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47話 星夜祭。そして……フェイスが動き出す。

 僕ことディックは仕事を終えた後、急いでバルドフ中央の広場へ向かっていた。

 今日はポルカに見せたい物があるんだ、早く集合場所へ行かないと。


「参ったな、ちょっと残業しちゃったよ」


 大した用じゃないけど、細々した用事が重なってしまった。

 遅ればせながら到着すると、少し怒った様子のシラヌイとポルカが、腰に手を当てた同じポーズで待っていた。


「遅い!」

「遅いよ!」

「ごめんごめん、中々片付かなくって。でも間に合ったからいいでしょ」


 そう言って、広場を見渡す。そこにはたくさんの屋台が並び、柔らかな光を放つランタンが浮かんで、優しくライトアップされていた。

 今日は星夜祭の日だ。魔王領ではこの日になると、なぜか雲も風も一切出ない新月の夜になるそうだ。

 それもあって、一年で一番星が綺麗に見える日になる。そこで魔王が、「どうせ綺麗な星空なら国民みんなで楽しもう!」と言い出し、ささやかな祭りを開くことになったそうだ。


「遅刻の埋め合わせはきっちりして貰うんだから。ほらポルカ、今日は全部ディックのおごりよ、好きなだけ楽しみましょう!」

「わーい!」

「ははっ、仰せのままに、二人とも」


 シラヌイが我儘を言ってくれる事も少ないし、今日は振り回されるとしようか。

 屋台の綿あめやフランクフルトを楽しみ、金魚すくいや射的で競ったり、つかの間の楽しい時間を過ごす。ポルカはとても喜んで、ずっと笑顔が続いていた。


 ……両親と離れ離れになって、苦しいはずなのに、気丈な子だ。


 ポルカは笑顔こそ見せるけど、眠っていると必ず両親を呼んでいる。大好きな人と無理やり引きはがされて、辛くないはずがない。

 少しでも、彼女の心が癒されてくれればいいのだけどな。

 そう思っているときだった。


「あら? あらあらあらぁ? 誰かと思えばぁ」

「……お前達も来ていたのか」

「奇遇だな、ここでまさか集結するとは」


 魔王四天王とばったり出会った。いつもと違うのは、メイライトが家族を連れてきているところか。

 随分とちゃらそうな、顔立ちのいい男四人を引き連れている。シラヌイよりもサキュバスっぽいな。


「今日は旦那たちと一緒に来てるのぉ、ほら、ご挨拶して」

「どーもぉ初めまして、紅の稲妻、フリーダムギンでぇす!」

「同じくどーもぉ! お前達が俺の翼、ウィンダムソナタでぇす!」

「正義は対話の中にあり! セツナ・タクトでぇす!」

「ぶるあぁぁぁぁっ! バルバセルでぃす」

『夜露死苦!』


 ……うん、メイライトを好きになる奴らだからまともじゃないのは分かっていたよ。後半雑だな。


「……す、すごーい、ぱちぱちぱちー……」

「ポルカ、無理に反応しなくていい」

「ポルカの教育に悪いからその害虫をどけなさい」

「あらー、辛辣ぅ☆」

『てへ★』


 てへぺろされてもな……ポルカ、見るんじゃありません。


「しかしお前ら、そうしていると本当の家族みたいだな」

「あ、やっぱそう思う? そう思っちゃうかぁー困ったなぁーこりゃー」

「……シラヌイが壊れているが? 我は見た事ないぞ、このデレデレシラヌイ」

「最近ポルカに骨抜きにされちゃっててね、すっかりツンケンしたところがなくなったんだ」


 丸ほっぺを浮かべてデレるシラヌイは、惚れた弱みなのか、とても可愛く見えた。


「俺の発言に炎を出さないし……お前本当にシラヌイか?」

「なぁに言ってんのよ私は私よリージョォン!」

「ぼがっ!」


 照れ隠しにシラヌイが背中を叩いたら、リージョンがひっくり返って地面に頭が突き刺さる。このパワーアップを見て、メイライトとソユーズが僕に目を向けた。


「……昨日、ヤったな?」

「いやまぁ、ちょっとね……」

「あらーお盛んねぇ♡」


 サキュバスは愛されれば愛されるほど力を増す悪魔だ。これだけ言えば大体わかってくれるだろう。


「……なんにせよ、どうだポルカ。二人と生活していて、嫌な事はないか?」

「うん無いよ。お兄ちゃんもお姉ちゃんも優しくて、お父さんとお母さんみたいで、ほっとするの。ポルカね、ポルカね。お兄ちゃんに助けられて、お姉ちゃんに会えて、よかったってすごく思っているの」

「あらまぁ……ディックちゃんはともかく、シラヌイちゃんがここまで子供好きになるなんて、思わなかったわぁ」

「目覚めさせられたの、ポルカが可愛すぎるから」


 シラヌイがポルカを抱き上げるなり、ランタンが消え始める。いよいよ祭りのメインイベントが始まるみたいだ。

 バルドフから光が無くなって、満天の星空が広がった。

 見た事がないほど、綺麗な星空だ。思わず息をのみ、見入ってしまう。

 宝石箱をひっくり返したみたいに、沢山の星がちりばめられている。空の丸い輪郭を見ていると、まるで異空間に迷い込んだみたいだった。

 誰もが言葉を失い、星空に夢中になる。するとポルカが、ぐすりと鼻をこすった。


「……ポルカね、お父さんとお母さんに会いたい……一緒にこの空、見たいの……助けて、くれるんだよね?」

「勿論さ、僕達は必ず約束を守る」

「ポルカの大切な人たちは、必ず取り戻す。安心して待っていなさい」

「……うん」


 僕らは小指を結んで、約束を交わした。

 三日後、いよいよ作戦開始だ。


  ◇◇◇


 俺ことフェイスは、街から少し離れた森にやってきていた。

 街の中で儀式をやったら、流石に目立ちすぎるしな。外野の小うるさい騒ぎは嫌いなのさ。

 でもって俺の足元には、ズタボロになったくそ女がいる。先週捕まえた有翼人種の女で、名をアスラ・クリードとか言う奴だ。

 翼を切り落とし、抵抗できないようにしたうえで、半殺し程度にかわいがっている。中々いい声で鳴いてくれるから、いいサンドバッグだよ。


 最初はこいつを殺そうと思ったんだが、クソガキがどこへ転送されたのかに気付いて、ちょっと考えを改めた。

 エンディミオンで魔力を辿って見りゃあ、恐らく魔王軍の本拠地、バルドフへ転送されたらしい。ここからだと遠すぎて俺の手には届かないが、こいつを利用すれば面白い事が出来るぞ。


「うぅ……ポ、ルカ……!」

「安心しろよ、もうじき会わせてやる」


 くそ女の頭を踏みつけて黙らせてやる。ついでに少しだけ希望を見せてやるか。


「勇者様! 例の捕虜を連れてきました」


 女達が、俺の頼んでいた奴を連れてきた。

 そいつは村を襲った時、随分と俺に歯向かってきた不届き者の男だ。


「……アスラ……? アスラっ!」

「! ケイ……ケイなの!?」


 ゴミどもが騒ぎ出す。連れてきたのはケイ・クリード、有翼人種の村長をやっていたとか言う、少し童顔のかかった男だ。

 でもって、このアスラとは夫婦の間柄らしい。


「こら、大人しくしろ!」

「勇者様の御前ですよ、失敬な!」

「がはっ!?」


 女剣士と女魔法使いがケイを地面に組み伏せる。ケイは怒りを帯びた目で俺を見上げた。


「お前……アスラを返せっ……ポルカを返せっ! くそ、放せお前ら!」

「ぐだぐだうるさいですよ!」


 女僧侶がケイを杖で殴りつけた。そう、それでいい。俺に歯向かう奴は全員黙らせておけ。


「ありがとう皆、おかげで魔王軍への攻撃準備が整ったよ」

「ここから、魔王軍に攻勢をかけるのですか?」

「流石です、やっぱりかっこいいです勇者様!」

「これで世界に平和が訪れるのですね……素晴らしいですわ!」

「じゃあ、準備を手伝ってくれるかい?」

『はい!』


 女達は俺に賛同し、準備を進めていく。

 二人を十字架に磔にし、魔法陣を描く。こいつらは随分と娘にご執心のようだからな、おかげでスムーズにできそうだ。


「エンディミオンに操られているだけの、傀儡野郎が……っ! 力だけで、中身のないお前に……屈してたまるか……っ!」

「……だからさ、俺はエンディミオンの主だ。この剣は俺が使ってこそ価値がある、そうだろ?」

「その通りです!」

「魔王軍の先兵の癖に、生意気な口をきくな!」

「勇者様に謝りなさい、この下等生物!」


 女どもから罵声を浴びせられたケイは、俺につばを吐きつけた。顔について、かちんときたね。

 翼をもぎ取って、腹にエンディミオンを突き刺してやる。だが面白く無い事に、こいつは悲鳴を上げなかった。歯を食いしばって我慢しやがって。


「やれやれ、汚い羽がかかったな」


 エンディミオンにくっついた羽を払い落とし、肩をすくめた。全く、ばっちぃ羽をくっつけやがって。

 さてと、余興はこれくらいにして、始めるか。

 こいつらの愛情とやらを利用した、こいつらの全てを……愛情とか言うくそったれたクズを否定するための、残酷な殺戮ショーをな。

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