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152話 フェイス、病に倒れる。

訓練を始めて数日、アプサラスの腕前はめきめきと向上していた。

 才能は平凡なんて言っちまったが、前言撤回だ。こいつセンスあるぜ。

 俺は素手で相手してやっているが、時々切っ先が手足をかすめている。手加減しているとはいえ、俺に剣を当てるとは大したもんだ。


「やぁっ!」

「だから脇締めろつってんだろうが」


 ただまぁ、粗削りだがな。

 俺にとびかかってきたアプサラスの脇を軽く蹴り、いなしてやる。ごろごろ転がって壁に体打ち付けても、すぐに立ち直ってかかってきた。

 いい根性だよ、俺と違って潰れやしない。こいつと一緒に居ると、俺が失った物が補われていくような気がして、悪くないな。


「いったん休憩だ、少し休め」

「えー、もっとやりたい!」

「だめだ、疲れた状態で剣振ってみろ、自分が怪我するだけだ」


 現に三時間はずっと組手してるしな、いい加減剣を置かせないと。


『ばっはっは! 向上心があるのは結構なことではないか。なんならワシが相手してやってもいいぞ?』

「お前が相手したら死ぬだろうが、手加減できない奴が何言ってやがる」


 ディアボロスの相手が出来るのは俺かディックくらいのもんだろうよ。


「ねぇフェイス、出来なかった事ができるようになるのって、楽しいんだね」

「ああ、だろうな。俺も今、分かりかけている所だ」


 人に優しくするのが楽しいと思えるようになってきたんだ。それに、アプサラスと一緒に居るのも悪くない。

 こいつと一緒に旅すんのは、確かに悪くないかもな。

 贖罪の旅だから、楽しむのはお門違いだ。だがアプサラスがついて来てくれれば、少しだけ救いになるだろう。

 俺自身への甘えってのは自覚している、救いを求める資格がない事も分かっている。

 だけど、縋らせてくれ。俺がようやく手にした希望に。


「なぁアプサラス、お前さえよければだが、俺と」

「俺と?」

「……俺と……げほっ、げほっ!」


 急に、胸が刺されるような痛みに襲われた。

 あまりの痛みに息が出来なくなる。突然肺の中に刃が入り込んだような、途方もない激痛が起こったんだ。


「フェイス、どうしたのフェイス!?」

「わから……ない……ただ、急に胸が……げほぉっ!?」


 大量に血を吐いてしまった。この喀血、まさか……。


「イザヨイと、同じ病……? げほっ!」

「フェイス!? おじいちゃん、フェイスが!」

『むぅ! おい、誰か勇者を介抱しろ!』


  ◇◇◇


「結核……だと?」

『病状を見るに、近い病気だとは思うのですが……なんの予兆もなく突然発症したのは、前例がありません。恐らく、似て非なる物だと思いますが』


 俺を診たドラゴンからそう伝えられ、俺はまた喀血した。

 これが結核……違う物だとしても、イザヨイがかかった病気か。

 息が出来ない程、胸が痛い。一呼吸する度に肺が縮むような激痛が走って、全身が痙攣する。

 イザヨイの奴、こんな苦しい病気にかかっていたのか。そんな女に対し、俺は一体、何を言った? 「病気をまき散らすなら、とっとと死ね」。確かにそう言ったはずだ。

 ……なんて事を、言ってしまったんだ、俺は……!


「げほっ! げはぁっ!」

「フェイス! しっかりしてよフェイス! おじいちゃん、薬はないの!?」

『結核に効く薬はない、精々、進行を遅らせるのが限界だ。龍の血には治癒力があるが、あくまで怪我にしか効かんからな』


 ディアボロスも珍しく狼狽えている。こいつまで焦る事態かよ、相当だな。


「くそ、離れろアプサラス……お前まで、移っちまう……げほっ!」

「嫌だ! フェイスが苦しんでるのに嫌だよ! 折角、折角フェイスが、明るくなってきたのに……病気になるなんてそんなの酷いよ! どうして、どうしてこんな病気があるの!?」

『どうやら、人間領と魔王領双方に、爆発的に広まっているようです。この感染力は通常の結核ではありえません、恐らく、人造の物である可能性が高いです』


 人造の病気だぁ? そんなもんを、二つの領域に一度に広めた馬鹿が居やがるのか?


「どこの、どいつだ……げほっ……こんな、くだらない真似、しやがったのは……」

「フェイス……!」


 アプサラスは立ち上がると、ショートソードを手に取った。


「おい、どこに行くつもりだ」

「ディックの所! ディックなら、フェイスを助ける薬を持ってるかも! 分けてもらってくるから、フェイスは待ってて! あたしが、絶対助けるから! 絶対、絶対だよ!」

『ばっはっは、なかなかの気概だ。おい、誰か出てやれ。ワシはフェイスを看といてやる』

「てめぇら、勝手に決めてんじゃねぇ……!」


 アプサラスを止めようとしたが、喀血しちまって動けねぇ。

 あいつが、俺を助けてくれるわけねぇだろうが。イザヨイに酷い事を言った俺が、あいつに助けられる資格なんかないんだよ。


「……ごめん、イザヨイ、ごめん……なさい……!」


 くそっ、自分の愚かさに、涙が出てしまうぞ……!

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