157話 フェイスの決意
リージョンは力を使い、くまなく周囲を探っている。でも、今の所結果は思わしくないみたい。
「どうだいリージョン」
「ぼんやりとだが、異空間の気配はするな。だが肝心の入口がな……多数の気配が混じりすぎて特定できないんだ」
「これだけの乱戦状態じゃ仕方ないか」
ディックは苦々しそうに顔をゆがめた。私に何かできる事があればいいのだけど……。
にしても、しっつこい奴らね。どんなに追い払ってもすぐに出てきちゃう。ってか、結構倒しているのにどうして数が減らないの?
なんだか、無限に敵が湧き続けているような気がする。
「……ん?」
ちょっと引っかかるところがあって、私は辺りを見渡した。
仮に、人間達が無限に出てきていると仮定しよう。蟻が巣穴から出てくるように、当然出現ポイントがあるはずよね。
「シルフィ! 人間達がどっから来てるか分かる?」
『なんだその指示は? どこからって、街のいたるところから出てきているが。民家やら、道具屋やら、あちこちから大量にな』
「それって不思議じゃない? だって、この街の規模からして人口はせいぜい数百人が限界でしょ。でも、明らかにそれ以上の人数が入り乱れている。どう考えても変よ」
ディック達がはっとする。明らかに、街に収容できる人数を超えた人数を見上げ、
「……異空間から人間を送り続けているのなら、リージョンが見つけられないのも説明がつく。入口が多すぎて、位置が逆に特定しきれんからな」
「凄いじゃないシラヌイちゃん! それなら、お姉さんにまっかせなさい!」
メイライトは指を鳴らし、創造の力で多数のホムンクルスを作り出した。
あちこちを機敏に飛び回り、ホムンクルスが家々を見て回る。そしたら、一軒の民家に集まり始めた。
「あそこみたいね、怪しいポイント発見よ!」
「……ならば、制圧あるのみ! 滾れ、我が邪眼!」
ソユーズが手を翳すなり、民家の中が光で溢れた。同時に悶絶する悲鳴も。
「……フラッシュボムだ、暫くは目が見えまい。今のうちに制圧するぞ」
「ありがとうソユーズ、よし!」
ディックがゾーンに入って、民家に突入。あっという間に峰打ちで無力化し、民家を抑えちゃった。
「悔しいけど、息ぴったりねあんたら……」
「友だからな」
ソユーズはどこか得意げだ。でもともかく、ディックの所に行かないとね。
「どうかなリージョン」
「うむ……タンスの中が怪しいな。そこから、次元の切れ目を感じる」
一見何の変哲もない民家の中で、リージョンが注目したのがタンスだった。
シルフィとも合流して、見てもらう。そしたらシルフィも渋い顔をして、
『私もリージョンと同意見だ。だが、なんだこの異様な気配は? なにやら、不穏な気配が漂って仕方ないのだが』
「不穏な気配?」
「うむ、何というのかな……凄まじい欲望の気配を感じるのだ。それも、悪意に満ちた欲望の気配をな」
「シルフィがそう感じるほどの気配……何があるっていうのよ」
私は身震いした。そしたら、ディックが肩を抱いてくれる。
「大丈夫、僕が居る。この先に何が居るかわからないけど、監獄から僕を助けてくれたように、今度は僕が君を守る番だ」
「うっ……こんな所でそんな事言わないでよ」
あーこら! にやにやすんな四天王ども! こっちだって顔から火が出るくらい恥ずかしいんだから!
「僕達の役目を果たすためにも、必ず成し遂げよう。この先の、黒幕討伐を!」
『応!』
いつの間にか、ディックが先頭を切っている。あの時と同じね、フェイスがバルドフに襲ってきた時、私達を率いて戦ったあの時に。
なんというか、ディックも凄く立派なリーダーになったわね。彼が先頭に立ち、声を出す度に、私達は勇気づけられる。なんて言うか、四天王の副官に収めておくにはもったいないわ。
人間だけど、ディックなら……魔王四天王におさまってもいいような気がする。そんな器の持ち主だもの。
ディックがタンスを開くなり、中から人間が飛び出してくる。タンスの中にあった、異空間のゲートから。
襲ってきたそいつらを一蹴するなり、ゲートが消えてしまう。成程、本当に当たりのようね。
「ゲートを閉じても無駄だぞ、空間を操る俺ならばこの程度」
リージョンが手を翳せば、消えたゲートが蘇る。この先にパンデミックの元凶が居るのね。
ディックと共にゲートへ入る。さぁ、鬼が出るか蛇が出るか……魔王四天王、出撃よ。
◇◇◇
〈アプサラス視点〉
「おいおい、あいつらタンスの中に入っちまったぜ。俺達も行くか?」
ワイルに守られながら、あたしは屋根を伝って逃げていた。
この街の人達は、皆あたし達を狙って追い回している。というより、あたしを捕まえようとしているのかな。ワイルよりも、あたしに視線を向けている気がする。
そんな逃げている中で、ディック達を見つけた。なんで人間領に来てるのかわからないけど、あたし達は助けを求めようとした。
けど、人が多すぎて、ワイルでもいなしきれなかった。結局近づけないまま、様子を見ていたら……ワイルの言った通り、民家のタンスの中に入って、別の場所へ消えちゃった。
「と言うか俺は行くけどさ。あんなこれ見よがしにゲートが開いているんだ、好奇心が騒いで仕方がない」
「あたしも、一緒に行くよ。だってここから逃げられないんだし、ディックに追いついた方が、多分安全だし」
街が結界で閉ざされてるから、あたしもワイルも出られない。ワイルは戦えないみたいだから、ディックと四天王さんに合流した方が安全だと思う。
「ま、俺らの身の安全を考えればそれがベストか。よし、そんじゃあいくぜ!」
ワイルはあたしを抱えると、手首からワイヤーを出して民家に飛んでいった。それでそのままの勢いでタンスに入り、ゲートをくぐる。
ディックに会えたのは、あたしにとっても良かったよ。だって、フェイスを助けられるかもしれないから。
絶対、ディックに会わなくちゃ。頑張らないと。
◇◇◇
〈フェイス視点〉
街人をなぎ倒し、アプサラスを追いかけていたら、ディックが暴れている所に鉢合わせた。
咄嗟に気配を隠したから、気づかれてはいないはずだ。こんなざまぁない姿、あいつには見せられない。
「見せたら、あいつの事だ……俺を助けようとするだろうからな」
注意しながら様子を見ていると、あいつらは民家に入って出てこなくなった。そしたら間髪入れずに、ワイルに抱えられたアプサラスが民家に飛び込んでいく姿も見えた。
急いで追いかけると、異空間のゲートが開いたタンスを見つける。成程、黒幕のヤローは異空間に身を隠していたわけだな。
「げほっ……話が早くて、助かるな」
アプサラスは恐らく、ディックと合流しようとしているんだな。いい判断だぜ、ワイルは戦う力がない、あいつらに保護を求めるのが一番安全だからな。
「……この先に、黒幕がいるってわけなんだな、ディック」
それに、俺にもいく理由がある。
もし、あいつらの助けが出来るのなら、俺にもできる事があるのなら、力を貸したい。
そしてパンデミックを終わらせられるのなら、俺は全力を尽くしたい。
これまで重ねてきた罪を少しでも償うために、俺は剣を握らなければならないから。
「待ってろディック、俺が助けてやる。アプサラスも待ってろ、俺が救ってやる」
今度こそ、俺は勇者になる。大事な友達を救うために。
俺は迷わず、ゲートへ飛び込んだ。