表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

117/179

117話 シラヌイはまだ、大丈夫。

『いっやー、やっぱりボロちん来たんだねぇ』

『ばっはっは! ワシは地上最強ぞ? すなわち地上で最も自由な男だぞ? 魔王領に来て何が悪い?』

『あっはっは! アポを取ってきたときはまさかと思ったけど、いやぁ改めて驚いたなぁ』


 ディアボロスを前に、魔王様は恐れる事なく相対していた。

 つい先日まで敵対していたから、あのドラゴンの恐ろしさは思い知っている。そんな奴が魔王城に来てんのよ、国の危機じゃないの?


「怯えるなシラヌイ。魔王様の言葉を聞かなかったか?」

「……アポを取っていた、と言ったな。つまりディアボロスは、来賓……という事になるのか?」


 確かに、事前に会う約束をしていたなら……相手の立場を考えれば国賓になるのか。

 って言われても、やっぱ恐い。デカすぎるのよこのトカゲっ。


『あ、恐がらなくていいよ。だってボロちんはケンカしに来たんじゃなくて、ディッ君探しを手伝いに来てくれたんだから』

『ええっ!?』


 これには四天王一同驚いた。この乱暴者が、ディック探しの手伝いですって?

 いやいや、あんたそんなキャラじゃないでしょ。どんな風の吹き回し?


『ばっはっは! 貴様ら、忘れてやしないか? 勇者も人形の魔女に誘拐されたのだぞ。ワシは奴の使い魔だ、それなら勇者を探す義務があろう。ディックとやらを探すのはそのついでだ。ばっはっは!』

「あ、そういや確かに……フェイスも誘拐されていたんだっけ」


 嫌いな奴だからころっと忘れてた。ディック、あいつに変な事されてないかしら……不安だわ……。


『人間どもはフェイスを探すつもりがないようだからな、ワシが動かねば奴は見つけられまいて。ばっはっは!』

「勇者を探さない? なぜ?」

『考えてごらんよ、勇者ってのは人間側の最高戦力だよ? なのにディッ君に何度も負けた挙句、エルフの国も二度にわたって侵攻失敗した。ここまで醜態をさらせば、最高戦力としての価値はもう無いじゃんか』

『左様。それどころか人間は、奴を罪人として手配するつもりのようでな』

「ええっ?」

『聖剣エンディミオンを奪った不届き者。今人間どもの上層部では、そのような誹りを受けていてな。近々手配書が出回るのではないか? まぁ仮に出たとしてもワシが先に見つけて保護してやるがな。あの勇者はこのディアボロスが守ってやるさ。ばっはっは!』


 なんでこいつ笑っていられるのよ。ドラゴンと人間は同盟を組んでいたわけでしょ?


「それ、やっていいの? 同盟くんでいるなら身柄を突き出す必要があるんじゃ?」

『ばっはっは! 同盟などとうに破棄しておるわ。弱き人間と組む理由などない、ワシはあくまで勇者に免じて手を組んだにすぎぬからな』

『うーん、相変わらずの傲岸不遜ぶりだねぇ』

『当然。人形に敗れたと言えど、ワシが弱くなったわけではない。ワシを従えたければ、力づくで手綱を握ればよいだけだ。勇者なき人間にそれが出来るかわからんがなぁ。ばっはっは!』


 言いたい事は多いけど、実際ディアボロスは強い。強いがゆえに自由な奴みたいね。

 そういえば、あの女どもは? フェイスの取り巻き連中はどうなったのかしら。


『あの娘らならとっくに人間領に逃げちゃったよ。それ以来行方不明。元々お金で繋がっていた仲だし、クズ勇者を助ける理由なんかないみたいだね』

『まぁこの場合の行方不明は、裏金の事実や勇者の醜態を隠すための口封じ、でもあるのだがな。ばっはっは!』


 ……成程、行方に関して、皆まで言う必要は無いって事か……。


「けど、あんたは本当に使い魔としての責任でフェイスを探すつもりなの? それに四星龍を倒した私達は、部下の仇でしょ? そんなのと一緒に行動するなんて、どういうつもり?」


『ばっはっは! 四星龍の事は気にするな、ドラゴンは弱肉強食社会、同胞が殺されようが、そいつが弱いのが悪いだけ、仇を憎むような真似はせんよ。そして勇者を助ける本音は……奴を連れ戻して再戦するためだ。奴ほど強い人間はそう居らなんだ、みすみす逃しては、我が渇きを癒す者が居なくなる! それにワシを軽くひねった人形の魔女も、勇者を圧したディックとやらも食ってみたいのでなぁ。ばっはっは! 喧嘩相手を取り戻すために喧嘩をする、まさしく戦の連鎖だ! ばっはっは!』


 ……とことんまでのバトルジャンキーめ。ただ単に喧嘩できそうだから参加するだけじゃないのよ。


『ともあれ、我らドラゴンは空から勇者を探す。こちらが得た情報を逐一教えてやるから楽しみにしていろ。それと魔王よ、この後一戦どうだ?』

『ごっめーん、ワシも忙しいから遊んでられないのさね。だから喧嘩はダメー』

『そいつは残念だなぁばっはっは!』


 笑うディアボロスを見上げ、不安になる。こいつ本当に信用していいのかなぁ。

 にしても、魔王軍、エルフ、ドラゴン、妖怪達に、ウィンディア人。改めて並べると凄い捜査線だ。

 これならきっと、ディックもすぐに見つかる。そう信じたいわね。


  ◇◇◇


 会議後、私はシルフィと一緒に通常業務を進めていた。

 本当はディックの捜索に集中したいけど、そうも言ってられない。私には他にも仕事が沢山、それこそ沢山あるんだ。


 にしても、やってもやっても終わらない。仕事って、こんなに時間かかったっけ?


「ディック、この書類……」


 口にして、思わず黙り込んでしまう。そっか、ディックが居ないから、仕事が終わらないんだ。

 あいつは、いつも私をフォローして、助けてくれていた。私が辛い思いをしないように気を回して、それで他の所にも手を出して……。


 私が疲れたら、まるで見計らったようにお茶を出してくるし。気分を変えたいときなんかも、絶妙なタイミングで話しかけて、リフレッシュしてくるし。

 はぁ……我ながら弱くなったわね。同時に、どれだけディックに甘えっぱなしだったのかを実感する。


「……しっかりしろ、私!」


 大丈夫! あいつが居なくたってやれるわ! こんなことでへこんでたら、余計な心配かけちゃうじゃない!

 頬を張り、気合を入れる。あいつの分まで仕事をこなさないと。サキュバスは根性! 寂しさなんか跳ね除けなくちゃ!


『空元気の時点で無理をしているだろうに。自分を追い詰めるような真似はするな』

「そんな事はないわよ、全然へっちゃらだもの」

『全く……仕方のない奴だ』


 シルフィはぱたぱたとどこかへ飛んでいってしまう。んでもって数分後に、


「はぁーいシラヌイちゃん。愛しのメイライト、ただいまさんじょーう」


 なぜかメイライトを連れて戻ってくる。

 メイライトはコーヒーの入ったポットを持ち込み、クッキーと一緒に机に広げた。


「シルフィちゃんからお呼ばれしてねぇ。シラヌイちゃんが無理してるから、ブレーキかけろって言われちゃったのよ」

「こら馬鹿鳥」

『ふん、無理をして倒れられたら、私としてもディックに合わせる顔が無いのでな』


 むぅ……んなこと言われたら怒れないでしょうが。

 まぁ、ちょっと行き詰っていたところだしね。ちょっとメイライトと話すか。


「この後残業して、捜索隊の資料をまとめるんでしょ。私も手伝うわよ」

「ありがと。でも適当なところで上がっていいからさ。私は暫く泊まり込むわ」

「やっぱり、無理する気満々じゃない。貴方こそ、無茶しちゃだめ。倒れたら元も子もないじゃない」

「……帰っても、誰もいないんだもの」


 メイライトはハッとする。ディックが居ないんじゃ、あの家は広すぎる。

 がらんどうの屋敷に一人で居るのは、心が痛むのよ。魔王城に居た方が、気持ちが落ち着くの。


「あいつが帰ってくるまでは、家に戻りたくないかな。むしろ仕事をしてた方が、ディックに近づいている気がして、すこしはマシだから」

「そう言う事なら、私も今日、一緒に泊まるわ。貴方を一人にしたくないもの」


 メイライトはそっと抱きしめてくる。やめてよ、普段ちゃらんぽらんなくせに、どうしてこんな時に優しくするのよ。

 ……決意が崩れちゃうじゃない。


「恐いのよ、あいつが見つからなかったらどうしようって、不安で仕方ないの。考えるだけで震えが止まらなくて、気を失いそうになるの」

「そう……」

「……もう大丈夫、ありがとう。改めてお願い。今夜、一緒に居て貰ってもいいかしら」

「勿論よぉ。ちょっとした女子会、しちゃいましょ?」

「助かるわ」


 メイライトに抱きしめられたおかげか、少しだけ寂しさが紛れた。

 今後も、ちょっとしんどい時には、頼ってみようかな。本当に、ちょっとだけ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ