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40話 フェイス、再び。

 俺ことフェイスは、狩りをしていた。

 今いるのは人間領にある山岳地帯。そこに隠れるように村落が存在していた。

 翼の生えた、人間のような生き物。有翼人種ってやつだ。本来なら魔王領にいる連中だが、時折こうしたはぐれ者が人間領に迷い込む事がある。

 その中でもこいつらは変わった連中だ。村の周囲に強固な結界を張っていて、外敵を徹底してシャットアウトしていたんだ。


 術式も妙に古めかしかったし、ちょっと不思議な連中だったな。ま、エンディミオンにかかれば紙細工みたいな結界だったがね。

 俺にとっては相当都合のいい連中だ。ちょっとした小遣い稼ぎになるからな。


「皆、翼の兵士は殺すな! あいつらは殺したら魔王城で復活する術式が施されている、生け捕りにして、人間軍に突き出すんだ!」

『了解、勇者様!』


 下僕の女どもが、有翼人種どもを次々に捕えていく。やっぱりこいつらは有能だ、俺の命令に忠実に従ってくれる。おかげで労せず遊ぶ金が稼げるってもんだ。

 有翼人種は奴隷として高く売れる。村民は大体五十人、全員捕まえて人売りに出せば、相当額の金が手に入る。

 そうとも知らずに、女達は俺のためにガンガン戦う。俺に褒められたくて必死にな。

 勇者の名前があればこの程度の女達、操る程度簡単さ。


「勇者様! 敵兵全員捕縛しました!」

「私が一番頑張りましたよ、ほら見てくださいこの山を!」

「違うでしょ、私の方が強い兵士を倒したのだから私が一番よ!」


 女どもがこぞって成果を見せつけてくる。やれやれ、その程度の戦果でいきがるなよ。


「うん、皆ありがとう。これでまた世界の平和に一歩近づいたね、君達のような美女達に守られて、俺は世界一の幸せ者だよ」


 適当にこう言っておけば、馬鹿な女達はすぐにのぼせ上ってくれる。女ほど扱いやすい生き物なんてこの世にいないな。

 ま、同時にちょっと無能でもあるんだが。

 ……一人、いや二人か? 村から離れる気配がある。ディックからコピーした気配察知、便利なもんだ。半径一キロ内なら地べたを走るゴキブリすら見つける事が出来るよ。

 俺は欲張りなんでね、獲物は一匹たりとも逃がしたくないのさ。


  ◇◇◇


 女どもに適当に理由をつけ、逃げた獲物を追いかける。多分女だな、それも子持ち。有翼人種のメスガキは高く売れるんだ、逃がしたくはないねぇ。

 少し走るだけで、はい見つけた。大事そうにガキを抱えた女が、低空飛行で逃げていた。

 ただ捕まえるだけじゃつまらないな、少しだけ遊んでやろう。


 俺の懐にはナイフが四本ある。一本ずつ手足を狙って投げてやるから、しっかりよけろよ。

 はいまず一本。右足に直撃、だけど頑張って逃げてる。二本目はどうだ? はい左腕に刺さったー、だけど歯を食いしばって子供を守ってる。三本目ー、左足っ。へぇ、頑張るね。じゃあ最後、四本目。


「あうっ!」


 右腕に刺さった所で、女は墜落した。ま、そこそこ頑張ったほうじゃないか? さぁて、チェックメイトと行こうか。

 エンディミオンを担いで近づくと、女達の正体がわかった。

 一人は中年、もう一人は十歳そこそこ。母娘の親子だ。ばばぁは長い茶髪で、ガキはローブに包んで顔が見えねぇ。

 よくもまぁ俺の目をかいくぐって逃げたもんだよ、その面倒くささに免じて、命だけは助けてやるよ。

 ま、一生奴隷として過ごしてもらうけどな♪


「エンディミオンの僕……よ、よくも……!」

「僕? 違うだろ、こいつが俺の僕なのさ。俺は勇者だ、俺の前には聖剣も、世界も、何もかもがひれ伏す。お前みたいな小汚い種族も、魔王すらもだ。わかるか? 分からねぇよなぁ下等生物ごときにさぁ! あははははっ!」


 弱い奴を弄ぶのはやはり面白い。自分の強さを確信できるから。


「くっ……転送!」

「ん?」


 おっと、俺としたことが不覚を取った。

 母親の魔法で子供はどっかに転送された。ちっ、女のガキはより金になるってのに。


「お願い、生きて……どうか、元気で……!」

「……母親の愛って奴? やだなぁ、そう言うの俺、嫌いなんだよな」


 愛情なんてくだらねぇもんを、俺の前で見せつけてんじゃねぇよ。

 この世で最もくだらない物だよそれは。世の中は力こそ全てだ、力ある奴が全部を手に入れる事が出来る。ディックみたいに愛情なんてくだらない物にすがってる奴はなぁ、俺みたいな強い奴に食われなくちゃならねぇんだよ。


「……むかつく、なぁ」


 ……愛情ってのは、俺の一番嫌いな言葉だ。そいつをわざわざ見せつけるって事は、死にたいんだな。痛い目をたくさん見てから死にたいんだな。

 気が変わった、こいつを殺す。考えうる限りむごたらしい方法で殺してやる。


「ほら来い、俺の気を害した罰を与えてやる」

「……エンディミオンの下僕……! 私はお前なんかに、屈したりは……!」

「だからぁ! 俺ぁ下僕じゃねぇんだよ!」


 せいぜいたっぷり泣いてくれよ、クソババァ!


  ◇◇◇


 僕ことディックは、哨戒任務に出ていた。

 哨戒担当の兵士が急に病欠したとのことで、僕がヘルプで回る事になったんだ。

 数人の兵を連れてバルドフ近郊を馬で駆け回る。今の所おかしなところはないけど、なんだろう、妙な胸騒ぎがする。


「どうしたのディック? 浮かない顔してるけど」

「いや、なんでもないよ」


 同行してくれた人狼の兵士に手を振る。僕の悪い予感は大抵当たるんだ、変に口に出しちゃいけないな。

 刀に手を触れ、周囲を探る。僕の気配探知なら、半径五百メートル以内であれば察知できる。この近くに危機が訪れるって事は、シラヌイも危険にさらす事になる。それだけは断じて防がないと。

 いくら魔導具を得て強くなったと言っても、フェイスのような劇的な強化じゃないんだ。

 ……ハヌマーンは魔導具相手じゃないと無意味な武器だしな。ピーキーすぎて使いづらい武器だよ全く……。

 そう思った時、気配察知に反応があった。でもおかしいぞ、位置が妙に高い。


「あれ、ねぇディック! 空から女の子が落ちてきてるよ」

「えっ?」


 人狼が指さす先を見ると、確かに。翼をもった女の子が落ちてきている。彼女だ、間違いない。

 急いで落下地点に向かい、ジャンプして回収する。女の子は気を失っているのか、険しい顔で目を閉じていた。


「なんだ、この子?」


 ショートに切りそろえた金髪と、首に黒い帯が浮かんでいる少女だ。顔には血がついていて、何者かの襲撃に遭った形跡がある。


「君、大丈夫か?」

「ん……や……おか……ぁ……さん……」

「……母さん?」


 この子のつぶやきを聞いた時、僕の胸が締め付けられた。

 ……まさかこの子、誰かに母さんを……?


「嫌な予感がこんな当たり方をするなんてな……」


 この子は放っておけない、急いで連れ帰らないと。

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