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142話 ミハエル女王からの褒賞。

仕事が終わったら、私とディックはすぐに帰宅する。私達の家なら誰にも邪魔されないから、心置きなく彼を堪能できるもの。

 帰宅直後から、ディックを押し倒して顔一面にキスをする。そしたらディックの方からも求めてきて、つい没頭してしまった。


『いい加減にせんか、どんだけ欲求不満溜っているのだ貴様は』

「あうっ!?」


 シルフィに脳天を突かれ、我に返る。あんたのクチバシ鋭いから痛いのよ。


『四六時中ちゅっちゅちゅっちゅ鬱陶しい、こやつが脱獄してからひと時も離れんではないか』

「そりゃ、離れられなくなるに決まってるでしょ。魔女に攫われてから、生きているかもわからない不安をずっと感じていたら……前よりもディックが大事に思えて、仕方がないのよ」


 彼と離れていたのは二十日間、ほんの半月程度だ。なのに、彼が居ない毎日は寂しくて、悲しくて、夜も寝れない程だった。

 だからかな、ディックを取り戻してから、彼がより好きになっている私が居た。ディックが居れば他に何もいらない、ディックと居る人生こそが、私の生きがいだ。

 もうディックと離れたくない、またディックと離れるようになったら、私はきっと自害してしまうだろう。それだけこの男に夢中になっていた。


『ディック、貴様も少しは拒否しろ。でないと調子に乗ってくっつきすぎるぞ』

「そう言われてもな、僕としてもこの状況は嬉しいと言うかなんと言うか」

『貴様もかっ、おのれ、見ていられんわ……』


 シルフィが呆れて飛び去ってしまう。でも嬉しいな、ディックは私の全てを受け入れてくれる。どれだけ甘えても、嫌な顔一つせず抱きしめてくれた。


「今日当番だから夕飯作りたいし、少しだけ時間を貰えるかい。後できちんと埋め合わせはするから」

「ん……名残惜しいけど、しょうがないか」


 流石にお腹は空くしね。それにディックのご飯が美味しくて、最近は食欲も増している。

 干しといた洗濯物を片付けている間に食事が出来て、幸せな夕飯が並ぶ。食事の間も彼に触れていたくて、つい足でちょっかいを出してしまう。


 そしたらディックも足を返してくる。軽く小突きあう感触がたまんない。


 駄目だ、彼がくれる全てがもう、心地よすぎる。もっと来て、もっと私を見て、抱いて。

 貴方が居ない世界なんて考えられない。ディックが居るから私の世界は色に満たされ、輝いている。

 もうあんな灰色の世界なんか見たくない。神様、どうかもう、私からディックを話さないでください。ずっと彼と、一緒に居させてください。

 また彼と引き離したのなら、絶対許さないんだから。


「来週、連休が被るね。久しぶりにどこか出かけないか? 人間側の情勢も落ち着いているし、一泊しても問題ないはずだよ」

「いいわね。ディックと一緒なら私はどこだっていい、絶対楽しいに決まっているから」

「そう言われるとハードルが上がるな」


 ディックは照れ臭そうに笑った。その顔が可愛いんだわ、これが。

 彼のいろんな顔が見れるなら、色んな場所に行きたい。たくさんの思い出を作って、忘れられない記憶を、沢山残したいの。

 ……だって、ディックは人間だから。私はあと二百年は生きるけど、ディックはせいぜい四十年くらいしか生きられない。

 だから、残された時間は、思いのほか少ないの。


『今度は憂鬱な顔をしてまぁ……ところでディックよ、貴様に届け物が来ていたぞ』

「届け物?」

『うむ、エルフの国のミハエル女王からな』


 女王陛下からディックに? そう言えば、エルフの国を守った礼に、いい物をくれるって言っていたような。

 シルフィが持ってきたのは、小さな木箱だ。中には薄緑の液体が入った瓶が収まっている。


「手紙も付いている。これは……!」


 文面を見たディックが驚いた。何が書かれていたんだろう。


「それ、何よ」

「うん……エルフにしか作れない、長寿の薬だ。人間の寿命を延ばしてくれる秘薬だよ」

「えっ」

『と言っても、エルフ並にはできないがな。伸ばすとしても、二百年くらいか?』

「ええっ!?」


 驚きのあまり素っ頓狂な声を出してしまった。ディックから手紙を受け取ると、ミハエル女王陛下から暖かい言葉がつづられている。


『シラヌイが気がかりにしているであろう、ディックとの寿命の差。これで解決できるはずだ。どうか、末永く壮健にあれ』

「……なんて、嬉しいご褒美なの……!」


 思わず涙が出てしまった。ディックは小さく微笑むと、秘薬を飲み下した。


「ん、あんまり変わった感じはないな。これで寿命が延びたのかい?」

『効果が出るのは明日以降だろうが、間違いないな。しかし、いよいよ人間離れしてきたな貴様。煌力に、覚醒した魔導具に、挙句長寿まで手に入れたか……イザヨイから聞いた通り、大した剣士に育ったものだ』

「そう言われると嬉しいな、母さんから言われた事が現実になったから」

『相変わらずのマザコンぶりだな』

「……ディック!」


 私はディックに抱きついた。寿命で彼との別れを気にする必要はなくなった、死ぬまでずっと一緒に居られる、これだけ嬉しい事はない!


「次のお出かけの時、覚悟しておきなさいよ! 私の受けた喜びを、嫌って言う程教えてあげる! 私がどれだけあんたが好きか、たっぷり教えてあげるから!」

「もう毎日教えて貰っているんだけど?」

「それ以上によっ!」


 もう涙が出そうになる程嬉しいんだから。あんたが嫌って言うくらい好き好きしてやる!


『はぁ……もうすっかり骨抜きになっているなこのサキュバス……だめだこりゃ』


 私の横でシルフィががっくりしていたけど、そんなの全然気にならない。だって、ディックがずっといてくれるんだから。

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