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178話 ディックとフェイス

 ハヌマーンの力により、エンディミオンの不死の力を貫通し、奴の体がバラバラになる。

 断末魔と共に肉体が消えさり、聖剣が乾いた音を立てて落ちた。瞬間、歓声が上がり、城内が沸き立った。

 全てが終わった。エンディミオンは死に絶え、戦争の元凶が消滅した。もう人間達と魔王軍が戦う理由は、無くなったんだ。


「ディック……お疲れ様」

「うん、やっと、やっと何もかもが、収まったよ。フェイス、これで君も解放されただろう」

「…………」


 フェイスの様子がおかしい。無表情で、じっと聖剣を見つめている。

 何をするつもりなんだ、フェイス。


「……すまん、ディック。まだ、終わりじゃないんだ」

「え?」

「エンディミオンはまだ、俺の中に生きている」


 瞬間、フェイスから黒い霧が立ち込めた。そこから強く、エンディミオンの力を感じる。

 これは、どういう事だ。エンディミオンは、確かに……。


『異空間でフェイスを刺した時、エンディミオンは保険をかけていたのさ。万一自分が死んでも復活できるよう、魂の一部をフェイスに宿してね』

「魔王様……?」

「……なんで? なんで、フェイスからエンディミオンを追い出さなかった!?」

『出したら、フェイスは死んでいたよ。魂に直接固着していたからね、無理にはがせば、フェイスの魂が壊れるようになっていたんだ』


 僕達が話している間に、フェイスはエンディミオンを手に取った。

 聖剣を握り、僕に正面から向かい合う。フェイスは、諦めたように笑っていた。


『くははは……まだだ、まだ死ねないよなぁ、相棒……お前とは、一番体の相性が良かったんだ。だから、もっと俺を使え、共に虚無に浸ろう! もっと、もっと! もっと!! この世に虚無を、俺の退屈な時間を潤してくれ!』

「……うるさい聖剣だ。悪いが、底なしの虚無

そいつ

は一人で地獄に持っていけ」


 エンディミオンに侵食されながらも、フェイスは自我を保っている。何をするつもりなんだ、フェイス。


「ディック、俺から最後の頼みがある……俺を、斬ってくれ」

「フェイス!?」

「今はどうにか、持っている。だが、このままだと俺はまた、こいつに乗っ取られてしまう、仮に自害しても、他の奴に憑依して、被害を拡大する危険まである。こいつが不完全な状態で融合している今なら、アンチ魔導具を持つお前なら、逃がさず倒す事が出来るんだ」


 その言葉で、僕は理解した。フェイスは自分を犠牲に、僕達を救うつもりなのだと。


「フェイス……駄目だよ、止めてよ……一緒に、一緒に旅しようって、約束したんだから!」

「悪いアプサラス、その約束、果たせそうになさそうだ」


 フェイスが、剣を構えた。エンディミオンに侵食されて、僕達を襲おうとしている。


「ディック、頼む。俺はもう、誰も傷つけたくない。だからせめて……地獄にお前との絆を、持って行かせてくれ。お前の手で俺を、終わらせてほしいんだ」

「…………」


 なんて自分勝手で、身勝手な頼みなんだ。

 ようやく分かり合えたのに、やっと君の事を、知る事が出来たのに。どうしてそんな事を、言ってしまうんだ。

 許さないよ、フェイス。君が死んだら、アプサラスはどうなる。そして……僕達の心はどうなる。


「……分かった。いいな、ハヌマーン」

『心得た』

「ディック、止めて、止めて!」

「アプサラス、今は、ディックを信じて」


 シラヌイがアプサラスを止めてくれた。この場に居る全員が、僕とフェイスの最後の決闘に息を呑み、見守っている。


「ありがとう、ディック……行くぞ」

「ああ、これが本当の……終わりの一振りだ!」


 僕達は剣を構え、走った。

 フェイス、君を決して、孤独に逝かせはしない。

 君もやっと、自分のやるべき事が分かったんだろう、愛される喜びが分かったんだろう。

 だから、僕は君を助ける。母さんから受け継いだ、この刃に誓って。

 君の親友として僕が、君を開放してやる!


「ディィィィィィィィィック!!!!」

「フェェェェェェェェェイス!!!!」


 英雄と勇者、両者の剣が交差し、そして……。

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