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159話 風雲急を告げる事件

〈ワイル視点〉


「あ、あぁ……ああああ……!?」


 異空間の部屋に逃げ込むなり、アプサラスが怯えだした。

 俺の前には、無数のカプセルが並んでいる。確かディックから聞いたっけな、監獄でアプサラスを増やす道具があったとかなんとか。

 そんな物が現実にあるもんか。その時は思ったが、こうして現実の物としてみると圧倒されちまうな。

 と、いきなりカプセルが動いて、人間を作り始めやがった。まじで生身の人間を作ったのか? というか、肉体を作っても、肝心の動かす魂はどうするつもりだ?


「に、逃げて、逃げてワイル!」

「俺だけ逃げても仕方ないだろ? お前さんも逃げるんだ」


 って事でアプサラスの手を引いて逃げ出すも、俺らを追いかけていた人間に見つかって、また鬼ごっこの始まりだ。

 煙幕で姿をくらまし、いくつかの部屋を探ってみる。そしたら丁度空き部屋があったんで、急いで身を隠した。

 人間達の気配が遠ざかっていく、どうやら、一旦は撒けたみたいだな。


「どうしよう……あたし、あたし、こんな所に……もっと早く知らなくちゃ……」

「どうした、そんなに怯えて」

「わかっちゃったの……ここに居るのが誰なのか、皆の中に、誰がいるのか……」

「皆の中? あの、作られた人間達か?」


 アプサラスは頷いた。


「……コープだ……コープが、ここに居る……どうしよう……コープが、コープが……あ、あああああ……!」

「落ち着けよ、コープってのは確か、あれか。お前さんを人形の魔女に変えちまった」

「……うん……あの人達、コープが入ったよ。あの目、あの笑い方、コープだ……コープ、あたしと私達を人形の魔女にしてから、すぐに居なくなって……じゃあ、あの病気、フェイスの病気……コープが……そんな……!」


 頭を抱え、アプサラスは震えている。コープって奴が出てきただけでこの有様か、そんだけやばい奴なのか、よく分かるよ。

 アプサラスで人体実験して、人形の魔女なんて怪物を作ったのはまだ序の口。人間を自在に生み出して、あまつさえ魂を植え付け、いわば別の姿を持つ自分を作り出すなんて、正気の沙汰じゃない。しかも病気を自作して世界に広めるなんて事を平気で仕出かしている。

 どれだけ狂った奴なのか、これだけで充分理解できてしまうな。


「あの監獄で何を目的に、お前さんで実験していたのか見えてきたな。コープって奴は、お前さんで人間を作る技術と……魂を移植する技術を、研究していたんだ。目的は分からないけども、どうせろくな事じゃないだろうな」

「あ……うぅ……フェイス……フェイスぅぅぅ……!」

「ん?」

「……フェイスが、コープに殺されるなんて、嫌だ……コープ、それなら、あたしが……あたしが!」


 ショートソードを握って、アプサラスが立ち上がる。んでもって、勢い勇んで部屋から飛び出そうとしたけども、ちょっと待て。


「あたしが何をするって? そんな剣一本で敵うような相手なのかい? まずは落ち着きなよ」

「でも、このままじゃフェイスが……!」

「道中で聞いたよ、フェイスが病気になったから助けたいってな。だがコープとかいう奴の影におびえて闇雲に走っちゃいけないな。お前さんが倒れたら元の木阿弥、肝心の勇者も助けられない。だろ?」

「うん……」


 どうにかおさまったか。しかし、この様子からしてアプサラスの奴、フェイスに惚の字っぽいな。

 この一ヶ月、あいつがアプサラスにどう接してきたのかが分かる。大事にしてきたんだろうな、このちっこい女を。

 随分な心境の変化があった途端にこの騒動とは、悲しいもんだな。


「コープか……一体どんな奴なんだか」


 答えは絞りやすくなったがな。コープから病気の特効薬を奪い、そして倒す。だけど俺ではコープを倒すのは無理だろう。喧嘩なんか一度もした事ないくらい弱っちいからな、俺にできるのは盗みだけだ。

 だから、ディックに頼るしかない。

 あいつと合流して連携して動けば、この状況を乗り越える事も出来るだろう。とっとと魔王四天王達と合流し、この状況を打破しないとな。


「行くぜアプサラス、ディック達と一緒に行動するんだ。そうすりゃ、フェイスも助けられるはずだぜ」

「うん!」


 ディックの名前を聞いた途端素直になったもんだぜ。監獄で世話になったみたいだし、あいつにも懐いているみたいだな。

 よし、それじゃあ行くとするか。

 怪盗をなめるなよ、あいつらの居場所なんかすぐに見つけてやるからな。

 イッツショータイム。怪盗劇の幕開けだ。


  ◇◇◇

〈ディック視点〉


『なんたる事だ……』


 シルフィが驚愕の色をにじませて、呟いた。

 ほんの、一瞬の事だった。

 僕は決して油断していなかった。常に気配察知で状況を見ていたし、シルフィは勿論、四天王だっていた。完全に、万全を期した布陣だったはずだ。

 なのに、今僕の前で起こった事はなんだというんだ。


「ディックちゃん、落ち着いて」

「落ち着いて、いられるか!」


 思わず声を荒らげてしまった。メイライトに謝罪し、僕は呼吸を整えた。

 言われなくたって、落ち着くさ。いや、落ち着かなきゃならない。でないと、この状況を受け入れられないから……。


「俺達を前に、このような事を実現させるとは。プロフェッサー・コープ、想像以上に恐ろしい奴だ」

「……心して、かかる必要がありそうだな」

「ああ……なんとしても、取り戻さないと」


 僕は声を絞り出した。

 ……僕達の目の前で、シラヌイが誘拐されてしまった。

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