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165話 遠距離の共闘

〈シラヌイ視点〉

「シラヌイ、無事かい?」


 ディックに肩を揺らされ、私は目を覚ました。

 どうも、地下室に落とされたみたいね。室内は変わらず無機質な金属の壁に囲まれていて、扉が存在していない。私達は閉じ込められた形になっていた。

 他の四天王達も無事みたい。見上げれば、落ちてきた穴がふさがっている。

 さっきまで砕けて大穴が空いていたのに。コープの異空間だから、あいつの意のままに操れるようね。


「コープ……母さんの仇……必ず討つ!」

「落ち着けディック。こういう時こそ冷静にだ」


 リージョンが感情を操る力で、ディックの気持ちを落ち着ける。こういう時、リージョンの力って本当に便利よね。


「ともあれ、ここには特に仕掛けもなさそうだ。今のうちに作戦を立てるとしよう」

「……情報の整理も必要だぞ、ディック」

「分かっている、ありがとう二人とも」


 ディックはようやく落ち着いたみたい。私も頬を張って、気合を入れなおした。

 まずは状況の確認をしなくちゃね。まずコープの手に、エンディミオンが渡ってしまった。あいつがその力で何をしようとしているのか。


「病気にかかった人に特効薬を振りまいて、自分の人格を植え付けようとしている。それがコープの目的だ」

「それで間違いないはずよぉ。もう殆ど白状したようなものだものねぇ」

『全く理解できん狂人だ、そんな事をして何が楽しいというのだ』

「超極端なナルシストよ? 大方、沢山の僕が居て幸せだ。そんなバカげた欲求を満たそうとしているに決まってるじゃない」


 自分で言った事ながら、背筋が凍る。コープの性格ならやりかねない。と言うか確実にそれが目的でしょうね。


「しかし、エンディミオンの力を利用してどうやって広めるつもりだ? 人間領と魔王領、双方の広大な敷地へ一度に特効薬を行き渡らせるなど、現実問題難しいだろう」

「……いいや、方法ならある」


 腕を組んだリージョンに、ソユーズが手を上げる。彼が言い出した方法は、馬鹿げているけど効率的な物だった。


「雨だ……エンディミオンの力なら、魔法で雨を降らす事もできよう。その雨を一滴でも舐めれば、どうだ? そして雨水を飲めば、どうなる?」

「そうか……それに一人でもコープになれば、容易く他者に雨水を飲ますこともできる。病を広めた今、特効薬の雨を降らせれば」

「瞬く間に、コープの人格上書きが出来てしまう……!」


 私達は戦慄した。なんて効率的かつ、大胆な方法なんだろう。

 コープなら間違いなくこの方法を取る。奴が行動に移した今、残された時間は少ない……急いであいつの所に戻らないと!


「気配察知で、コープの居場所は分かるよ。この異空間の中心、丁度、この壁を突き抜けた先だ」


 ディックは鞘を握りしめた。そしたら横にソユーズが立つ。

 ……そこ、私の定位置なんですけどぉ?


「援護しよう、ディック。この異空間の素材も、我の力の影響下にできる。あまり乱暴に扱っては、母の刀が歪むぞ」

「あっ、そうだね……忠告、ありがとう」


 おいソユーズ、私のポジション奪って楽しいか? 私はお前の断末魔を聞くのが凄く楽しみだよ。


「シルフィ、手伝いなさい。ディックの隣を奪還するわよ」

『落ち着かんかボケナス』


 シルフィに突かれ正気を取り戻した。うー、いかんいかん、ディックがらみになるとつい我を失ってしまうわね……。


『全く……本当に貴様のような奴の使い魔になって、私は不幸せだよ……』

「うー……」

『ただまぁ、騒がしい主人で見ていて飽きないのは救いだがな』


 随分な皮肉ね……いやまぁ、アホになってる自覚はあるけどさぁ……。


「皆、コープを追おう。あいつを好き勝手にさせたら危険だ、一刻も早くあいつを止めなくちゃ!」

「わかってるってば!」


 こんな時でもディックは平常運転だし。浮ついてんの私だけ?

 ディックは先頭を切って壁を壊し、コープの下へ急いで行く。ダメね私、完全に出遅れちゃった。

 ちゃんと支えなきゃ、私はディックの未来の嫁よ? ならきちんと目の前の事に集中しないと。

 シュヴァリエを握りしめ、シルフィと一緒に私は、ディックを追いかけた。

 けどディック、コープを倒すためには、クローンをどうにかしなきゃいけないけど……何か策はあるの?


  ◇◇◇

〈フェイス視点〉


 目を覚ますと、頭が割れるように痛かった。

 痛いって事は、どうにか、無事で済んだようだな。死んだら痛いなんて感じないだろうし。


「フェイス、気が付いた」

「アプサラス……?」


 ぼんやりとした視界に、アプサラスが映った。あいつの手が額に触れて、ひんやりとして、気持ちがいい。

 そこではっとする。俺は、アプサラスに膝枕をされていた。

 起きようにも、体が動かない。どうも、体力が大きく削られているようだ。

 当たり前だな、病気だってのに無理して戦闘してりゃ、命が減るに決まっている。

 一秒ごとに死へ近づいているのを感じるのに、寂しくない。アプサラスが傍に居てくれるからだろうか。


「つーかよ、お前、移るから離れろって言ったじゃねぇか……」

「移らないよ。あたし、ホムンクルスの体だから。メイライトが言ってたの、この体は、病気しないように造ってるって」

「……そうか。なら、あの堕天使にあとで、礼を言っとかないとな……」


 心置きなくアプサラスと過ごす事が出来る。俺の唯一の味方で、大事な女とな。


「フェイス……死んじゃ嫌だよ、もっと、生きてよ」

「そう言われてもな……もう、この体はガタガタでよ……指一本も、動きやしないんだ」


 どうやら、俺はここでくたばる運命らしい。すまない、アプサラス。どうやらお前との約束、果たせそうにないみたいだ……。


「らしくないじゃないか、フェイス。普段のお前なら、もっとあがくだろうに」


 いきなり、男の声が聞こえた。

 そいつは俺達の前に現れるなり、俺に何かを飲ませた。そしたら胸の痛みが引いて、体を蝕んでいた病が、一気に消えていった。


「ふー、間一髪で間に合ったな。気分はどうだ?」

「これは……特効薬? おい、これ、どこから手に入れた……ワイル・D・スワン」


 けだるい体を起こし、俺は現れた怪盗に問いただした。つーかこの薬、コープ化するヤバい奴じゃないのか?


「なぁに、この異空間を探し回ってな。それで最初期に作られた、人格変化を起こさない薬を見つけ出したまでよ」

「お前、事情を知っているのか」

「アプサラスに共鳴虫を付けたんでな。この虫はつがいの片割れと通話する事が出来る、コープとの会話は盗聴していたんだよ」


 その上で異空間の探索をしていたのか……こいつ、抜け目がないな。


「さて、お前さんは俺の故郷を荒らそうとした。そんな奴と協力するのは正直嫌なんだが、今は背に腹を変えられないんでね」

「何が言いたい」

「俺と手を組んでもらう、今の俺達は利害が一致しているはずだ。この異空間を駆けずり回っていて、コープを出し抜く手段を見つけたんだ。だがそれには、戦闘力が必要になる。お前の腕前が必要なんだよ、フェイス・リグレット」

「……ふん、細かな話を聞かせるつもりは、なさそうだな」


 体力は落ちているが、どうにか動ける。喀血もない。あとは武器さえあれば、戦える。

 そしたらワイルは、ロングソードを渡してきた。どっからか奪ってきたもんだろう。


「なまくらで悪いが、ないよりマシだろ? 俺は戦いにかんしちゃからっきしだ、お前だけが頼りだぜ」

「……いいだろう、道中で詳しく計画を教えて貰うぞ」


 ディック達の助けになるなら、いくらでも協力してやる。あいつの手助けを受けるのはごめんだが、手助けをするなら喜んでやってやる。

 俺は、ディックの力になりたい。今までの罪滅ぼしにな。


「フェイス、あたしも行くよ。あたしももしかしたら、手伝えるかも」


 アプサラスがショートソードを抜いた。お前、まだへたっぴなくせに戦えるわけないだろうが。

 だが、一緒について行った方が、こいつも安全だ。


「絶対離れるなよ」

「うん! よろしく、ワイル!」

「あいよ。勇者に怪盗、そしてホムンクルスか。奇妙な組み合わせだが、こういうのも悪くないな」

「遊びじゃないんだ、ふざけるなよ」

「分かってる」


 出発するなり、俺達の前に立ちふさがるコープの手下たち。お前らごとき、なまくら一本で充分だ。

 待ってろディック、今、助けに行くからな!

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