表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

137/179

137話 取り戻した最愛の人

『以上が、監獄での主達の様子だ』


 ハヌマーンから話を聞いて、私は驚いていた。

 色々衝撃的な話ばかりだ。フェイスが一時的に協力してくれた事は勿論、アプサラスの正体が人形に魂を移植された人間だったとか、二人が彼女を救おうとしているとか。だから手紙に、変な物を用意するよう頼んでいたのね。

 私は直接見たわけじゃないから、アプサラスには怒り以外を感じない。でも、ディックが助けようとしているなら、私は彼女としてサポートするまで。


「それにアプサラスを助ける前に、自分が助かりなさいよ……!」


 自分が一番危険な目に遭っているのに、人の事を気にしてばかりで……どこまで私を心配させれば気が済むわけ。


「見えてきたぞ、例の監獄だ!」


 ドレカー先輩が声を張り上げる。絶海の孤島に浮かぶ、岩の怪物のようなシルエットの監獄だ。

 あそこにディックが居るのね……そう思った時だった。

 突然監獄が砕けて、巨大な魔女が飛び出してきた!

 ディアボロスよりも遥かに巨大化している、確か傲慢の能力で体を自在に変形できるけど……背中から無数の腕を生やし、全身から大砲を露出させ、口を耳まで裂いた姿は、最早化け物だ。


「ディック、大丈夫なのディック!」


 目を凝らしてディックの姿を探す。そしたらがれきの中に二人分の影が見えた。

 刀を握った、黒髪の男……間違いない、あいつは、あいつは!


「ディック!」


 周囲の制止も振り切って、私は飛び出した。

 恐怖とかは感じなかった。ただひたすらに、ディックを助けたい。その思いだけで、胸が満たされている。


「ディックぅぅぅぅぅぅぅっ!」


 船首からジャンプし、私は翼を広げた。

 想いきりはばたいて、風を捕まえたら、飛べた。私、空を飛べた!

 今行くから、助けに行くから! だからお願い神様……私をもう一度、ディックと会わせて!


  ◇◇◇


 崩れ落ちてくるがれきを足場に、僕とフェイスは必死に魔女から逃げていた。

 まだ大きくなっていく。まるで山のように巨大化した魔女は、僕達を探しまわっていた。

 このままじゃ、押しつぶされて殺される。逃げようにも、逃げ場所が……。


『二人とも あれ なぁに? 船が空を 飛んでるよ』


 フェイスの懐で、アプサラスが指さした。

 そこには、海賊船の艦隊が浮かんでいる。あれは……ドレカーの船ハバネロだ。おまけに、ディアボロスまで連れてきている。


「来た……救援が来てくれたんだ!」


 ハヌマーンが連れてきた希望に、僕は一瞬気を抜いてしまった。

 足がもつれ、跳ぶのが遅れた。次のがれきに乗り移れず、落ちていく。


「捕まれ!」


 その僕の手を、フェイスが掴んだ。

 僕を持ち上げ、一緒にがれきへ飛び移る。フェイスはハバネロを見やると、


「ディック、てめぇは先に行ってろ。どうやら、迎えが来たみたいだからな。俺が心をこめて届けてやるよ」

「……君はどうするんだ」

「ディアボロスが来てるみたいでな、後で合流するさ」

「わかった、じゃあ、またあとで」


 フェイスは頷くと、エンディミオンを抜いた。

 その先端に乗り、フェイスのスイングに合わせてジャンプする。フェイスが飛ばした先には、僕の愛しい人が翼を広げている。


「ディィィィィィィック!」

「シラヌイィィィィィッ!」


 腕を伸ばし、彼女の手を掴む。もう掴めはしないと諦めた、彼女の柔らかい手を握りしめ、僕は涙した。


「シラヌイ……会えた、また、会えた!」

「ディック……本物なの? 本物のディックなの! 夢じゃないわよね!」


 互いの存在を確かめるように、僕らは抱き合った。


  ◇◇◇


 ディックがシラヌイと抱き合うのと同時に、俺も駆けつけてきたディアボロスに乗っかり脱出していた。

 全く、結局俺はあいつの引き立て役になっただけかよ。損な役回りだぜ。


『ばっはっは! 久しいなぁ勇者よ、会えて嬉しいぞ!』

「はっ、人がアンニュイな気分になってるってのに、相変わらずうるせぇジジィだ」


 ま、助けに来てくれた事は感謝してやるさ。

 感動の抱擁をしているバカップルを見やり、俺は肩をすくめる。ただまぁ、なんつーか、悪くない気分だぜ。


「……会えてよかったな、ディック」


  ◇◇◇


 ディックを堪能した後、私はハヌマーンを返した。

 彼は取り戻したけど、終わったわけじゃない。まだ、魔女が残っている。人形の魔女を退治しないと、またディックを奪われてしまうわ。


「シラヌイ、手紙に書いた物は、用意してあるかい?」

「メイライトに頼んであるわ。魔王様も手伝ってくれるから、あれを止めれば、すぐにでも実行できるはずよ」

「そうか……じゃあ、いよいよクライマックスだ」


 キリっとするのはいいけど、そろそろ限界……もう飛べない!

 落ちかけた時、ディアボロスが拾ってくれた。頭に乗っかると、フェイスも魔女を睨み、たたずんでいる。


『フェイス 私の中のあたしが 消えそうになってる このままじゃ あたしが消えちゃうよ』

「そんな泣きそうに喚くな。あの人形を止めちまえば解決する事だろうが」


 フェイスの懐に、魔女と同じ人形が収まっている。あの中にアプサラス本来の人格が居るのよね。

 ……どうしてフェイスが魔女を助けようと思ったのかは分からない。それに協力してくれるのなら、この上ない味方だわ。


「最後の仕上げだ。魔女を倒して、アプサラスを救出する。それで僕らの、完全勝利だ!」

「残った力全部つぎ込んで、絶対勝ってやる! 勇者の底力をなめんじゃねぇぞ!」


 二人の背中が凄く頼もしい。私も最後の力を振り絞ろう。


『よぉーし! そんじゃあここは、魔王様が一言さしあげましょう! 全員で総力を挙げ、人形の魔女を討伐せよ! ハッピーエンドで締めようじゃないか!』

『おおっ!』


 船から歓声が上がる。私も行こう、全部を終わらせるために!


「ハヌマーン!」

「エンディミオン!」

『行くぞ!』


 二人が魔導具の力を解放した。ディックは悪魔のような姿に、フェイスは天使のような姿になり、各々の武器を握りしめた。

 魔女の監獄、最終幕。何としても乗り越えるわよ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ