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59話 最後の最後でドジを踏む。

「ひと月ぶりか、元気にしていたかな?」

「うん!」

「それはよかった……本当に、会いたかったよ」


 僕ことディックは、ポルカの頭を撫でながら微笑んだ。

 フェイスから受けた傷も癒えて、とても素敵な笑顔を見せている。ドレカーはウィンディア人達を約束通り、手厚く保護してくれたんだな。


「そんじゃ、私らは先戻ってるからな」

「荷物は旅館に運んでおくんだな」

「ありがとう、助かるよ」


 ガランとマサラに別れを告げて、僕もポルカを抱き上げる。こんなに小さい女の子なのにフェイスと戦ったんだ、改めて感じるけど、やっぱりポルカは凄い子だよな。


「騒ぎがするから何かと思えば、俺達を助けてくれたヒーローたちじゃないか」

「ん? あんたは確か……」


 僕の前に、少し童顔のウィンディア人がやってきた。隣には目が覚めるような美女を連れている。

 男はポルカの父ケイ・クリード、女は母のアスラ。二人とも元気そうだ。


「二人とも来てくれたのね。あなた達には改めてお礼がしたかったのよ」

「ああ、いくら礼を言っても足りないくらいだ。俺達の事、ウィンディア人の事、そしてポルカの事……沢山の借りを作ってしまったな」

「いえ、私達はポルカを助けたかっただけです。お礼なんていりませんよ」

「それに僕達もポルカには助けられた。こっちこそ、お礼を言わせて欲しい」

「おいおい、これじゃ礼の譲り合いになっちまうよ。じゃ、この話は互いが勝手にやりあうって事でよろしく。じゃ、うちに来てくれ。こんな所で立ち話するのもなんだしさ」


 ケイとアスラは僕らを抱えると、ツリーハウスへ連れて行ってくれた。

 ポルカはシラヌイの膝に乗って、きゃっきゃと喜んでいる。ポルカも僕達に会えて嬉しいんだな。


「昨日ドレカーさんから連絡受けて、この子ってばずっと楽しみにしていたのよ。お兄ちゃんとお姉ちゃんに色んな所案内するんだって張り切っちゃってね」

「そうなの? じゃあ後でいっぱい遊びましょ」

「うん!」

「俺達も君らなら安心して預けられるからな、今日明日はポルカをよろしく頼む」

「任された」


 僕達としても願ったりかなったりだな、めいっぱい楽しんでいかないと。


「さてと。それじゃポルカの次は、魔導具の話に移るとするか。君らも気になっていただろ? 特に覚醒について聞きたいんじゃないか?」


 ケイ曰く、僕とフェイスのやり取りを聞いていたらしい。

 まさしく彼の言う通りで、僕はずっとフェイスの言っていた魔導具の覚醒について気になっていた。


「一瞬、フェイスの姿が異形になったんだ。あれが覚醒の力なのか?」

「ああ。魔導具が持つ一つ上の段階、それが覚醒って奴でな。覚醒した魔導具の所有者は、魔導具と一体化して能力を急激に上昇させることができるんだ」

「一体化する時、魔導具が所有者を力に耐えられるよう変身させるの。もしフェイスが引き下がらなかったら、ハヌマーンを持つ貴方でも危なかったかもしれないわね」

「アンチ魔導具の力を持ってもだめなのか?」

「残念ながら、今のハヌマーンは未覚醒でな。攻撃は通ると思うけど、防御機能が突破されるはずだ」

「確かに、フェイスに勝てたのは防御機能のお陰だった。防御に気を払わなくていい分、攻撃に集中できたから」

「……こっちの完勝に見えて、実際はひやひや物だったわけね」


 シラヌイと目を合わせ、僕らはため息をつく。やっぱりあいつとの差はまだまだあるみたいだな。


「まぁ落ち込むなって。ハヌマーンが覚醒すれば、エンディミオンと同じ条件になるんだ。差があるなら縮めればいい、違うか?」

「そうだな……それじゃ、こっちからも質問だ」

「どうすれば覚醒するのかだろ? 結論は簡単、別の魔導具を取り込めばいいんだ」

『別の魔導具?』

「魔導具には融合機能が備わっていて、所有者の居ない魔導具を取り込む事が出来るんだよ。そうすることで、魔導具の覚醒がアンロックされるんだ」

「じゃあ私の杖を取り込めば、ハヌマーンは覚醒するって事なのね」


 シラヌイが嬉々として杖を出すけど、ケイは首を振った。


「残念だけど、その杖、シュヴァリエは魔導具としての力を失っている。それじゃ取り込む事が出来ないんだ」

「ドレカーさんが魔導具としての機能を取り外してしまったものね」

「そっか……うーん残念。それじゃあ覚醒用に新しい魔導具を探さないといけないのか」


 魔導具は希少な武具だ。ウィンディア人に新しく作ってもらおうにも、悪用されないためにハヌマーンを作った後、忘却術で制作方法を消去したらしい。


「俺達も他の魔導具がどこにあるのか分からないから、これ以上力になるのは難しい。ごめんな、役に立てなくて」

「とんでもないよ、ハヌマーンが無ければ僕らはフェイスに勝てなかったんだ、あらためてありがとう」

「まぁ手に渡ったのは偶然だけどな。なんにせよ、俺の作った武具が役に立ってよかった。それが正しい心を持った所有者に渡ったのなら、なおさらさ」


 正しい心を持った所有者か。ハヌマーンは深く愛し合った人が居ないと適合者として認められないから、選ばれた身としては光栄だ。


「けどどうして、こんなアンチ魔導具なんて極端な物を作ったんだ? エンディミオンやシュヴァリエに比べるとあまりにも守備的で、魔導具の中でも異質な存在だけど」

「……ま、単純な話さ。魔導具を生み出した種族として、責任を取ろうとしたんだ」


「あなた達も感じたでしょう? エンディミオンは人間を欲望に満ちた暴徒に変えて、シュヴァリエは国を滅ぼし、魂を大地に繋ぎとめた。ウィンディア人が作り出した魔導具は、あまりに多くの人々を不幸にしているの」

「だからハヌマーンを作って、世界中に散らばった魔導具を壊そうと思ったんだ。機能を絞れば、魔導具の力は格段にあがる。対魔導具に特化させたのは、その性質を利用したからだ。だけどハヌマーンを作った直後、俺達を狙った連中に襲われてな」

「ハヌマーンを放棄し、逃げるしかなかった……そう言う事か」


「ただどうしても諦められなくてな、そこで魔導具全書を作って、正しく利用してくれそうな奴にこっそり送ったんだよ。そいつがハヌマーンを使えればよし、あわよくば回収できればとも思ってな。なにしろハヌマーンは「深く愛し合う者が居る」のが適合条件だ。使える奴はかなり限られている」

「私とケイくらいの仲じゃないと認められないようにしたのよ、自慢じゃないけど私とケイの仲は誰にも負けない自信があるからね」


 ……なんかしれっと惚気が入った気がするけど、聞き流しておこう。


「だけどディックが適合者になってくれた。身勝手かもしれないけど、改めて頼ませてもらうよ」

「どうかハヌマーンを、正しく使ってください。それが私達の願いよ」

「分かっている。この力の重さは、僕自身よく分かっているから」


 ハヌマーンの使用条件は、母さんの教えとそっくりだ。僕の心に母さんが居る限り、ハヌマーンは僕に力を貸し続けてくれるはずだよ。


「よし、魔導具に関して伝えられるのはこんな所かな。じゃ、そろそろ出かけるかい? ポルカも退屈そうだしな」


 難しい話が続いて、ポルカは大分眠そうだ。ごめんよ、ちょっとたて込んじゃったな。


「今日は二人の所に泊まるといい」

「私達はお仕事があるから、ポルカをよろしくね」

「任せてください! さ、出かけましょうポルカ!」

「はーい!」

「ちょっと待ってシラヌイ!」


 勢い勇むのはいいけど、ここツリーハウス、そのまま出たら墜落するぞ。

 そう言う前に飛び出したシラヌイは、案の定落下してしまった。

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