49話 いざ行け、後ろを振り向くな。
「ここ……どこ……?」
ポルカ、どこにいるのかわからないの。
お兄ちゃんとお姉ちゃんにだっこしてもらってたら、きゅうにまっくらになっちゃって、ひとりぼっちになっちゃった……。
こわいな……さみしいな……お父さん、お母さん、どこにいるの? ポルカを、助けて。
『ポルカ!』
「! お父さん?」
『ここよ、ここよポルカ!』
「お母さん!? どこ、どこにいるの!?」
だいすきなお父さんとお母さんの声がする。そしたら、お空からポルカのところに来てくれた。
お父さんに、お母さん! ポルカのいちばんだいじな人たちだ!
「お父さん、お母さん!」
『どうして俺達を見捨てたんだ?』
きゅうに、お父さんがポルカをぶってきた。
とってもいたい。そしたらお母さんも、ポルカを蹴ってきちゃった。
『あなたのせいで私達はとても苦しい思いをしているのよ。あなたが勝手に逃げたせいで、私達がどれだけ痛い想いをしたと思ってるの?』
『なのにお前は一人で随分と楽しい想いをして……俺達が苦しんでいる間にぬけぬけと過ごしやがって!』
『恥を知りなさい!』
「お母さん? ……お父、さん?」
どうしてそんなひどいことをするの? ポルカ、いけないことしちゃったの?
『お前さえ、お前さえ居なければ!』
『貴方なんか生まれてこなければよかったのに!』
どうして? どうしてそんなことをいうの? ポルカがいたら、めいわくなの?
いや、いや! ちがうよ、お父さんとお母さんはそんなこと言わない……ぜったい、いわないもん……!
『死ね! 死んでしまえ!』
『あなたなんか、さっさと消えちゃえばいいのよ!』
「やだ……いやだ……やめて! お父さん、お母さん!」
ポルカ、いないほうがよかったの……うまれてこなければよかったの?
……やぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
◇◇◇
順調に心が壊れていっているな。
俺ことフェイスは、ゲートをくぐりながらクソガキの様子を見ていた。
自分が大事にしている奴から存在を否定されるのはどうだ? これほど心が壊れる衝撃はないだろう。
クソガキが絶望に染まれば染まるほど、ゲートは大きく、俺の力も強くなる。虚無こそエンディミオンの力だからな。
さてと、もうじき到着か。魔王軍に新しいお土産でもくれてやるか。
◇◇◇
「ソユーズ、足場を作ってくれ!」
「……舞い踊れ、我が僕達っ……!」
ソユーズの力で金属の塊が作られ、宙に浮かんだ。
僕ことディックは、四天王達を引き連れて金属の上を走り、ポルカの下へ向かっていた。
眼下では魔王軍兵士達が避難誘導を行っている。まだ逃げ遅れた市民が大勢いる、彼らの邪魔をしないよう、空路を選んだんだ。
「四天王様達、それに、ディックか!」
「頑張ってください! 魔王様の念話で事情は分かっています!」
「どうか勇者フェイスを……絶対に倒してください!」
兵士達から後押しを受け、僕達は走り続ける。彼らの想いを受けた以上、負けられない。
「すまんディック、あの塔付近の次元が歪んでいてな、俺の力でねじ込むと亜空間に飲み込まれる危険があるんだ」
「それなら仕方ないさ、リージョンは頼りになる、僕の背中を守ってくれ」
ポルカの悲鳴が聞こえた気がした。同時に塔から無数の兵士達が飛び出してくる。
ちっ、邪魔だ!
「迎撃準備! 僕に続いてくれ!」
先陣を切って、兵士達を切り刻む。シラヌイが炎で焼き払い、リージョンがゲートで体を引きちぎり、メイライトが時止めで行動を封じ込め、ソユーズが光線で粉砕する。次々に襲ってくる敵を、四天王の力を借りて跳ね除けた。
それに魔王のバックアップもある。兵たちを押さえつけ、僕達にかかる負担を抑えてくれていた。
「ディックちゃん、上、上!」
「えっ、なんだあれは」
塔から新しいタイプの敵が現れた。一言でいえば、空飛ぶ船だろうか。まるで軍艦のように巨大な船が、塔から次々に出現していた。
その船から砲撃が降ってくる。リージョンとメイライトが迎撃しているけど、濃密な弾幕でどうしても足が止まってしまう。
「シラヌイ、ソユーズ! 船を壊すよ!」
飛ぶ斬撃で船を打ち落とし、シラヌイとソユーズがそれぞれ炎と光線で粉砕する。だけど船もまた、無限に現れていた。
くそ、倒せない相手ではないけど、いちいち相手にしていたらきりがない!
『お困りのようだな、青年!』
突然、自信満々な声が聞こえた。
この大胆不敵な声、聞いた事がある。まさか、まさかあいつが!?
『魔王様から援軍要請を受けたのでな、予定を繰り上げて出港させてもらったぞ!』
振り返ると、魔王城の後方から、空飛ぶ戦艦が現れていた。
ドクロマークを船首に着け、スターアニスを描いた帆を掲げる海賊船だ。青い炎を船底に燃やしてやってきた海賊船から、聞き覚えのある高笑いが聞こえてくる。
『宇宙一の大海賊、イン・ドレカー! 友の危機にただいま参上!』
「やっぱり……ドレカーだ!」
最高の援軍が来てくれた! サプライズ好きすぎるだろあいつ!
『君にはダイダラボッチを倒してもらった恩がある、それを返さぬは男として筋が通らない。だろうクミン』
『……その通りです、旦那様』
『というわけだ青年、シラヌイ! 君達は突き進め、大切な人が囚われているのだろう? 必ず助けてみせろ! それこそが宇宙一の男と女の条件なのだから!』
「ああ、わかった!」
「助かります、ドレカー先輩!」
『空の敵は私に任せろ! この海賊船、ハバネロに勝てる船などない! ガラン! 船のコントロールを私に渡せ! 今夜だけは四天王、「海賊のドレカー」として復帰させてもらおうではないか!』
『あいあいさー!』
『いつもの熱いメドレー、頼むんだなキャプテン!』
『はっはっは! 任せろ!』
海賊船ハバネロの炎が激しくなった。船全体が燃えて、船首に強固なシールドが展開される。
『Lets, party time! 激しいロックを奏でてやろう、俺のシャウトに聞き惚れろぉ!』
『Yahooooooooo!!!!』
ドレカーが歌い始めた直後、ハバネロが特攻を始めた。
音速で突進し、船に体当たりをかます。シールドを槍にして、巨大な船を真っ二つに粉砕してしまった。
って砲撃戦じゃないのかよ!? 体当たりで船壊す船長って初めて見たぞ。
「ドレカー先輩お得意の特攻ね、撃ち合いをするより弾が節約できる最高の戦法、だそうよ」
「ただの無謀な突撃だろあれ。けど倒してくれるならどうでもいいか!」
つっこんだら負けだ、上は任せて僕達は前に行こう!
ドレカーのハートフルな歌をバックに、塔まで到着する。そしたらハヌマーンが光り出し、僕の手足に装着された。
『止まれ、主達』
「どうした?」
『……これより先には、どうやら主とシラヌイしか向かえぬようだ』
「なんだって?」
『エンディミオンの力が強く働いている。我の加護を受けられる者でなければ、負荷に耐え切れず消滅する危険がある』
「そうか……皆」
「分かっている。というより、お前達二人が行くのがふさわしいだろう」
「……ポルカはディックとシラヌイを求めている。我々はここでバックアップしよう」
「退路の確保は任せて頂戴! さ、早く行ってあげて!」
これだけ心強いバックアップはないな。僕はシラヌイと手を握り合い、塔へ向いた。
「フェイス……ポルカを泣かせた罪は、万死に値するわ!」
「その鼻持ちならない顔面に、重い一撃をくれてやる!」
『行こう!』
僕とシラヌイは、ポルカの待つ塔へと飛び込んだ。




