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16話 ライバルはいと多し。

「ディックですか? 確かにいいですよね彼。この間仕事手伝ってくれたんですけど、物凄く的確で速くて。出来る男って感じでかっこいいですよ(ラミア談)」

「彼ですねぇ、哨戒任務の時に私を助けてくれたんですよぉ。一瞬でずばーっと魔物を倒しちゃって、納刀する時の仕草も上品でぇ。男らしいのに綺麗な姿で最高でした(ハーピィ談)」

「クールな外見がまたいいものでして。立ち振る舞いも紳士的で、おまけに時々見せる陰りのある表情がまた……濡れるっ!(人狼談)」


 ……以上が、私ことシラヌイが独自に集めた女兵士の評判である。


 十人にしれっと聞いてみたけど、全員もれなく高評価を出していた。あいつ、私の仕事手伝う間にどんだけ周りのフォローしてんだ。手早すぎるでしょ全く。


 そこは気に入らないけど、あのマザコン剣士、マジで人気あったんだ……確かに黙って普段の姿見ていればそれなりの線行ってるけども、予想以上の評判で驚いた。


「全く、人間相手に色目使うなっての。大体敵対している種族でしょうが、ちゃんと自分の立場をわきまえて……」

「何くどくど文句を言ってるの?」

「わわっ!? メイライト!?」


 不意に後ろから声をかけられ驚いた。奴はにやにやしながら私を見やり、


「なぁにぃ? ディックちゃんが人気で妬けちゃった?」

「ちがわい! 単にその……あいつが仕事さぼってないか調査していただけよっ」

「あの子の勤務態度は極めて真面目じゃない。傍で見ている貴方が一番わかってるでしょ?」

「仕事の都合で結構離れる事多いのよ。見ていない所で変な事やってたら焼き殺してやる」

「あらまぁ恐い恐い。それでどう? 成果はあった?」

「……ちゃんと真面目に仕事してるって事が分かったわ」

「それとライバルも多い事もねぇ。無自覚たらしなんだもの、罪な子だわぁ」

「あのね、あんた達はあいつの事なんも分かってないからそんな事が言えるのよ」

「じゃあシラヌイちゃんは彼の事わかってるの? 先に言っておくけど、マザコン以外の悪口を言ってね」


 む、逃げ道を潰されたか。

 そうなると途端に何も言えなくなってしまう。それ以外のあいつの短所って言ったら……うーん……。


「い、色々重いのよね。前酔いつぶれた時、わざわざ夜に漢方を取りに行ったり、朝早くから私の家に来て料理作りに来たり。何かと世話焼いてくれるけどその、程度が重すぎっていうか過剰サービスって言うか……」

「んー、それはあるかもねぇ。でも嬉しくないかしら? だって自分のためにそうまでしてくれる人って中々居ないわよぉ」

「それはそうだけどさぁ……」


 私の事を考えてくれるのは、本音を言えば嬉しいけど……逆に私はディックの事が分からなくなる。

 あいつは決して馬鹿じゃない、いい加減私と母親が別物だって分かっているだろう。

 なのにどうして優しくするんだろう。まだ私に母親の影を追っているのなら、すっごく嫌な気分になる。

 私は私だ、あいつの母親じゃない。見るなら母親じゃなくて、私を見て欲しい。


「あんらぁ? 憂いを帯びた顔で何を考えているのかしらぁ?」

「別に……」

「『あいつ、私じゃなくて母親の影追ってんのかなぁ。見るなら私だけを見て欲しいなぁ』」

「それは思うけど……あ」

「はいボロが出たー。扱いやすくて助かるわね……止めて、謝るから古代魔法の詠唱止めて。それ使ったらこの街諸共消滅しちゃうから」


 だったら余計な事言うな馬鹿。

 全くこの淫乱堕天使、人をおちょくって遊んでんじゃないわよ。


「そんなに気になるなら、一度サシで話す機会を作ってみたらぁ? 彼から素直な声聞いた方がすっきりするわよぉ。お酒の力を借りるのも一つの手だしぃ」

「サシ飲みつってもなぁ、あいつ無駄に酒強いじゃない。私弱いから、即座に潰れておしまいよ」


 酒の力でディックにボロ出させるのは不可能に近い。むしろ私が自爆する未来しか見えない。

 ……あいつもあいつでかなりのチートだもんなぁ。仕事の面でも私より有能で、プライベートでも隙が無いし、実力自体もかなり高いし……なんか自分が惨めになってきた。


「卑屈になるのは貴方の悪い所よぉ。他にも手段あるから、そっちにしましょうか」

「他の手段、どんなのがあるの?」


 気付けば乗り気の私が居る。認めたくないけど、少しでもディックを知ろうとしている自分が居る。

 ……仕事以外の事に目を向けるようになるとは。明日はタバスコでも降ってくるかな。


「単純単純。デートよ、おデート」

「あーそういや私明日の予定確認するの忘れてたーさっさと戻らなきゃー」

「何赤い顔して逃げようとしてんの。何度でも言ってやるわ、デートしなさいデートを」


 耳元で囁くな! よりによってサシ飲み以上にハードル高い奴持ってきおってからに!


「男女の仲を深めるならデートが一番よぉ。私だって休日は四人の旦那とデートして、夜は5Pで徹底的に搾り取って可愛がってるんだからぁ」

「口閉じろふしだら! 男遊びが派手すぎるでしょうが!」

「サキュバスの台詞じゃないわよそれ。あと男遊びじゃなくて家族サービスでーっす」


 畜生、こいつに口喧嘩で勝てるわけないか……。

 大体デートって、恋仲にある男女がやる奴でしょうが。そもそもそんな関係じゃねーし、魔王四天王たる者が人間なんかとデートするなんて、えっと……コンプライアンス違反じゃないのよ!(赤面&錯乱)


「大丈夫よぉ、別に社内恋愛したってコンプラ違反にならないしぃ、むしろ気になる男に手を出さない方が恋のコンプラ違反よぉ」

「人の心読まないでよ!」

「だって顔に出てるから分かりやすいんだもの」


 腹芸出来ないのよ私は。それに上司としての面子がある、私から誘うのは断じて嫌よ。


「向こうが誘ってくるなら来てやってもいいけど、こっちから声をかけるのは絶対やらないからね」

「そうなの? 彼から誘われる分には構わないわけ?」

「ええそうよ。向こうから頭下げてくるんならまぁ、応じてやってもいいわよ」

「あらま。それ嘘じゃないわよね」

「ええ勿論。女に二言なしよ」

「じゃあちょっと待っててね」


 メイライトが指を鳴らすなり、私の目の前に突然……。


「? え、なんで僕はここに?」


 ディックが現れた。

 瞬きする一瞬でディックを連れてきやがったこいつ。何したのよ。


「時間を止めてぇ、ディックちゃんをここに運んで来たのよ。私は時間を操れるんだからこれくらい朝飯前なのよぉ」

「何余計な事してんの!?」

「話が見えないんだけど……それ以前に会議中だったんだけどな……」


 しかも相手の仕事邪魔してるとかどんだけ自由なのよこいつ!

 というより、こんなタイミングでディックと会うなんて……。

 さっきまでこいつ絡みの話をしていたからか、余計に意識してしまう。やばい、顔を直視できないんだけど。


「で、なんで僕はここに?」

「うふん、それはねぇ」


 メイライトが概要を話したら、ディックは頷いて、


「そう言う事なら、一緒にどこか行こう。考えてみると仕事以外でシラヌイと居る時って、全然なかったし」

「えっ、あっ、あのその……」

「僕は歓迎だよ、予定はシラヌイの都合に合わせる」

「い、いやー、そのぉ……」

「あらー? 女に二言なしだったんじゃないのぉ?」


 くそ、メイライトが煽ってくる。ここで引きさがれば女が廃るし……。


「わ、分かったわよ! そんじゃ明後日、明後日私ら休み被ってるから行きましょう!」

「ん。それじゃ、僕は戻るよ」


 随分あっさりした対応であいつは去っていく。こっちはドタバタしてんだから、あんたも少しはドタバタしろや。

 ……つーか、どうしよ。マジで約束しちまった……。


「ね、ねぇ……何をどう準備すればいいの? というより何を目的にしてたんだっけ私、それより服これ一着しか持ってないのよ? 毎月一回しか洗ってないから薄汚いし、というより男と一緒に行く服ってどんなの選べばいいわけ? あーもう分からない事だらけでわけわかんなくなってきたー!」

「あらまぁ、珍しくてんぱってるわねぇ。でもお姉さんに任せておきなさいなぁ。責任持って貴方をコーディネイトしたげるからねぇ」


 メイライトの目が怪しく光った気がするけど、今の私にそんなの気にする余裕はないのでした。

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