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45話 ポルカの正体

「はぁいディックちゃん、頼まれていた資料よぉ」

「ありがとう、助かるよメイライト」


 僕ことディックはメイライトのオフィスで、人間達の動きが記された資料を貰っていた。

 魔王軍は人間領に多数のスパイを放っていて、逐一情報を仕入れている。主にメイライトの管轄だ。

 僕は彼女に頼み、有翼人種の奴隷が目撃されていないかを調べてもらっていた。

 ポルカの記憶をたどった所、村人は五十人と言ったところだ。彼女の種族は他の有翼人種にない特徴として、首に黒い帯状の模様が浮かんでいる。


「……今の所、目撃情報は十三か。やっぱり目立つ種族なだけあって、リークが早いな」

「私の諜報部隊は優秀だものぉ、それで具体的にどうするの?」

「奴隷たちを救う方法だろ、考え自体はあるんだけど、それには捕まった人達の正確な位置情報が必要なんだ」


 まずは全員分の位置情報を掴まない事には話が始まらないからな。

 一人一人を各個救助していく方法は効率が悪い上、相手に警戒されて失敗する確率が高まる。短期間で、一度に救助する必要があるんだ。

 僕一人では当然できない。残念だけど僕にはフェイスのような圧倒的な力はない。

 だからこそ僕は、色んな人の力を借りるんだ。


「……うん、すぐに動いたほうがよさそうだな」

「張り切っているわねぇ、なんだかお父さんみたい♪」

「実際今、父親みたいなものだしね」


 ポルカを迎え入れてから、シラヌイとの子供が出来たみたいで、僕はちょっと張り切っていた。前にシラヌイが、僕は誰かを守っているくらいがいい、って言っていたな。

 母さんに沢山愛されてきたからだろうな、二人の事を大事にしたいと思うと、力と元気がわいてくるんだ。


「魔王軍に入ってから、大事な物が増えすぎたな」

「いいことじゃない。宝物は沢山あったほうがいいわよぉ」


 メイライトの言う通り。改めて思うけど、魔王軍に入ってよかった。


「……失礼する、ディック、いるか?」

「ソユーズ? ああ、確かにいるけど」


 ノックの後、ソユーズが入ってくる。珍しいな、メイライトのオフィスに入ってくるなんて。


「……メイライト、お前にも伝えておきたい事があった。先程、魔王様とリージョンにも伝えてきたところでな。シラヌイにはディックから伝えてくれ」

「あら? 私にも伝えなきゃいけないほど大事な事?」

「……ポルカの種族についてだ」

「ポルカの種族?」


 ポルカに別段変な所はないはずだけど……なんだろう。


「……彼女の血液を調べた所、既存の有翼人種とはどれにも当てはまらなかった。そこで図書を調べてみたのだが、驚くべき事がわかった」

「勿体つけるなよ、なんだ?」

「……ポルカの種族は、ウィンディア人。かつて、エンディミオンやハヌマーンと言った魔導具を造り、世に広めた種族の末裔だ」

「なんだって?」


 僕とメイライトは驚いた。僕のハヌマーンを、ポルカの種族が作ったって言うのか?


「……首に黒い模様があっただろう? あれはヨウ素が固着した物でな、魔導具を製作する際に出る放射線とやらから身を守る過程で、体が変化したそうだ」

「なんでそんな種族が人間領にいたんだ?」

「……魔導具を作るほどの種族だ、技術や知識を狙った輩は当然現れる。そうした連中から逃げて各地を転々としている間に、いつしか人間領へ迷い込んだのだろう」

「あらあらまぁまぁ、それじゃ、人間領に隠れ村を作っていたのねぇ。そしたらたまたま、勇者が見つけて荒らしたと」


 ……なんて不幸だ。フェイスに見つかったなんて、最悪じゃないか。


「……もしウィンディア人を救出できれば、エンディミオンの対策は勿論、お前のハヌマーンを強化する事も出来るだろう。魔王様もウィンディア人救助を優先事項とされてな、現在対策本部が作られているところだ」

「逆に、もし人間側がウィンディアの事を知ったら……」

「……まず間違いなく、魔導具量産のために酷使させられるだろうな」


 猶予はあまりなさそうだな。

 魔導具の事なんかどうでもいい、そんな下らない理由で、罪のない人たちが虐げられる事が、僕は許せない。

 特にフェイスが関わったとなればなおさらだ。


「必ず助け出そう、ウィンディア人達を。理不尽な暴力がのさばる世界なんて、認めるわけにはいかない。じゃないと、シラヌイが悲しむからね」

「あら♡ シラヌイちゃんのためなんて熱いわねぇ♪」

「男が動く理由なんて、シンプルなくらいが丁度いいらしいよ」


 ポルカが泣けばシラヌイも悲しむ。そんなの、我慢ならないからね。


  ◇◇◇


 シラヌイの下へ戻り、ポルカの事を話すと、彼女は沈痛な面持ちになった。


「……短期間でやるべき事が多すぎるわね。ウィンディア人の保護、ポルカの心の治療、そして多分、フェイスとまた戦う事になるでしょうから、その対策もしなきゃならない」

「人間達が、ウィンディア人の価値に気付く前にね。特にフェイスが気づいたら、エンディミオンを強化しようと動く危険もある」


 今後は魔王と連動して、ウィンディア人保護に向けて動くとしよう。大体、作戦内容や根回しの仕方も思い浮かんできたところだ。


「お兄ちゃん、ポルカがどうかしたの?」

「いや、なんでもないよ。気にする事はない」


 この子には不安を与えないようにしないとな。シラヌイと一緒に、しっかり保護してあげなくちゃ。

 なんともなしに、ポルカの羽に触れる。するとベルトのバックルが光り出した。


『……この力の波動、我が創造主の血族か』

「ハヌマーン?」


 勝手に僕の手足に装備され、話しかけてくる。この魔導具は普段大人しいのに。


『我が主よ。創造主の羽を我に捧げてみよ』

「ポルカの羽を? いいかな、一枚」

「うん、どうぞ」


 ポルカから貰った羽をハヌマーンにあててみると、吸い込まれていく。同時にハヌマーンの光も増えて、放出される粒子も倍近くになった。


『おおお! この力の奔流、まさしく創造主の物。力が漲る……!』

「この羽、魔導具のパワーアップアイテムなのか?」

『否、一時的な強化にすぎぬ。だが主よ、試しに我を振るってみよ』


 言われてみて、軽くパンチを出してみる。そしたら風圧が吹きすさび、窓がひび割れた。


「これは……! 魔導具以外には、なんの役にも立たないはずじゃ……」

『創造主の力を受ければ、ほんの数分だけこうなる。覚えておけば、いずれ役に立つだろう』


 言うなり、ハヌマーンは消えてしまった。勝手な奴だな、全く……。


「けど、良い反面まずい情報を得た気がする……」

「ええ……フェイスがこれを知ったら……!」


 ……焦りが募る、でも我慢だ。

 ここで焦っても、どうする事も出来ない。今はしっかりと、作戦の基礎固めに集中するんだ。

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