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53話 ディックの完全勝利!

 僕ことディックがフェイスを倒すなり、塔が消え始める。

 核のポルカが消えた上に、あいつの影響力が無くなったんだろう。存在を保てなくなった塔は、溶けるようになくなっていった。

 僕は急いで二人を抱きかかえ脱出した。すると空間が歪んでゲートが出来る。

 そのゲートをくぐると、クッションが僕達を受け止める。リージョンの空間能力と、メイライトの創造の力で作ったクッションだ。

 ソユーズの光が僕達を照らすなり、魔王四天王の姿が見えてきた。


「全員無事か!?」

「ああ……ポルカも、僕達も無事だ」


 二人を助け上げると、三人が歓声を上げた。

 フェイスを倒し、見事リベンジを果たせた。でもまだだ、あいつはまだ生きている。

 斬った直後、霊体が本体に戻る気配を感じた。フェイスは恐らく、元の場所に戻ったんだ。

 けどこれはチャンスでもある。あいつが受けた傷はすぐには治らない……作戦はまだ、続いている。


「魔王、僕が受けた命令は……確かフェイスの撃破だったな」

『そだよ。見事に果たしてくれたねぇ、ワシ嬉しいよ』

「いや、まだだ。まだあいつの撃破はできていない。フェイスが……負けを認めるほどの大ダメージを与えて初めて、命令を果たしたことになるんじゃないかな」

『ん? あーなるほど、そう言う事ね』


 フェイスの居場所は、魔力の残渣を辿れば見つけられる。一番の脅威であるフェイスの居場所がわかれば、ウィンディア人救助作戦は成功する。


「ドレカー先輩がこんなに早く来てくれたのも、もともと作戦に協力してくれるためだったものね。予定は早いけど、頭数が足りている今なら」

「僕達が必ず勝てる」


 本当は三日後に始めるはずだった作戦だけど、現段階でも成功率は十分高い。となれば。


「まだ僕の四天王の指揮権は残っている、それでいいかな?」

『もちのろん! って事で四天王諸君、引き続きディッ君の指示に従って、作戦を続行してちょーだい!』

『了解!』


 フェイスにとどめを刺す。待っていてくれよ、ポルカ。


  ◇◇◇


 俺ことフェイスは、辛うじて本体に戻っていた。

 女どもも疲弊して、まともに動ける状態じゃない。暫くは使い物にならないだろう。


「……っくしょおおおおっ!」


 勇者の俺が、雑魚のディックに負ける。あってはならない事が起こった。

 あいつは俺に倒されるべき男、引き立て役であるべき男だ。それが俺を倒した? 悪い冗談だぜ。


「エンディミオン……お前は絶対無敵の剣じゃねぇのかよ、何か言えよくそがっ!」


 聖剣に当たっても仕方がねぇ……だが、この怒りはどうすりゃいい? どうすりゃこのムカつきを収められるんだよ!


「あっ……勇者様、通信具が」

「はぁ? なんだよこんな時に……!」


 通信をとると、随分焦った将軍の声が聞こえてきた。


『ゆ、勇者フェイス! 力を貸してくれ! 人間領に……人間領に魔王四天王が出現した! し、しかも引退していたはずの「海賊のドレカー」と……ディックまで居る!』

「なんだと!?」

『各地の主要都市に突然現れて、破壊活動を……! 夜襲で対応しきれない、応援を頼む!』

「どこだ、どこへ行けばいい!?」


 いや、行くにしてもどうやって? 四天王全員が来たなら、四ヶ所? 違う、ディックと余計なバカも加えれば六ヶ所だ、回れるわけねぇだろ! このダメージを受けた状態じゃ、転移の魔法もろくに使えねぇ、行ったとしても戦えねぇ!


「まさかディック……あんのやろぉ!」


 これ以上俺の顔に泥を塗るつもりか、くそったれが!


  ◇◇◇


「……ディックが計画し、進めていたウィンディア人奪還作戦、それはまず、あえて人間達にウィンディア人の価値を教える事から始まった」


 我ことソユーズは、都市を統括する貴族邸宅を攻撃していた。

 ここは王都に近い都市だ。それを統括する貴族の家には、地域から集められたウィンディア人が収容されている。

 我が力、金属を操る力で彼らを救出し、ランデブーポイントへ。そこからリージョンの能力で、ドレカー先輩の海賊船へ送り込む。


「そしたら人間達はウィンディア人を使役しようとするわよねぇ。王都に集めて、魔導具量産計画をするために♪ 渋る貴族や奴隷商には、多額のお金を払ってでも奪うでしょう」


 私ことメイライトも、王都近くの都市を襲撃中☆

 都市全体の時間を止めてぇ、これまたウィンディア人を収容している貴族様のお家へゴー♪ はい、全員救出っと。


「だがいちいち個別で引っ張り出しては効率が悪い、転移魔法を繰り返せば当然目立つ。となればウィンディア人達を陸路で各都市へ集め、段階別にして運搬する方法を取る」


 宇宙一の男ことイン・ドレカーも、ウィンディア人の救出中だ。

 魑魅魍魎達を操り、ウィンディア人達を収めている屋敷を襲う。救い出したらすぐに私の船へ案内してやる。


「そこが大きな隙になる。各地の都市へ集めるという事は、こちらとしては一度に大勢を救出できるチャンスだからな」


 俺ことリージョンも、皆を各地へ送った後、担当の都市を攻撃した。

 空間を操る力で先輩の船に送り込み、全員助け出す。これで俺の担当地区は終わりだな。


「私達が狙っていたのは、ウィンディア人が一番王都に近づく明後日。クズ勇者が一番離れているであろう、王都近くの大都市二つに集まった頃に総力戦を仕掛けるつもりだったの」


 私ことシラヌイもウィンディア人を助け終わっていた。

 都市を炎で燃やし、混乱の最中にウィンディア人を安全な場所へ誘導した。逃げ損ねた人はいないようね。

 ドレカー先輩の船を使えば、バルドフの場所も特定されない。運搬の中継地点としては最適ね。


「現時点だと、六ヶ所の都市に収容されている情報を掴んでいた。フェイスがどこにいるか分からないから手を出さなかったけど、場所が判明した今、奇襲する絶好のチャンスだ」


 そして僕ことディックが、最後のウィンディア人達を助け終わる。

 貴族の邸宅はまぁ、僕の斬撃で酷いの一言に尽きる有様だ。街も両断された家屋が沢山、無駄な抵抗をするから手加減できなかったよ。

 リスクは高かったけど、時間をかけられない僕達にはこれが最善の策だった。人間達にターゲットを集めて貰って、一網打尽にする。協力感謝するよ、元仲間たち。

 ともあれ、リージョンの力を借りてウィンディア人は全員救助完了だ。あと残っているのは……。


「フェイスの所に居る、ポルカの両親だな」


  ◇◇◇


『ま、またウィンディア人が奪われた……た、頼む勇者よ! 急がねば魔導具量産計画が……う、ああああっ!』

「……無理だっつーの、ド阿呆が」


 ディックの奴に、完全にしてやられた。あの野郎、俺に隠れてこんな大規模な作戦を計画してやがったのか。

 ……認めるしかねぇ、完敗だ。俺が潰した下等生物達が息を吹き返した、それもディックの手でだ。


「ゆ、勇者様、指示を!」

「貴方の力ならディックなんて簡単に!」

「……だったら喚くな」


 女どもを睨み、黙らせる。ピーチクパーチクうるせぇんだよ、それに奴らはこっちに来てんだ、わざわざ行く必要はねぇ。

 見上げりゃあ、ドレカーとか言う奴の海賊船がこっちに来ているのが見える。でもって船首にゃあ……。

 俺を悠然と見下ろす、ディックの姿があった。


  ◇◇◇


 僕とシラヌイは、リージョンの力でフェイスの居る場所へ降りた。

 そこには確かに、二人のウィンディア人が居た。ポルカの両親、たすけるべき最後のウィンディア人だ。


「二人を渡せ、フェイス」

「抵抗するなら容赦しないわよ」

「……いいぜ、持って行けよ」


 てっきり抵抗するのかと思ったら、フェイスは素直に二人の身柄を渡してきた。

 十字架ごと僕らに放り投げ、慌てて受け止める。なんて乱暴な引き渡し方だ。


「勇者様、どうして!?」

「俺はこいつらに負けた、それは変わらない事実だ。だってのにこれ以上暴れるのは筋が通らねぇ、野暮だよ」

「だけど!」

「……俺の男としての格を下げるな」


 フェイスが一喝すると、仲間たちが押し黙った。

 あいつはプライドの塊で、自尊心を傷つけられるのが何よりも嫌いな奴だ。

 だからこれ以上、自分の顔に泥を塗るような真似は我慢ならないんだろう。


「今回は引き下がってやる。俺の気が変わらないうちに消えろ、ディック」

「……フェイス。お前はどうしてそこまで、愛情や心を否定する」

「てめぇには関係ない」

「子供の頃が原因か?」


 フェイスの肩が揺れた。やはり、ドレカーの推察は合っていたのか。


「魔導具には適合条件がある。聖剣エンディミオンの適合条件は、「虚無」だ。自分自身に満たされない思いがあればあるほど、聖剣の力の源である欲望が大きくなる。だからエンディミオンは、自分に適した人物を勇者として育てる。違うか?」

「……だから?」

「お前、誰からも愛されたことがないんだろう」


 子供の頃から愛されずに育てられた人は、空虚な心の人間になる。多分フェイスは、エンディミオンによって愛情を受けられない環境で育てられた、空っぽの勇者なんだ。


「……同情でもしてんのか? ふざけんじゃねぇや」

「同情はしていない、僕はお前が大嫌いだからな。ただ確認したかっただけなんだよ、倒すべき相手が、どんな思いを抱いているのかを」


 これからするのは、僕からの宣戦布告だ。


「僕は、お前が否定する愛情や心の力を信じている。母さんが僕を愛し、シラヌイが僕を受け入れてくれたから、僕はお前に立ち向かう力を得たんだ。だから宣言してやる、お前が否定する力で、必ずお前を倒す! それが僕の決意だ」

「……随分いきがってくれるじゃねぇか」


 突然、フェイスから白いオーラが立ち上った。

 すると奴の姿が一瞬だけど変わった。硬質な皮膚を持つ、怪物の姿に変わったんだ。


「こいつは負け惜しみだ。俺とエンディミオンにはまだ、もう一段上がある。お前が愛やら心やらに満たされているみたいに、俺の中には純粋な力が満たされているのさ。幽体状態じゃ使えなかったが……俺には切り札が残っているんだよ」

「…………」

「俺を倒す? はっ、せいぜい息巻いてろ。だが俺はまだ、お前のずっと先に居る。それを忘れんじゃねぇ。てめぇがそう宣言するなら、いいぜ。俺も力こそが本当の強さだと思い知らせてやる。てめぇが言う愛だの心だのがどれだけくだらない物なのか、お前を殺して証明してやる! それが俺の、決意としておこうか」


 フェイスは仲間たちを引き連れ、闇へと消えていく。姿が見えなくなったのを見届け、僕らはポルカの両親を解放した。

 ケイの方は酷いケガだ、腹に剣を突き立てられたんだろう。二人とも翼をもがれて、重症だ。でもメイライトの時戻しがある。健康な状態にすぐ戻してくれるはずだ。

 ……僕のずっと先にいる、か。確かに、フェイスはこの程度で終わる奴じゃない。


 だからと言って僕のやる事は変わらない。シラヌイと共に戦い続ける、フェイスを倒す時までね。

 ともあれ、今日は喜んでいいだろう。


 何しろずっと望んでいた、フェイスに対する完全勝利を果たしたのだから。

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