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55話 魔王軍の英雄

 フェイスとの闘いから、早い物で一ヶ月が経過していた。


「にしても、魔王……いくらフェイスを倒したからって、この豪邸はやりすぎだろ」


 僕ことディックは頬を掻き、魔王から貰った家を見上げていた。

 一言で表現するなら屋敷だ。どうもメイライトに命じて作らせたみたいだけど、あいつの趣味全開で、まるでメルヘン小説のような乙女チックな家なんだ。


 ……一応家主、僕になるんだけど。こんな武骨な男の家として相応しいのかこれ?

 掃除するのも大変そうだな……貰った手前文句を言うのは筋違いだけど、ちょっとなぁ……広い家ってのも落ち着かない。

 家政婦雇うのも金かかるんだぞ、僕の月給じゃちょっと厳しい気がする。それに家が大きいと固定資産税も高くつくし、他にももろもろ諸経費が……頭痛くなってきた。


「僕って結構、貧乏性だよなぁ……売るって手もあるけど、それは魔王に悪い気がするし……」


 まぁ、愚痴るのはここまでにするか。引っ越し業者も待たせている、とっとと済ませよう。

 と言っても僕の荷物なんてリヤカー一台で済む程度、頼んだ業者も二人だけ。あっという間に終わってしまった。


「手伝ってくれてありがとう、お礼にご飯ご馳走するよ」

「マジっすか!? あざーっす!」

「ごちになるっす! 英雄ディックの手料理なんて贅沢っす!」

「その英雄ディックってのはやめてくれ……」


 先の作戦で大成功を収めた僕は、魔王領内の人々から英雄と呼ばれるようになっていた。

 街中で声をかけられる事も多くなったし、特に女性たちから言い寄られる機会が増えた気がする。僕は一人の女性にもてていればいいから、ちょっと困ってしまうな。

 僕はただ、ポルカを助けたかっただけだ。そんな大層なことをしたつもりはない、大切な人を助けるために行動したら、結果として評価されただけ。

 男が動く理由なんて、シンプルな物でしかないんだから。

 にしても、人間の僕が魔王軍の英雄か……ちょっと変な感じだな。


「うめーっす! めちゃくちゃうめーっす!」

「こんなのをシラヌイ様は毎日食ってんすか? うらやましーっす!」

「英雄の飯食ったの、かーちゃんへの自慢になるっす! あざーっす!」

「喜んでくれたのはなにより。だけど母さんへは自慢しちゃだめだ、するのなら、君が美味しい物を食べさせてあげるんだよ」


 母さんを大事にしない奴は許さないからな。

 そんなこんなで引っ越し業者を帰し、シラヌイを迎える準備をしていると、気配を感じ取った。

 引っ越し業者を引き連れて、緊張気味のシラヌイがやってきている。彼女の荷物はやっぱり多いな、沢山の本や魔法道具で溢れていた。


「いらっしゃい、待っていたよ」

「あー、うん。遅れてごめん。意外と家に荷物多くてさ、手間取っちゃった」

「僕のはもう全部終わってるから、手伝うよ」

「んじゃよろしく」


 シラヌイの荷物を家に入れていき、室内が彩られていく。というより本の量が凄すぎて、書斎が二つもできてしまった。

 小さな図書館が出来るくらいの魔導書を持っていたんだな。努力家のシラヌイらしい荷物だよ。

 それにしても、シラヌイは随分大人しいな。

 尻尾がピンと立っているから、緊張しているのは分かる。でもポルカと一緒に過ごしていたんだから、心の準備と言うか、そういったのはできていると思ったんだけど。

 ちょっと焦りすぎちゃったかなぁ?


  ◇◇◇


 いやいやいや、マジか、マジで私こいつと暮らす事になったの!?

 昨日からそればっかり考えてぼんやりしっぱなしだし、さっきからこいつが話しかけても内容入ってこないよう! なんつって駄洒落まで飛び出してるしやっばいくらいてんぱってんじゃないのよ私!

 あ、やべ、私ことシラヌイって言うの忘れてた。って何この独白! 自分でも意味不明なんですけどー!

 平静を装うのが精いっぱいで目が回ってくる。お願い、これ以上私に話しかけないで!


「そういえば、メイライトが贈り物を置いてあるって言っていたんだ。寝室にあるらしいんだけど」

「ひゃっ!? あ、ああああそうなの明日くもりなのねへーそうなんだー」

「天気の話はしてないよ?」


 だーっ! このままじゃ同棲中ずっとこいつの独壇場じゃないのよ! 私が上取っとかないと心がもたねーっての!

 ここここはメイライトの贈り物とやらで体勢を立て直すべきよ、そうすべきよ!


「この紙袋ね! とっととあけちゃいましょう! はいオープン!」


 って事でメイライトの贈り物を開けたら、中に入っていたのはなんと!


「てれれてっててー♪ Yes/Noマクラ~~~ってスカかあいつわぁっ!?」


 円盤投げの要領で窓にシュートっ! あいつ明日とっちめてやる!


「うわお、凄いノリツッコミ……」

「あんたもあんなもの後生大事に取っとくんじゃないわよ! どうして同衾前提の代物送るんだメイライトぉ!」

「寝室、一緒がよかったのか?」

「あんたも斜め上の発言すんなっ!」


 いやまぁ同衾以上の事してますけど? だからと言って別にいつでもそうしたいわけじゃなくてですねぇ……。


「ぬがーっ! 座禅、座禅よディック! 今すぐ私を卒塔婆でぶん殴りなさいよぉっ!」

「落ち着いてシラヌイ、座禅でたたくあれは卒塔婆じゃなくて警策っていうんだよ」

「なんでもいい! なんでもいいから私から煩悩をはじき出せぇ!」


  ◇◇◇


「……で、落ち着いた?」

「……なんとかね」


 タイムサワーのお茶でどうにか落ち着きを取り戻し、私はようやくディックの顔を見る事が出来た。

 はぁ……ディックと一緒に暮らすって事で舞い上がりすぎちゃったみたいね。ちょっと反省しないと。

 第一同居なんて最近までやってたじゃないの、ちょーっと意識しすぎて暴走するとか、弱すぎるでしょう私。

 こんなんじゃ先が思いやられるなぁ……。


「焦らなくていいんだよ、確かにポルカが居なくて、直接顔を合わせる機会が多いから、僕としても少し気恥ずかしいけど……それでもシラヌイと一緒に暮らせて嬉しいのは、確かだから」

「ん、んー……そ、そう、なの?」


 こいつも恥ずかしがってんの? 顔に出ないから分からなかったわ……。

 でもそっか、ディックも同じなんだ。主導権握ろうとか考えてた私がばかみたい。

 第一私ら、対等な関係だしね。どっちが上とか、そんなの考える必要なんてないのよ。

 私は私でディックを大事にすればいいし、ディックはディックで私を大事にすればいい。やっと頭が落ち着いたわ。


「それじゃ、改めて。よろしくシラヌイ」

「こっちこそ」


 これでやっと腰が落ち着けそう……と思った時。


『すみませーん! ディック居ますかー?』


 なんかいきなり客が出てきたんだけど。

 ディックが対応すると、数人の女どもが。


「ほ、本物だ! 本物のディック!」

「わたし達、近くに住んでいるんです! その、挨拶に来ました!」

「そうなのか? 僕達から行くべきなのに、なんだか悪いな」

「いいえ! あの英雄ディックに会えるなんて、光栄です!」

「僕はそんな大層な人間じゃ……殺気!?」


 ……忘れてた、こいつそういや、めっちゃモテるんだった。

 こいつぁ、悪い虫を焼き払っといた方がいいかもしれないわねぇ。


「ご、ごめんなさい! そう言えばシラヌイ様の大切なお方でしたよね!?」

「外にあれもあったし、やっぱり深い仲なんですか!?」

「あれ?」

「その……投げ捨てられたYes/Noマクラが道端に……」

「窓が割れる音で気づいて、来てみたんですけど……」

「あ……あぁ……んがあああああああっ!?」


 ってここでも結局私の自滅!? 恥ずかしすぎて爆発し、私はばったりと倒れてしまいましたとさ、まるっ。

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