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151話 イザヨイの倒れた街。

 ワードの手回しにより、魔王領に薬が送られた。

 早速メイライトの力で増産され、魔王領各地に送られていく。メイライトの創造の力はすさまじくて、魔王領全域に送る分をあっという間に作ってしまった。

 病が治るわけではないけれど、病状を和らげることはできたらしく、投与された患者の表情が安らいでいく。とりあえず、時間稼ぎは出来そうだな。


「僕達も配給を手伝おう、人手不足だしね」

「ええ、四天王が配れば少しは心の支えになるはずだものね」


 僕とシラヌイも各地に赴き、人々を励ましながら薬を配った。魔王四天王は魔王軍最高戦力ってだけでなく、魔王領の人々にとってアイドル的存在でもある。

 訪れる先々で励ましの声をかけると、微かに救われたような顔になる。その顔を見ると、動いた甲斐があるってものだ。


「病気か、嫌な物だよな」

「どうしたの、急に」

「……病気は嫌いだ、突然大事な人を奪っていく、ろくでもない物だ。出来れば、全ての病気を撲滅したいよ。そうすれば、大事な人と別れる悲劇を無くせるから」

「そうね……」


 シラヌイが肩にもたれかかってくる。できる事なら、魔王領内の医療制度を改革したい。

 エルフの国と同盟を組んだ今なら、彼らと協力して医療環境をより良くすることができるはずだ。でも、僕の地位ではそこに口出しする権力が無い。


「もっと、地位があればな……」

「どうしたの?」

「いや、なんでもない」

「ふーん? そうだ、ちょっと一か所、寄っていい?」


 シラヌイは僕の腕を引いて、小児病院へ向かった。

 そこでは病に冒された子供達が入院している。彼女は病室を一室ずつ訪ねては、子供達にエールを送っていた。

 彼女もすっかり子供が大好きになったな。ビーチへ行った時といい、困っている子供を見ると反射的に体が動いてしまう。


「ふぅ、病院を回るのも大変ね」

「お疲れ様」

「ありがと。でも、四天王と言えど、子供達の笑顔を守るのは楽じゃないわ。力が強いだけでも、肩書だけでもダメ。もっと子供達に寄り添うには、身近な存在じゃないとダメなのよ」


 シラヌイは杖を握り、目を閉じた。


「……何となく、見えたな。私のやりたい事」

「何か言ったのかい?」

「ううん、なんでも」

「そっか」


 僕らは微笑みあった。こんな状況でも、シラヌイと一緒に居ると心が安らぐな。


『……貴様らのイチャイチャを間近で見せつけられる私の立場は?』

「あ、居たのシルフィ?」

「ごめん、気づかなかった」

『殺すぞ貴様ら』


 シルフィがびきりと青筋を立てた。こりゃ本気で怒らせてしまったな。

 いけないいけない、今は、パンデミックの原因をどうにかしないと。


「元凶を捕らえたわけじゃない。早く対処しないと、いずれ全滅してしまうな」

「そうね……けどどうするの? 病気が発生した場所が分かっていないし、手の付け所がないわよ」

「それなんだけど、もしかしたら分かるかもしれないんだ」

「そうなの?」

「うん、魔王とも相談してから断定したいんだけど」

『はいはーい、呼ばれて飛び出て魔王様でーっす』


 僕達の背後から、魔王が現れた。一体どこから……本当に神出鬼没なんだから……。


『さてさてぇ、ディッ君の考えてる事がなんとなく分かるよぉ。あの場所を考えているんじゃない?』

「ん、流石だな。シルフィがしつこく聞く物だから、何となく頭に残っちゃってね。それにワイルも向かったって聞いたし、ちょっと気になるんだ」

「何のこと? 話が見えないんだけど」

『パンデミックの発生地だよ。実はねぇ、疫病が最初に発生した場所って、その街付近なんだよね』

「って事は、そこは病が蔓延していない?」

『その通り。いくら何でも怪しすぎるよねぇ』

「どこなんですか、そこは」

『ん、ここで話すのもあれだしぃ。一旦魔王城に戻ろっか。四天王にも辞令を出したいしね』


  ◇◇◇


 魔王の意見を受けて、僕はそこが病の発信地だと推理した。

 四天王を集め、地図を見せる。僕がマーキングしたのは、魔王領と人間領の境目近くにある街。ヴェルガと言う国境都市だ。


「ここは人間領側にある城塞都市なんだ。万一魔王軍の攻めが苛烈になった場合、防衛拠点として使うために造られた都市でね。人間軍も多く配置されている場所でもあるんだ」

「そこだけ、病が起こっていないのですか?」

『うん。しかもヴェルガを中心に病気が広がっているんだ、いくらなんでも怪しいよねぇ』

『それにな、ディックにとっては因縁のある街でもある。そうだろう?』

「……因縁? ここで何があった」

「母さんが、結核にかかった場所なんだ」


 四天王達に緊張が走った。

 母さんは依頼でヴェルガに赴いた。それが母さんの、冒険者として最後の仕事になったんだ。

 まさか五年の歳月を超えて、ヴェルガに向かう事になるとはな。


「ディックちゃんのお母さまが倒れた場所かぁ、流行病も結核に似ているし、運命を感じちゃうわねぇ」

「……義母さんが絡んだ話なら、私も黙っていられないわ。今すぐにでも調査に……あ」


 シラヌイの発言に魔王たちがにやにやした。確か、シルフィを通じて母さんに会ったんだっけ。


「な、なに反応してんのよ!? いいでしょ別に、婚約した男の母親を義母さん呼びしても!」

『いやはやぁ、こんな時でなければ素直にお祝いできるのににゃあ』


 魔王、楽しんでるだろお前……収集着かなくなるから止めておこう。


「ともかく! 発生状況からして、ヴェルガに病を広げた犯人が居る可能性が高い。ここを調べる価値は十分にあるはずだ」

『そうだねぇ。犯人ならば特効薬の作り方も知っているだろうし、とっ捕まえて情報を吐かせれば、魔王領を救えるはずさ。それに、特効薬をエサに人間領に停戦を交渉できるかもしれないし』


 僕らははっとし、魔王を見やった。


『エンディミオンが行方不明の今、人間側に戦う理由はない。そこへ戦争を終わらせる格好のエサをちらつかせれば、間違いなく停戦条約を結べるはずだ。だから……今回は四天王全員でヴェルガへの潜入作戦に挑んでもらいたい。人間領、ヴェルガへ向かい、パンデミック発生の調査を行え。それが君達のミッションだ、頼んだよ!』

『了解!』


 僕達を取り巻く、全ての状況を好転させるチャンスだ。何としても成功させなくちゃ。

 母さんが刀を置いた無念を、必ず僕が、晴らしてやる。

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