ってねだるようになったのか」

「ねだってないよ、ポルカが恐いからお父さんとお母さんが意地悪するの」

「世界で一番優しい意地悪だね」


 ディックはポルカを抱き上げた。私もだっこしたいなぁ。

 そしたら、ポルカが何かを見つけたようで首を伸ばした。


「ねえねえ、あそこで何かやってるよ。行ってみよ!」

「人だかりが出来てるわね、何かしら」


 興味本位で行ってみると、料理大会って横断幕が見えてきた。


「さぁさぁ他に居ませんか! 現在残る枠はあと一つ! 優勝すれば素敵な商品プレゼント!」


 主催者がしきりに参加者を募ってるけど、なんだか皆渋ってる感じね。


「おいどうするよ、今回の参加者レベルが高いぞ」

「ああ……とてもじゃないが勝てない、参加する気がなくなるぜ……」


 そんな驚嘆するくらい凄いの? 並んでるのは……馬頭鬼に雪女、それと直刀(マグロ包丁って言うらしい)を背負った変な子供だ。

 見た感じ大したことなさそうだけど、本当に強いの?


「甘口のバヅキに冷や飯のメイコ、そしてマグロ使いのツナ。最早勝ち目が見えねぇぜ」

「少なくとも言えるのは、こいつは絶対凄い戦いになるって事だっ」

「誰よこの解説してんの」


 けど料理大会か。見てるのもなんかつまらないし、そうだ。


「ディック、参加してみてよ。あと一人出来るんでしょ」

「僕が? 剣ならともかく、プロの料理人相手に勝てるかな」

「自信を持ちなさい。あんたは私の男なんだから」

「お兄ちゃんのご飯美味しいから勝てるよ」

「まぁ、やるだけやってみるかな」


 って事で料理大会にディックをエントリー。参加したからには勝ちに行きなさいよ。

 あんたの料理毎日食べてる私が保証するんだから、自信を持ちなさい。

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