表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

150/179

150話 世界樹の雫

 リージョンの力を使い、僕らはエルフの国へと急いだ。

 本来エルフの国には世界樹が張った結界により、転移の魔法が使えないのだけど、同盟を組んだことで結界が一部ゆるみ、魔王軍の者であれば自由に行き来できるようになっていた。

 とはいえアポなしで四天王が来るのは、流石によくないかな。でも事は一刻を争う事態だ、たとえ突っぱねられても、突き進むしかない。


「あ、魔王軍の英雄ディック! 世界樹を救ってくれた人間じゃないか!」

「よくぞ監獄から戻ってこれた、改めてお祝いするよ!」


 ……警戒したのが馬鹿らしくなるくらいフレンドリーだなおい。

 行く先々で歓迎の声が飛んできて、僕に黄色い声が飛ぶ。人間なのにエルフからの人気が凄まじいな。


「いやまぁ、あの巫女姉妹に認められていれば当然と言うべきでしょ。ミハエル陛下も貴方を随分気に入っているしね」

「ははは……好意は、貰っておこうかな」


 エルフ城にも顔パスで入る事が出来て、直接謁見の間に通された。ここまで話が早いとちょっと困惑してしまうな。

 少し待つと、程なくしてミハエル女王が現れる。跪くなり、陛下は手を上げて首を上げさせる。


「よくぞ来たなディックよ、先日は略式だが、褒賞を送らせてもらった。活用してもらえたか?」

「はっ、真にありがとうございます。陛下のお心遣いにより、この身は人を超越した命を得ました」

「それは重畳。して、本日はどのような用件だ。何やら急いでいる様子、褒賞の礼というわけではなさそうだな」


 流石は女王だ、僕達の様子から事態を推察してくれた。

 手短に魔王領の状態を話すと、女王は眉間に皴を寄せた。


「ふむ……結核によく似た人工の病か。人間領にまで蔓延しているとなると、犯人は第三者と考えるべきだな。現在エルフの国にははびこっていないが、万一ここまで病の手が伸びては危険だな……おい、巫女を呼べ」


 女王は手を叩き、兵にそう伝えた。

 程なくして、エルフの国の重要人物二人が現れる。


「ディックさん! 久しぶり、元気してた?」

「どうやら壮健……ではなさそうですね」


 ラピスとラズリ、世界樹の巫女姉妹だ。二人は僕らを見るなり微笑みかけたけど、すぐに険しい顔になる。

 彼女達にも魔王領の状況を話すと、難しい顔になり、共に腕を組んだ。


「ワイル様、大丈夫かな……そんな危険な状況なのに、今は人間領に居るみたいだし……」

「人間領に?」

「ええ、なんでも、「面白そうな輩が居たから遊びに行ってくる」とのことで、領域の境に向かっているそうなのです」

「人間領側の方が行くのが楽だからって言ってたけど、むしろ逆じゃないかなぁ?」

「ディック救助の恩赦で、魔王側の手配は取り下げられていますからね。人間側はむしろ危険なんですけど」

「ワイルらしいと言うかなんと言うか……本当に大陸を股にかけて活動しているな、あいつ……」


 にしても、また出てきたな。人間領と魔王領の境。母さんが向かい、結核にかかってしまった場所だ。

 位置を考えると、人間領と魔王領、そのどちらにも病を広げられる場所ではあるな。シルフィもやけに気にしていたし……そこに何かがあるのか?


「ディックさん? どうかしたの?」

「あ、いや。なんでもない。それより、薬の件だけど」

「うん、準備自体は出来なくないけど」

「量が問題なのです。普通の難病ならいいのですが、人造の病ですと、世界樹の雫しか効能がないでしょうから」

「世界樹の雫?」

「うん。私達世界樹の巫女だけが作れる、あらゆる病を浄化する秘薬だよ。人工の病だろうと、この秘薬なら関係なしに治せるよ」

「ですが、一日に十滴しか作れないので、魔王領の人々を救うにはとても……」

「大丈夫よぉ! 成分さえわかれば私の創造で量産するから」


 メイライトがドヤ顔で胸を張った。でも……。


「複製は出来ません、悪用されないように、秘薬自体にコピーガードが施されているのです」

「成分もね、薬師に聞いても「意味不明」で返されちゃって、全然分からないの。だから類似品を作るのもちょっと難しいかも」

「あらららら……それは残念ねぇ……」


 メイライトはがっくりと肩を落とす。やっぱり、直接元を叩くしかないのかな。


「ですが、病気の進行を遅らせる事は出来るはずです」


 謁見の間に小柄なエルフが入ってきた。ラズリの想い人、ワードだ。

 ラズリと目が合うなり、互いに顔を赤らめ伏せてしまう。どうも、付き合いは上手くやれているみたいだな。

 ミハエル女王が咳払いで二人をいさめ、話を続けさせた。


「ワード大臣、何用で入られた」

「たまたま通りかかりまして、話は伺っていました。世界樹の雫でなくても、肺の病気を抑える薬ならエルフの国には沢山あります。それならば、メイライト様の力で増産する事が出来るのではありませんか?」

「ふむ……時間稼ぎだが、何もしないより遥かにマシだな。メイライト、頼めるか」

「もっちろんよぉ! 任せておいて、お姉さん頑張っちゃうから!」


 メイライトが張り切って両腕を上げた。とりあえず、魔王領が今すぐに全滅する事はなくなったか。

 けど、それでもリージョンの言う通り時間稼ぎにしかならない。

 解決するには、大本を叩くしかない。この病気を広めた奴が誰か知らないが、そいつなら特効薬を作る方法を知っているはずだ。


「ディックさん、顔恐いよ」

「ああ、ごめん。肺の病気は、僕が一番嫌いな病気なんだ。だから……何としても止めたいんだ。このパンデミックを、僕の手で」

「お母さまを亡くした病ですものね……痛いほど、気持ちは分かります」

「でもね、意気込みすぎてディックさんが病気になったら元も子もないよ。勿論、四天王の皆さんも。だから」


 巫女姉妹が、僕らに小瓶を渡してきた。丁度六本。魔王を含めた、主要人物全員分の薬だ。


「これが世界樹の雫だよ。ディックさん達が魔王領を救う希望なんだから、皆が倒れたらおしまいでしょ?」

「だから貴方達の身を守るために、持って行ってください」

「二人とも……ありがとう、恩に着るよ」


 このままバイオテロを放置していれば、魔王領の人々は全滅してしまう。

 その前に何としても、このパンデミックの元を断ち切らなければ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ